混詩「新しき猿」 2018.11.11

混詩集 (第10話)

Juan.B

1,060文字

※世界の、ヒト含む森羅万象の交雑種に捧ぐ……全ての生命は交雑種であるが!

サルは幸せだった

いや特別な幸せではない

かと言って特別な不幸せもない

ただ普通のサルの幸せがあった

 

パパとママには少し違いがある

でもほんの少しだ

いや大きな違いかもしれない

でもそんなことは何でもない

 

手の爪がちょっと違うのかね

いやシッポかも

チンチンだったりしてな

毛のツヤも尻のテカリも

 

サルはサルだよ

パパと時々行ったり来たりして

ああママは昔の話を良くしたものだ

あんたのパパはちょっとキニナルマカクだったと

 

パパは南の島から船に乗ってやって来た

密航だがサルに法律なんか無いからな

ああこの島国は良いところだ

ちょっと寒いけど

 

サルはサルだ

仲良くもする争いもする

だがサルはサルだ

違いはない

 

偉いのはアイツ

俺を産んだのはママ

俺はサル

どこまでもサルさ

 

 

双眼鏡と図鑑を持った大きなオスのヒトサルがいた

違いの分かる男を気取ってる

いや違う

こいつは違いを生み出す男

 

だがサルはサルだ

昔はそこそこ仲良くしてくれたじゃないか

違うかい

俺は藪の中でそいつに問いかけた

 

交雑種!

これだからこの大きなサルは困る

喉に変な細工をして大きな声で騒ぐ

交雑種!

 

交雑種!

交雑種!

交雑種!

うるさいよこのヒトサルは

 

その図鑑よく知ってるぜ

そのマントヒヒのメス紹介してよ

ボノボの姉ちゃんと仲良くホカホカしたいナ

交雑種!うるさい黙れ

 

 

銃を持ったヒトサルが何人もやって来た

自分が一滴の濁りも無く純粋だと信じ込んでる目だ

サルはサルだ

俺はやぶの中で訴えた

 

判決文

被告猿 ニホンザルとタイワンザルの交雑種

我々の期待を裏切り研究を妨害し国土の自然と崇高な遺伝子を穢した罪により

死刑に処す

 

ああ火薬が臭い

だが俺は知っている

サルはサルだ

そんなものを持っていても偉くもなんともない

 

サルはサルだ

サルとサルが愛し合ってサルが生まれた

良いサルと悪いサルが混ざって変なサルが生まれたんじゃない

お前らだってどうしてそんなに背も顔も匂いも違うのに

 

サルはサルだ

サルは檻に入らない

サルはサルだ

サルは……

 

俺を追い立てた犬ときたら何て面だろう

やられる刹那に聞いてみた

ああヒトサルが無理やりに親をかけ合わせたんだね

パパはビーグルでママはシェパードか

 

ああ違いが分かるんじゃない

違いを作る

そして混ざり行くのを悪と言う

お前らのせいで

 

サルは死んだ

普通のサルが

何でもないサルが

それなりに幸せだったサルが

2018年11月11日公開

作品集『混詩集 』第10話 (全12話)

© 2018 Juan.B

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