仙人

かきすて(第44話)

吉田柚葉

小説

2,415文字

最近、書き終わってからタイトルに困ることが多かったのでタイトルをつけやすいものを書きました。

昼はハンバーガーをたべたいというので、マクドナルドハンバーガーに仙人をつれていった。仙人は、Tシャツにジーンズといういでたちで、すっかり日本にとけこんでいる。

ぼくと、仙人と、通訳者の男の三人で行った。

あらかじめくるまのなかで仙人のたべたいものをきいておいて、モバイルオーダーで注文した。仙人はビッグマックがたべたいとのことだった。

われわれは四人がけの席についた。うまくたべられるものか、と心配したが、仙人はボロボロとこぼしたりすることなく、まるで手なれたものだった。

「上手ですね」

とぼくが言うと、りちぎにも通訳者が訳してくれて、仙人はなにやらポツポツとつぶやいた。通訳者によると、

「わたしが修行にはいるはるか以前から、ハンバーガーはそんざいします」

とのことだった。つまり、仙人もある時期まではハンバーガーをたべてそだったのだ。

店をでると、仙人はさんぽをしたいと言いだした。駐車料金が気になったが、仙人のやりたいことをさせることにした。

新宿のまちは、ひとであふれかえっていた。仙人が人酔いをしなければよいと思ったが、仙人の足どりはかるい。

ちょっとあるくと、ひとだかりができていた。仙人はつかつかとその人だかりにちかづいていった。

若ものたちが、金髪の男をかこんでいた。わかものたちは、その金髪の男と、写真撮影をしたがっているらしかった。金髪の男に見おぼえがあった。たしか、有名な動画配信者である。

仙人がなにか言った。通訳者は、

「あれはだれですか」

と訳した。

「有名なユーチューバーです。じぶんで動画を撮ってネットにアップロードしていて、とても人気があります」

とぼくはせつめいした。仙人は納得したらしい。

興味がなくなったらしく、仙人は足をすすめた。

仙人は健脚である。ふつう、歳をとると歩幅がせまくなるものだが、仙人は大股で、いっそがに股であった。やけにオラついたあるき方をする。

仙人は、みちのまんなかでとつじょとして立ちどまり、

「タブレットがほしいです」

と言った。ぼくはヤマダ電機に仙人をつれていった。仙人は店員のすすめのもと、最新のアイパッドをぼくの会社の金で買った。

「これでインターネットをみたいのですが」

と言うので、ワイファイのつながるところということで、スターバックスコーヒーにつれていった。仙人は季節もののフラペチーノをのみながら、熱心にユーチューブを見ていた。イヤホンがないので、音がだだもれになっていた。周囲の客が奇異の目でそれを見るなか、ぼくはひやひやしながら仙人をみまもった。

仙人がなにかつぶやいた。通訳者は、

「さっきの金髪のわかものにもういちど会いたいな」

と訳した。だしぬけにため口になったので、ぼくはまずそこにおどろいた。

「おそらく、もうどこかに行ってしまったのではないかと思うのですが」

とぼくは言った。

「さがそう」

と仙人は言った。そこからぼくたちは、夕方までまちをあるきつづけた。金髪の男はみつからなかった。仙人の要望でぼくたちは大衆居酒屋にはいった。

はいってすぐに異様さをかんじた。羨望と興奮の成分をふくんだざわめきである。もしやと思った。奥の席に通されると、その二つとなりの席でくだんの金髪の男が食事をしていた。金髪の男がすわる四人席にはほかに四人のわかい女性がいっしょに食事をしていて、金髪の男は手もとのスマートフォンでその様子を撮影しているらしかった。

仙人は通された席につかず、金髪の男にちかづいていった。通訳者もあとにつづいた。なので、ぼくもあとにつづくことになった。

仙人がなにかつぶやいた。通訳者は金髪の男にさらにちかづき、おどろく金髪の男にむかってなにかをつたえた。金髪の男は、

「え、マジで」

と驚嘆し、

「あの、なんか急にね、えらいチベットの仙人とかいう、あやしい人がきて、あの、うつします」

などと言った。金髪の男のとなりにすわっている若い女がちょっと席をはずし、金髪の男が仙人を手まねきした。

仙人は金髪の男の画面に登場した。サムズアップして、

「ジャパンサイコー」

と絶叫した。

「ほんとに仙人なんかはわかりません」

と金髪の男はバカ笑いして言った。

仙人はそのことばをむしして、席をはなれた。で、さいしょに通された席についた。

仙人はたらふくたべて、たらふくのんだ。もはや金髪の男にはすんぶんの興味もないらしく、一瞥もくれずに店をあとにした。

店をでてすぐに、仙人は、

「女に会いたい」

と言いだした。キャバクラにつれていってくれとのことらしかった。ぼくは会社に連絡して、仙人を銀座の高級クラブにつれていく許諾をとった。

移動のくるまの中で仙人は饒舌だった。

「さっきのユーチューバー、生配信してたけど、今ごろおれのことでバズってんじゃない」

などと、どこでおぼえてきたのかわからないネット用語を駆使した。通訳者は、スマートフォンをひらき、

「バズってますね」

と言った。

「だろ」

と仙人はほくほく顔だった。「バズってますね」と、「だろ」のやりとりは、すべて通訳者の口からでたものなので、通訳が悪ふざけで若ものっぽく意訳しているのではないかと思われたが、仙人のトーンはアメリカのパリピのそれにちかく、いかにも「だろ」と言ってそうだった。

高級クラブについた。仙人は美女三人にかこまれて、

「おれ、今ネットでバズってんだよ」

と言った。通訳はスマートフォンで美女たちになにかを見せた。美女たちは、

「わー、すごーい」

と言った。高級クラブと言っても、とくべつ高尚な反応をするわけではなく、「わー、すごーい」であることに、すこしおもしろみを感じた。それを言えば、仙人の方がよっぽどなのだが。

「マネージャーさんですか」

と一番若そうな女性がぼくに問うた。

「いや、編集者です。この方にインタビューして、本を出すんですよ」

とぼくはこたえた。

「どんな本なんですか」

とつづけてきかれたので、

「高尚な本です」

とこたえた。仙人のバカ笑いが店内にひびいていた。

2021年11月27日公開

作品集『かきすて』第44話 (全46話)

© 2021 吉田柚葉

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