船にのる

かきすて(第35話)

吉田柚葉

小説

1,727文字

いい加減寒くなってきたと言って良いのではないでしょうか。

単位はとりおわっていたので、あと半年は大学にいかず、すきなところで修士論文を書けばよかった。

あつい日がつづいて、家にこもりがちになった。

生来のめんどうくさがりのために、ろくろく先行論文に目もとおさず、中古で買いそろえた『中村真一郎小説集成』を懶惰によみすすめていた。どの作品もさしておもしろいとおもえず、活字が目をすべりつづけた。

昼すぎに目ざめて、コンビニの弁当をたべて、小説をよみ、数行だけ論文を書くと、インターネットににげ、またコンビニの弁当をたべて、数行だけ論文を書く、だいたいはそのくりかえしだった。

ロジックもなにもなく、思いつきで些末な断定をおこなっては結論をあとまわしにする、そんな酒に酔った文章を、羞恥にさいなまれながら義務としてまいにち書きつづけた。

アリバイをこしらえるだけの日びである。書きたいことなんぞなにもなく、つまりはたいして生きたくなかった。

うつっぽかった。

おまけに、中村真一郎もうつっぽい作家だった。中村は頼山陽の評伝を書いており、その理由は頼山陽にうつの気があったからとのことだが、そういう共鳴がペンをうごかすこともあれば、つよくあたりすぎてペンがとまることもある。

ある日、いよいよぼくのペンはとまった。どうしようもなくなって、実家にかえることにした。

2021年11月6日公開

作品集『かきすて』第35話 (全40話)

かきすて

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© 2021 吉田柚葉

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