作品集『フィフティ・イージー・ピーセス』収録作。第137回時空モノガタリ文学賞入賞。
(9章の1) わたしは、駅に行きたくなった。鄙びた温泉街の、単線の小駅。一日にたった数本だけしかやって来ないローカル線。そんな駅を味わいたかった。 乳母車を押している主婦に…
(第14話) 駅で内田と別れた依本はぜんぜん呑み足りなかったので、「大葉」の暖簾をくぐった。 いつもの壁際がうまい具合に空いていて、落ち着く場所を確保できたことに満足する。…
(8章の3) 田んぼの向こう、遠くに稜線がある。しかし黒い雲と繋がり、稜線との境目がなかなか判別できない。凝視して、多少薄く見えるところから雲だと、かろうじて分かる程度。雲は昼間…
(第13話) 3日後の夕方、内田が進捗状況を確認しに来た。 すでに3分の2まで書き上げている依本は、内心の得意気を隠しながら、プリントアウトした原稿を渡した。 しかし…
(8章の2) こんなにも感覚や意識がしっかりしている世界が夢だというなら、もしかしたら、現実の世界だって夢なのではないだろうか。わたしは自分の末に、一縷の希望を持った。このあと間…
(8章の1) わたしはずっと歩いている。「汗よ乾け」と念じていないので、全身汗まみれだ。この時代のシャツは吸水力が悪く、流れ落ちる汗でパンツまでもベトベトになっている。 小…
(7章の4) わたしはまた、ふと思いだす。以前に一度、夕日を見つめていて思ったことを。 もしかしたら自分は死ぬとき、夕日を見たくなるのではないだろうか。きっと死ぬ間際になっ…
(第12話) 謎の人物は伝説も生まれやすい。詠野Zにもいくつか噂があったが、その一つを抜き出すと、このようなすさまじいものだった。 それは詠野Zが、まるでタイピストが原稿を…
(7章の3) 翌日、点滴注射を受けているときに沢田が来た。腕の血管に取り付けた管にセットした大型の注射器を、医師が親指でゆっくり押す。赤味がかった液体が管を伝ってわたしの中に入っ…
合評会2017年12月 お題「最後の事件」参加作品です。 子どもたちに夢を与える作品を目指して書きました。 締切に遅れましたこと、お許し願います。
(7章の2) 契約を交わしたとき、夢の中ですごす環境を考えておいてくれと言われた。ようは、3日間を生きる世界のことだ。地域も時代も問わないという。さすがに他の星や深海など、およそ…
2017年12月破滅派合評会参加作品参加作品。新米探偵(ニュービー)最後の事件とは。
悪魔の初恋
少女は枠の中で燻っていた。
少女は森の中で目覚めた。
作品集『二十四のひとり』収録作。合評会2017年12月(テーマ「最後の事件」)応募作。
(7章の1) 病室から部屋を移され、機械が隙間なく並ぶ部屋で『業者A』の人間に囲まれることになった。いろいろな線を、そして管を、とっかえひっかえ体に付けられた。これが夢の世界に行…