ソーシャルディスタンス人間

破滅派第16号原稿募集「失われたアレを求めて」応募作品

曾根崎十三

小説

10,030文字

全部新型コロナウィルスが悪いのだ。
いや、そうでもないかもしれない。いや、そうでもあるかもしれない。
狭い世界の世界の全て。
さみしい人のさみしい話。

男が電車内で奇声を発している。がたんごとん、に合わせてがたんごとんしている。こんなに空いているのになぜか私の隣に座った。うるさい。鬱陶しい。がらがらの中、わざわざ私の隣に座ったのでよほど私に興味があるのかと思ったが、どうやら興味があるのは私ではないらしい。チラリとも見ない。なぜなんだ。この席はいつも彼が座る特等席だったのだろうか。近いぞ。お互いにマスクを付けているのに呼吸を感じる。近すぎる。キスできる距離だ。おえ気持ち悪い。とはいえ、反対に、電車に乗っていると私の隣だけ誰も座らないこともある。立っている人もいるというのに誰も座らない。よくあることなのだろうか。皆そうなのだろうか。ないと言われたらそれで終わってしまう。そうですか、で終了。私は悪臭でも放っているのだろうか。自分では気づいていない何か重大な問題があるのだろうか。その時の言い様のない寂しさに比べたらアレな人が隣に座る方がマシかもしれない。耳につけたイヤホンで男のがたんごとんが聞こえないふりをする。

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2020年10月17日公開

© 2020 曾根崎十三

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