十九の断章で十九人の視点によりダブリンの街並みが移っていく。ディーダラスやブルームも登場するものの、通り過ぎる人間として扱われる。この街全体を描こうというジョイスの試みが現れている。
アリストテレスやマゾッホの著書が登場するのも面白い。本屋、教会の告解室、競売場、当時彼がどのような場所でどのようなものを見ていたのか、百年前の風景も文字によって喚起されるイメージは、当時のものとはまた違った趣きを持つだろう。それでもダブリンの情景を思い浮かべて読むことができる。はたして、これから百年後に果たして同じようにこの意味は解釈され得るのだろうか。
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