月額五百円:ディレクターズカット

小林TKG

小説

7,000文字

今回はほとんどネットカフェDiceで書きました。

アマゾンプライムの改悪という話題がスマホのグーグルクロームのディスカバリーの所によく出てくる。

確かに私もそれを受けたときは、ゾンプラの改変があったときはやめようと思った。二千二十二年十月に発生した件だ。プライムミュージックは追加料金を払わない限り聞きたい曲を聞かせてくれなくなったから。例えば、

「水カンのチャイコフスキー聞こう」

ってチャイコフスキー押してもチャイコフスキーじゃない曲が流れる。

それどころか、水カンですらない曲が流れる。何それ? ロマン派の神様どうもありがとうは?

また親戚の子供、姪とか甥とか位かわいく愛してやまなかった内さまが彼の地で最終回を迎えた。うああああ。ってなった。

しかし、しかしそれでも私は、僕は、僕にはゾンプラをやめるという決断は出来なかった。

 

アマゾンプライム特典の中には誰にも知られていない、気が付かれていないあるサービスが存在する。

本当に誰も、誰にも気が付かれていないのではないかと思う。

実際そういうニュースが、話題が、ディスカバリー等の場所に出たのを私は見た事がない。

そのサービスというのは、『短時間制ブレサリアン化』というものだ。ブレサリアンというのは、まあ、端的に言えば呼吸と日光浴だけで生きてる、生きる人間の事を指す。ベジタリアンやらフルタリアン等の上位存在と考えてもらえればいい。

アマゾンプライムにはこういった特典、サービスがある。彼の地で内さまが始まったのと同時期くらいから。

 

ただゾンプラが提供するサービスは、それは通り一遍にブレサリアンになるというものではない。それをもっと簡略化したもの。

例えば、最大で八時間、ブレサリアン化することで丸一日絶食などの補助となり、胃腸の働きを助けたり、体調を整えたり、そういうサービスだ。

それを利用するにはまず設定を行わなくてはいけない。

まず、何でもいい、ブラウザからアマゾンに行く。そしてアカウントに入る。

そこから更に詳細な自身のアカウント設定に入る。パスワードを求められるので入力する。そうして切り替わったアカウント詳細画面の下部にその項目がある。最初は当然の事ながらOFFになっているので、ONにする。そうするとなりすまし防止か何かの為に設定しているアドレスにメールが送信される。メールを開いて、はい、本人です。を押す。

それ以降はスマホのブラウザで、ちなみにゾンのアプリではこの機能は使えない。キンドルの本がアプリで買えないのに似てる。

スマホのブラウザで開くアマゾンページの最下層、言語設定の横に、その項目が出現する。

ONにすると、時間を設定してください。というのが出る。最大で八時間。最短で十五分。時間設定をしたら、あとはブラウザ上部にある検索バーの所にある、アマゾンレンズで自分のことを撮影する。インカメラに切り替えて撮るのがいいだろうと思う。すると意識が途切れ、気が付いた時には設定した時間が経過している。

私は、僕はこの機能に助けられたことがある。

 

五年務めた職場を辞めて一旦実家に帰省したが、どうにも体調がそぐわなかった。

職場は二十四時間稼働している工場だった。週ごとにころころと変わる出勤時間。また常時パチンコ屋の様な騒音環境が私の神経に幾ばくかの影響を及ぼした可能性があった。あったのかもしれない。

同期や先輩、後輩なんかは皆して、皆がパチンコやスロットに興じていた。僕はそれもしなかった。

工場以外であんな五月蠅い所に行きたくなかった。行くと工場を思い出した。吐きそうになった。

そうしているうちに自分には縁遠いと思っていた孤独感、焦燥感のようなものが染み出すように徐々に広がっていった。常に誰かに追われているような感覚。でも五月蠅くて、耳の中では常に工場のあの音が、大きな音が聞こえていてそれが、危険が迫っていてもわからない。誰かに追われていてもその音が聞こえない。

会社を辞めても、何もやる気が起きず、また働こうという思いが生まれなかった。働かなくてはと思うと、緊張したり、汗が噴き出したり、目が回って立っていられなくなったりした。目を瞑ればたちまち工場の騒音が耳に蘇る。そうすると自分の意志と関係なく手が震えるような有様だった。

寝ようと思っても眠れない。寝ようとすると否応無しに騒音が蘇る。次から次に不安が押し寄せてきた。あーでもないこーでもないと、そんな事、考えたくないのに頭の中を不安で満たされる。並々と満たされる。私がその会社に勤めていた頃の世間では、まだ、まだまだそういうもの、そういったものは甘えという考えが強かったように思う。熱中症や、アレルギー反応やらと同じで。

私、僕自身そうだった。医者に行こうにもどうして説明していいのかわからなかった。これが何なのかわからなかった。毎日ただ内さまを繰り返し観ていた。

そんな時に、偶然アマゾンにそれを、ブレサリアン化のサービスを見つけた。そしてどうしてそれに手を出したのか、自分でも全くわからない。

その時の私は、僕は何か寄る辺を求めていたんだろうと思う。何か掴まれる場所を。あとまあプライム特典に含まれていたっていうのもあるし。

それから記憶には一切ないけども、所定の手順を踏んで設定を行った。時間の設定をして、それで、それから自分の事をゾンレンズで撮影した。

その瞬間、

 

 

意識を取り戻した時、六時間が経過していた。

幾分か、幾分か気持ちが楽になっていた。楽になっているような気がする。した。窓の外を見ると、夕方になっていた。外からオレンジ色の光、残照とでもいうのか、が部屋の中に差し込んでいた。部屋のカーテンはずっと開いていた。いつ開けたのかは覚えていない。誰が開けたのかも覚えていない。母親かもしれない。夕日、太陽にしても最後に見たのは何時だったか、覚えていない。久々に目に、視界に、意識に入った夕日はとても大きかった。

それからすぐにもう一度、ブレサリアン化しようとしたが、非情にも六時間以上の使用は一日一度しか出来ません。と撥ねつけられた。日付が変わるのが待ち遠しかった。それまで久々に階下に降りて、父と母と一緒にご飯を食べた。

夜、日付が変わってから、今度は八時間のMAXでブレサリアン化のサービスを使用した。

自分の事をゾンレンズで撮影した瞬間、まるで刈り取られる様に意識を失った。

次に目を覚ましたらもう朝で、すっきりとした、清々しい気持ちで目を覚まして、布団から体を起こすと、部屋の中に母親がいた。母親は部屋の隅に座り込んで泣きながら私の事を見ていた。

「よかった。友成が死んだのかと思った」

母はそう言った。

どういう事か尋ねると、母親は自分のスマホで撮影した写真を見せてきた。

「うあ、これが俺か? 」

写真の中の私の、僕の顔、首、布団からはみ出した手、足が真っ青に変色しており目は白目をむいていた。写真の中の自分はまるでゾンビのような容貌になっていた。

 

それについてアマゾンのブレサリアン化の説明を読むとこう書かれていた。

『本サービス使用時は、使用しているということをわかりやすくするために、そのような仕様にしております』

危ないものは危ないと書いたり、色味を派手にする。そういう事なんだろう。

『沈殿している成分が固まったりしていますが商品には一切の影響がありません』

みたいな事だろう。私は面白くなった。

その後、泣き止んだ母親を連れて階下に降り、父と母を前にしてアマゾンの例の特典の事を説明した。それを終えると両親は、

「なんか気持ち悪い」

と感想を述べた。私は、僕はそれさえも面白く感じた。

でも一つ、ブレサリアン化という単語がしっくりこない。ブレサリアンじゃないし。

だから代わりに、アマゾンビ、アマゾンにかけて、アマゾンビ化と呼ぶことにした。

家族の中でそのサービスを使うのは私、僕だけ。僕はそれを使用するごとに元気になるような気がした。

それを使用する度に日増しに、余計な事、不安が頭の中から、耳とか鼻の穴とかから出ていくような感じがした。

そうしてやがて、いくら目を瞑っても工場の雑音が聞こる事も無くなった。やがて、そのサービス、アマゾンビ化が無くても安寧に夜眠れるようになった。

それでも私、僕は毎日アマゾンビ化を利用した。青くなった自分が面白かった。

そんな風に過ごしているうちに、ある事を考えた。それを思いついた瞬間、階下に降りて母親にその事を尋ねていた。

「ねえ、確か死んだばあちゃんが山もってたって言ってたよね」

 

五年務めた工場、会社を辞めた際の退職金は大したことない額だったが、それを全部実家に収め、それとは別に財形で勝手に貯まっていた金を全部持って一人ばあちゃんの家に行った。ばあちゃんが死んだ以降だれも住んでいない。無人の家。傾いている気がする家。御所野イオンで調達した諸々をそのばあちゃんの家の玄関のかまちに置くと、リュックを背負って山に向かった。

 

「フィトンチッドしたい」

雑草の生い茂る山道を歩きながらそう思った。フィトンチッドというのはまあ、平たく言えば森林浴のことだ。森林浴はいいらしい。何がどういいのかは知らない。でもとにかくいいらしい。私、僕の頭の中にある時、

「フィトンチッド中にアマゾンビ化したらどれくらい素敵だろうか」

という想いが湧いた。その思いに突き動かされた。

「でも大丈夫かなあ」

山の中を進んでいく中で、もう一方の私、僕が思った。山の中にゾンビみたいなのがいたりして、大丈夫かなあ。たまたま猟銃を持った人が居たりしたら撃たれないだろうか。いや、でもやりたい。それでもやりたい。フィトンチッド中のアマゾンビ化。どうしてもやりたい。

山を登る自分の足取りは信じられないくらい軽い。自分の足じゃないみたいだった。スマホのアンテナを確認すると、アンテナはまだまだ余裕で立っている。ビンビンに立ってる。さすがドコモだ。さすドコだ。

そうしていい場所を探しつつ山を登っていくと、

「小屋……」

山の中にポツンと小屋が建っている。母親から聞いた聞いた話を思い出す。

「大したもんじゃないけど、山の中腹に炭焼き用の小屋があったの。まあ、私が子供の頃にやめちゃったらしいけど」

それがこれだろうか。母親が子供の頃なんてもう何年前の話だろうか。それでもまだ建ってる。ばあちゃん家以上に朽ちているけど。

 

小屋の戸を開けると中に女の人が居た。

「え、何」

女はこちらを見て驚いたように少し飛び退いた。私、僕も驚いていた。え、あ、言葉に詰まった。

それから少しの間お互いにどうしたもんかと立ち竦んでいたが、女が突然、

「え、あれ、友成君じゃない」

と、言った。え、なんで、あ、佳奈美さんですか。そこにいたのは母の兄の息子の奥方、佳奈美さんであった。結婚式の時の写真と、年賀状の写真で朧気ながら、見た記憶がある。あるといえばある。

彼女はわざわざ他方、都会から仕事を辞めてこの地に嫁いできた。今時異常な、狂っているといってもいい。そういう御方だった。

「こんな所で、何しているの」

佳奈美さんは心底驚いていた。

父も母も、両親は私、僕が会社を辞めて実家に戻っていることを誰にも言わないでいたらしい。言わないでいてくれたのか、あるいは世間体なのかは知らない。

「えーっとその」

僕はとりあえず自分のリュックから買ってきたレジャーシートを出して床に敷いた。それに座ると、佳奈美さんも横に座った。あとお茶とかも出して、それを一口飲んでから、それから少しだけ話をした。

「そう、そら大変だったね。パニック障害じゃん」

話を終えると、佳奈美さんはそう言った。パニック障害。ああ、そういうの聞いたことあるなあ。でも、自分がそれっていうのはどうなんだろう。そういうのなのかなあ。考えたこともない。なかったなあ。

「佳奈美さんはどうしてここにいるんですか」

自分の話を終えると、今度は佳奈美さんの話を聞いた。

彼女は、ずっと家にいると息が詰まるとの事で、時々ここに来ていたらしい。まあ、無くはない話だと思った。田舎の、二世帯とかじゃない、一緒くたに暮らしている田舎の、封建的で保守的な田舎の話。こういう田舎にはよくある話だ。ありすぎる話だ。熱中症とかアレルギー反応みたいに。

「そういうのわかってて来てくれたんだと思ってました」

素直にそのような感想を述べると、

「ここまで、そうとは思わなかったよね」

佳奈美さんはそう言うと俯いて力なく笑った。脱色しているセミロングの髪が垂れて口元にかかった。

旦那さん、茂さんとの間に子供でも居ればまた違うのかもしれないけど。いや、どうだろう。変わらないかもしれない。わからない。

 

二人とも話し終えてしまうと言いようのない空気が流れる。佳奈美さんから乳液かファンデーションか香水か化粧品か何かのにおいがする。した。

私、僕もなれない山道を歩いてきて汗ばんでいた。それが急に気になった。気が気じゃなくなってきた。

 

気が付くと二人して座ったまま抱きあって口を吸いあっていた。佳奈美さんは茂さんとそういう事をしていたんだろうと思う。僕は風俗に行ってそういう事をした事があった。でも、それを佳奈美さんとやるとは思っていなかった。

口を放すと、上気したような顔が目の前にあった。佳奈美さんだった。それから佳奈美さんはその態勢のまま谷底を覗くように下を見て、僕の履いているズボンの上からチンポを触った。撫でる様に。子供の背中にヴェポラップでも塗るみたいに。自分の顔が、僕の顔は今たぶん耳まで赤くなっている。そう思った。佳奈美さんを見ると、笑っていた。幼稚園児にするような顔で笑っていた。

僕は立ち上がって両手を水平に上げた。

佳奈美さんが僕のズボンとパンツを下した。長い間、存在すら忘れていたチンポが痛いくらい勃起していた。佳奈美さんも立ち上がると自分が着ていたスウェットのフロントジッパーを下した。それから下も。

 

「友成君はいつまで居るの」

佳奈美さんが服を着ながら言った。

「とりあえず一週間くらいは、ばあちゃん家に居るつもりです」

時間を確認しようとスマホを見るとそこでもちゃんと電波が、アンテナが立っていた。それを見てある事を思いついた。

「佳奈美さん、明日も来れませんか」

「え……」

とってもいいものがあるんです。騙されたと思って試してみませんか。

 

翌日、再びその小屋に来てくれた佳奈美さんにアマゾンビ化の事を教えた。

「ふーん、そんなのあるんだ」

佳奈美さんもゾンプラの特典にそういうのがあるというのをはじめて知ったらしい。

それから、時間を三時間に設定してゾンレンズで佳奈美さんの事を撮影した。

佳奈美さんは炭焼き小屋に立ったまま、意識を失い、肌は青くなって、目は白目になった。

「青い」

初めて僕はそれを見た。自分以外でそのサービス、特典を使ったことが無い。母親が撮った写真を見たりはしたが、なんか現実味が無かった。

でも、

「本当に青い」

佳奈美さんが青い。それを見ているとチンポが勃った。昨日にも増して勃った。

立ったまま青くなって意識を失って白目をむいている佳奈美さんの、その日も佳奈美さんは昨日の装いとは違って、ワンピースみたいなのを着ていた。下が、裾のあたりがふわりとした。昨日はパンツスタイルだったのに。

その裾を捲り上げると彼女の履いていたパンツを膝のあたりまで下げた。

「ここまで青い」

それから立ち膝になって露になった割れ目に指を入れて広げた。

「ここは」

中は赤黒い。中は赤黒い。普通なんだ。

立ち上がって青い佳奈美さんの口を両手を使って開ける。口の中も赤黒い。口の中も赤黒いままだ。

表面は青いけど、中は赤黒いままなのか。

再び今度は立ったまま割れ目に指を入れた。そのあと立ったままの佳奈美さんに、アマゾンビになって、意識がなくて、白目をむいていて、何をしても反応の無い、表面は青いのに中は赤黒いままの佳奈美さんにチンポを入れた。何度も入れたり出したりした。口の中にも手を入れた。舌を引っ張り出してそれをフェラするみたいにしゃぶった。

あとやってる途中で思いついて、dヒッツで水カンのチャイコフスキーを流した。ロマン派の神様どうもありがとう。ロマンスの神様どうもありがとう。そう思った。

 

それから暫くして二千二十二年十月、プライム特典内容の改悪があったけど、アマゾンビ化、ブレサリアン化のサービスは今も残っている。ただ、若干、使用の条件が厳しくなった。利用者は写真をアマゾン上にアップして、これは家族、これは親、子供とか、そういう紐づけ、免許書を撮影して提出、そういう証明みたいな事をしなくてはいけなくなった。

それでも、今も僕はアマゾンプライム会員を続けている。

もう今は、アマゾンビ化、ブレサリアン化のサービスも利用してない。

内さまも終わった。ネットフリックスに移行した。

でも、続けている。

アマゾンプライムにこのサービスがある事を知ってる人はいまだに少ない。居ない。居ないかもしれない。

佳奈美さんの家からは今も毎年実家に年賀状が届くらしい。母親がそれを写真に撮ってLINEで送ってくる。写真には旦那さんの茂さんと佳奈美さん、それから子供が映っている。みんな楽しそうに笑っている。

2023年3月18日公開

© 2023 小林TKG

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