なんでもない話1

おしゃれなコケシ

エセー

1,944文字

なんでもない日常生活をちょっと書いてみます。

現在45歳の私は小学生の息子と中学生の娘がおり、14年前に買った一戸建て住宅に4人家族で平穏に暮らしている。と見せかけて、実は夫とは離婚している。「実は奥様は奥様ではなかったのです!」なぜそういうことになっているか説明すると、どうしてもどうしても離婚したく元夫を説得して離婚したが、私も元夫も子どもと一緒に住みたかったのでそのまま一緒に4人で住んでいるのだ。そして子どもには離婚の事実をまだ告知していない。離婚前にはカウンセリングに行ったり無料の弁護士相談に行ったりしたが、どこへ行っても「離婚後も一緒に住むなんて聞いたことがない」と言われたのでイレギュラーパターンなのだろうと思う。一緒に暮らせる程度に我慢できるなら、離婚しない方が女にとって経済的に得だからである。家では適度に合わせつつ外で彼氏を作ってうまくやっている主婦など山ほどいるし、それが出来るなら圧倒的にそっちの方がお得だ。私もそうしようと思った時期があったが、徐々に心が死んでいくのを感じた。ほぼ壊死していた。離婚によって生き返った。良かった。

元夫とも離婚後の方がうまく行っているような気がする。結婚期間は16年くらいで交際を含めると20年程度を彼に費やしたことになるが、一切の料理を彼は拒否していた。「小学生でも調理実習で作るよ」と私がいくら主張しても「自分は料理はできない」と言い続けていた。しかし離婚に向けての話し合いで、なぜか「週の半分は彼が朝食を作る」ということになり(なぜそうなったか覚えていない。話の流れで)、実際に今、月曜日から水曜日までは彼が朝食を準備しているのだ。「やっぱり、やれば出来るんやん」20年言い続けていたのに出来なかったことが、離婚してやっと出来るようになったのである! 私に嫌われる前に、頑張っておけば良かったのにね……。

しかしこの月曜日から水曜日までというのが、時計のようにきっかり決められていて、融通はきかないのである。「私の仕事の都合があるので、今週は水曜を木曜日に変更して欲しい」などとは言い出せないほどに、離婚して2年間、月曜日から水曜日までのルーティンは崩されていない。生活に組み込まれれば出来るということなのだろうが、きっかりし過ぎていて、ちょっとこわい。そしてメニューも、家族の好みは考慮されずにずっとキャベツの千切りだ。キャベツの千切りと、豚の生姜焼き。キャベツの千切りと、アルトバイエルン。キャベツの千切りと、チンで温める鮭の切り身。元夫はキャベツの千切り信者なのだ。昔からキャベツの千切り信者で、私が料理を並べた瞬間に「野菜が足りないなあ」などと言っていた。かぼちゃの煮つけ、味噌汁に入っている玉ねぎ、わかめ。野菜はあった。だが彼にとってはキャベツの千切りのサラダこそが、野菜なのだ。

私はキャベツの千切り信者ではないので、キャベツの千切りをメニューに取り入れる必要はないと思っていた。キャベツのビタミンは水に溶けやすいし、食物繊維は摂れるだろうが大した栄養はない。何より作ってもらった料理を前に「野菜が足りない」と文句を言うなら、自分で用意すれば良いと思ったのだ。私はトンカツにしかキャベツの千切りは用意しない。かくして、彼は20年の時を経て念願のキャベツの千切りを用意するようになった、家族の朝食として。

彼の千切りの腕は上がった。今ではトンカツ店で出されるような、スライサーで作ったのかと思うほど細い千切りを提供するようになっている。前の晩に千切りにしておいて、ビニール袋に入れておくというテクニックも身に着けたようだ。ただ、いかんせん、誰も食べない。子ども達はキャベツの千切りが嫌いで、私が朝食後の片付けをすると必ず残っている。それを私は容赦なく捨てる。彼が切り刻み続け、私が捨て続ける。これは一体なんだ。「子ども達はキャベツ嫌いだから食べないよ」と進言すると、キャベツを変更するのではなく「出されたものを全部食べろ」と子ども達に要請する。この柔軟性のなさは20年間で嫌と言うほど見てきたので、私は正面からぶつかったりはせず「あ……あ……」とカオナシのような声を出して諦めるのみである。

しかし最近、彼にも変化があった。中学生の娘から、レタスの方が良いというリクエストがあったのだ。レタスの申請に最初は「出されたものを……食べろ」と言っていた彼だったが、ある朝、キャベツがレタスに変わっていた。「すごい、レタスになってる!」少々、感動した。娘のリクエストは父の心を動かしたのだ。ただ、レタスはちぎって出されるのではなく、3cm四方に包丁で切り刻まれていた。「これは……なんか、ちゃうね」と娘とゲラゲラ笑った。イレギュラーな家庭だけど今日もある程度、平和。

 

2023年1月4日公開

© 2023 おしゃれなコケシ

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