税金を、はらう。

かきすて(第34話)

吉田柚葉

小説

1,995文字

税金を払いに行く話です。特に言うことはありません。

なんというなまえの税金なのかは分からないが、ともかく、未納だということで納付書が届いた。コンビニではらってくれとのことだ。

うっかりしていたら、期限が明日にせまっていた。めんどうなので銀行引落しにしようとおもったが、いま申請しても来期からの反映とのことで、その来期というのも、再来年の何月からと、やけに気がとおくなった。

奈良にあそびにいくついでに、駅まえのコンビニで支払った。三万円ほどのことではあるが、むねのつっかえがとれた。

駅まえは商店街になっていて、おおくの人でにぎわっている。路上ライブをしているわかい男がいたので、見るともなく見た。

四歳くらいの女の子が、どこから走ってきたのか、ぼくのとなりで、路上ライブを見はじめた。すこし経って、母親らしき女性が来て、女の子に「いくよ」とうながしたが、女の子はそれに応じない。

ちょっと肥えた女の子だ。頬がかわいい。金子光晴の自伝で、かれが幼少のみぎり、同い年の丸顔の女の子の頬が歩くたびにぷるぷるふるえるのを見て、「食べたい」という衝動にかられたという一節があったのを思いだした。

いかにも金子らしい、というほかない。最愛のひとのうんこになりたいとか、いや、うんこになってしまったとか、そんなことを書く男にそうおうしい初恋の感覚である。しかしあんがい、そういうものなのかも知らん。ただ、その感覚をわすれない、その尋常ならざる記憶力が、あの天才詩人の天才たるゆえんだ。

2021年10月23日公開

作品集『かきすて』第34話 (全40話)

かきすて

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© 2021 吉田柚葉

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