自分は加害したつもりはなかったから加害ではないという人

おしゃれなコケシ

エセー

1,498文字

最近、気づいたことがあったので書きました。

娘の「中学家庭科」の教科書を何気なくめくっていたら、幼児保育の項目があり、このような旨が書いてあった。「幼児は主観しか持っておらず、客観的に物事をとらえる能力が未発達の状態である」。なるほど、だから「かくれんぼ」した時に頭だけ隠して体は隠れていない、という可愛い事態が発生するのである。自分の目線が隠れているので、他人からも隠れているはずだ、と。

その時、私はここ半年くらい分からなかったことに納得の答えが出た。幼児ではなく、元彼のことだ。直近の元彼Aはカジュアルなレイシストだった。カジュアルなレイシストというのは私が勝手にカテゴリー名を作ったのだが、SNSで悪口を書き込んだりするほど依存してはいないが外国人をうとましく思っている人間のことだ。ただのレイシストであるので、カジュアルとわざわざ付けなくてもいいのだけれども、そういう人間は明確に自分で選択した思想があるわけではないので、カジュアルと呼ぶ。

カジュアルレイシストが発覚した日。一緒に買い物に行き、入ったお店で外国人観光客が数人、買い物をしていた。普通だった。大人数でもなく、騒いだりもしておらず、そのお店は外国人観光客向けに外国語が話せるスタッフもいたし、ごく普通の買い物風景だった。しかし店を出た後、その外国人観光客について、彼が私にこう言ったのである。「なんで買い物してんだよ。わざわざ日本で買って持って帰るんか。帰るんだろうね」と。『あかん、こいつレイシストや、あかんわ』と思った。しかし、その日は1ヶ月ぶりのデート、しかも彼の誕生日だったので「あんたレイシストや。最悪」とは言えなかった。前から薄々気付いてはいたが、話をすれば軌道修正できると思いたかったし、白黒つけてしまうと別れが決定的になってしまう。その日の誕生日デートは円満に終わらせたかったのである。

でもレイシストは絶対に許せないので、デート後それぞれの家に帰ってからのやり取りの中で「あんなこと言われると、好きな気持ちも楽しい気持ちも吹き飛ぶくらい嫌だから、やめて」というのは伝えた。なぜ差別がいけないのか、というところからの話が必要かもしれなかったが、LINEのやり取りでは、とりあえずこれくらいだろうと思った。すると彼から返ってきたのが「悪口を言ったつもりはなかったけど、もう言わないようにするよ」だった。

悪口を言ったつもりはない‥? 私は全く意味が分からなかった。(買い物してるだけで、なんで買い物してるねんって、おかしいやろ‥。悪口っていうか、差別発言だけども)。結局、その後に彼とは別れたのだが「悪口を言ったつもりはない」が、ずっと引っかかっていたのである。なぜ彼はそんなことを言ったのか。

しかし幼児教育の項を読んで、やっと彼の気持ちが理解できた。「自分は思ったことを言っただけで、悪口を言っているつもりではない」という主観的な考えしか彼にはなくて、客観性が全くないのだ。相手にとってどうか、第3者が聞いてどうか、客観的な視点がないので「自分が悪口と思っていなければ、悪口ではない」と考えているのだろう。実際、彼は友人に絶交されたことがあり、その出来事を「自分は冗談を言っていただけなのに、相手がとても怒った。相手の捉え方が間違っている。相手側の問題だ」と話していたことがあった。それも考え合わせると、喉に引っかかっていた魚の骨が飲み込めたように、すっきりと謎が解けた。そして最近、見かける度に嫌な気持ちになるニュースについても、納得できる。「自分がそんなつもりがなかったから、そうではない」という人は、主観しかない。たまには中学の教科書も読んでみるものだ。

2024年1月24日公開

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