Theme(夕日と矢の試作)

多宇加世詩集(第12話)

多宇加世

1,196文字

Themeです。「無題」ではなく、それは私の中では必ず「主題」でおこなわれなければならなかった。

刺さる最初の矢は独房から放たれたのだ。陽射しのなかで羽を休める蝶を見たあとでだ。そして脇で眠る恋人を見、ベッドから出て廊下を歩き、玄関先に置いてある右足の靴と、ビニール袋の中のもう片方の足の靴を確認し、胸を撫で下ろしたあとでだ。靴は袋の中身と合わせて一足だったのだ。それを確認したあとでだ。春過ぎのその暖かな陽光はカーテンレールから暗い部屋の中わずかに漏れ、天井の一部分に、ほんの少しの一部分に照り、そこで私はもう一度木葉蝶を見た。そして、暗がりに、矢が描く線とゆくえを見た。つまり、すべては蝶を見たあとでなのだ。

私にはそう見えた。あなたには、夕日を射たあの矢や、これらすべてのことは見ることができなかった。この物語はすでに終わりしか見えないだろう。それは誰かの(本当に、本当の誰かの)手で目隠しされているからなのだ。それはでも、私も同様だったのかもしれない。これはあなたにとっての物語とも言えないし、私の物語ともいえない、癒えないと思う。ましてや、この物語には何人かの人物は登場するだろうが(恋人はすでに登場しているね)、彼らの物語であるかどうかも、怪しいものがある。

 

 

ベッド

眠る

 

 

ベゴーは言った。

「まだ撃っている、まだ射っている! どんどんどんどん矢を放っている! 矢が夕日に刺さっていく!」

そう叫びながら走り回った。そして立ち止まってこう叫んだ。

「殺されそうだ!」

ベゴーは気も狂わんばかりに目を大きく見開き、口からは泡を吹きだしていた。みるみる開けた口は大きく広がっていった。

私は叫んだ。

「ベゴー!」

 

 

夕日

昏睡

 

 

蜘蛛の日 街で

私とたった二人っきりになった

ベゴーが見つめてきた

抗うと逃げ出しそうだったので

その目を遮った

 

気温はどんどんどんどん上がっていった

蛇口からも灼けた夕焼けが出てきた

ますます私たち二人っきりであった

手で覆った

ベゴーの長い睫毛がくすぐったかった

 

遠くでついに夕日が殺された

花模様のスカートを

着た女性が遠くに見えた

先に見つけたのはベゴーだった

それは私の母だった

 

私とベゴーは目を遮られた

抗うと母は消えた

母は死んだ夕日を抱えて去って行った

だからこれからの蜘蛛の日は夕日が来ない

 

長い花模様のスカートを見つめていた私の

手からベゴーが消えた

「蜘蛛の抱卵」

消えたベゴーはそれだけ残して行った

 

 

捕える

 

 

ベゴーは言った。蜘蛛の夕日、と。私はベゴーの手を握り、彼もまた私の手を強く握り返し、二人で歩き出した。手はそこらじゅうにある。手で迷わないで、お願い。矢が放たれて夕日が殺された。私には見えた。私とあなたは暗がりで目隠しをされている。独房から、矢は放たれた。蝶を窓から逃がすと、恋人がそろそろ起きてくる。

2019年9月18日公開

作品集『多宇加世詩集』第12話 (全18話)

© 2019 多宇加世

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