マッチングアプリ日誌5

おしゃれなコケシ

エセー

2,319文字

コケシが45歳でマッチングアプリ彼氏を作るまでの記録
―男性の気を引くプロフィール写真とは―

かくして〇inderを追い出されたコケシは次なる登録アプリの選定に入った。候補は二つ。マッチングアプリ師匠がメッセンジャーで教えてくれたWとPだ。マッチングアプリにはそれぞれカラーがある。婚活の色合いが強いもの(結婚式に特化した情報誌から派生したアプリや、マリなんとかという結婚を匂わせる名前のアプリ等)、婚活もありだが交際を目的とする恋活もありという中道派のもの、そして〇inderのように使い方の自由度が高いもの。婚姻に対するアプローチの濃淡により概ねこの三つに分けられる。〇inderは同性同士の恋愛マッチングにもよく利用されているし、同性の友達作りも推奨されているので婚姻縛りは弱いアプリと言えるだろう。

逆に婚活派と中道派は異性同士のマッチングしか対応していないので、一対一の異性間恋愛を前提として作られている。〇inderがアメリカ発祥でアジアにビジネスを広げてきたことを考えると、婚姻を推奨する婚活・中道派 vs 多様性を包括する〇inderという構図が見えてくる。世間では夫婦別姓についてさかんに議論されているが、そんなことよりも日本の性文化の閉鎖性を崩す黒船がすでにやってきていて、それは〇inderなのではないかとコケシは思った。

アプリ選びに際してコケシは婚活なぞは一切する気がなかった。「もう結婚はええわ」コケシも以前は結婚に対する理想を持っていた。ライフイベントを共有し、意見の違いをすり合わせて協力しながら一緒に年を経ること、それが夫婦だと。「そんなもん夢のまた夢やったな!」長年に渡り努力した末に敗れたコケシは結婚に対して一抹の希望も持っていなかった。好きな男と一緒に暮らす、それは楽しいだろう。しかしそれに伴い戸籍を一緒にする必要性はあるのだろうか? あるとすれば経済的な理由だろうが、コケシは経済的な利点をわざわざ捨て、野垂れ死ぬ覚悟で自由を手に入れたのである。「今さらわざわざ婚活するわけなかろうが」。

だからこそ婚姻色の薄い〇inderを選んだわけだが2200円をむしり取られてbanされてしまった。婚活アプリはやりたくないので中道派しか残っていない。中道派のWとPはどちらも変わらない気がしたがコケシはPを選んだ。Wは「心理学を用いた性格診断でピッタリの相手を選ぶ」という謳い文句でうさんくさいと思ったからだ。「そんなに簡単に導き出せる心理で判断されましてもね」。

Pの登録には〇inder登録に使用した写真を再利用した。一枚目は、最大限に腕を伸ばして上から撮った顔写真。上からの角度により縦方向の縮尺がゆがんでいる。また、マッチングアプリ師匠のアドバイス通り、全てを見せすぎないように目を閉じて撮った。これで美人かどうか判断しにくいだろう。「いけてるのか、いけてないのかどっちなんだ」と二度見させて男性の探求心を刺激する作戦だ。二枚目は座った状態で上半身が写った写真にした。体型の好みは重要だ。コケシは中肉中背なので、痩せてもなく太ってもいないことが分かるようにした。顔は映らないように、ただし鼻から下、口だけは入るように撮った。「口は顔の性器ですねん」チンパンジーのメスは発情期になると陰部が腫れあがり、手足をついて移動すると発情期であることがすぐに分かるという。人間のメスは二本足で歩くので発情を知らせるサインは見られない。しかし唇の赤さが陰部に代わるセックスアピールをしているのだという説を、コケシは何かで読んだことがあった。その説は与太話の部類だとは思ったが、口に生殖機能はないが性器の役割をすることもあるし、上半身だけの写真を見るよりも口角を上げたアルカイックスマイルとともにある上半身の写真の方がイメージが強化されると思ったのである。

顔写真をアプリでいい感じに加工するという手も考えられたが、コケシにはそこまでの気力はなかった。これだけ雰囲気が伝われば十分だろう。道端アンジェリカのような美人が好みの人間はコケシを求めないだろうし、逆に道端アンジェリカのような美人では気後れする、コケシのような日本コケシ的女を好む人間が集まってくるはずだ。

さて次はプロフィール文の入力だ。Pのプロフィールは自分で入力するフリーコメント欄と、あらかじめ設定されている質問に答える欄があった。質問内容は居住地、職種、身長、年収などのほかに中道派らしく、結婚に対する意志(すぐにしたい、2-3年以内、いい人がいればしたい、したくない)や子どもが欲しいかどうかという踏み込んだ項目もある。結婚を考えているのであればこの項目は重要だろう。せっかく交際までたどり着き親交を深めても、結婚したいかどうかのタイミングがずれていたら別れて一からやり直しになることも世の中には多いのだ。日常生活で出会ってええ感じになった場合、交際するかどうかの瀬戸際で「ところであなた、近々結婚は考えてます?」と聞くことはリスクが高すぎる。子どもが欲しいかどうかも「いやそれは、付き合ってうまく行ったら考える話では」となるのが通常だろう。しかしマッチングアプリであれば結婚出産という人生の重要項目について、自分の希望に合う人物をあらかじめ絞ることが出来るのだ。コケシはと言えば結婚も出産も自分にはもう関係がないと思っていた。「44歳って解脱できてラクやわぁ」産まないにしても、30代ならば生殖機能的にまだ有効なので迷いが生まれただろう。だがコケシは結婚出産はすでに手放した。実績解除、アンロックである。「チャレンジ要件ないからラクやわぁ」あとは結婚を求めている男を注意深く避ければいいだけである。

つづく

 

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2022年7月22日公開

© 2022 おしゃれなコケシ

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