おちんちんらんど

曾根崎十三

小説

2,398文字

イグBFC2応募作品。
夢の国へようこそ。

幼女である私が公園で遊んでいた時のことだ。

公園のフェンスの向こうで軽トラが止まった。

「お嬢ちゃん」

降りてきた男が手招きをする。

「良いもの見せてあげる」

私は人なつこい幼女ではなかったので、返事をせず、警戒しながらも彼のことを見つめた。

そうすると、彼は俯いて下半身をまさぐると、小動物を扱うかの如くおもむろに何かを取り出した。

「コンニチハ!」

そいつは喋った。甲高い声だった。

「こいつがいっぱいいるところに連れて行ってあげる」

遠目に見てもわかる肌色のそれはふにゃふにゃとしており、まさにそれだった。位置的にどう考えてもそれはまさしく男性にしかついていない代物なのだが、とても目の前の男は狂人には見えない純粋な瞳をしていた。お父さんの物を見たことがあるので、それと似たような形をしている。そう、どう見てもおちんちんだ。だが、まだ生まれてから大した年数も経っていない浅学な私が知らないだけで、ひょっとしたらおちんちんそっくりの生き物がいるのかもしれない。

「タノシイヨ!」

おちんちん(仮)がまたもや喋った。

私がじっと見ていると、俯いていたおちんちん(仮)が頭を上げた。やはりこいつは私の知らない生き物なのかもしれない。経験則に基づかない動きをした。

「オイデヨ!」

おちんちん(仮)が嬉しそうにしている。心なしか男の顔もイキイキとしている。

「触ってみるかい?」

幼女である私は一歩ずつ怖々と男の元に近づいていく。男の目が爛々と輝く。ひょっとしたらこの人はとんでもなく恐ろしい人なんじゃないか。おちんちん(仮)はおちんちんなのではないか。

「まゆちゃーん!」

友達が私を呼ぶ。そうだ。皆が滑り台をしたがったものの、私は滑り台の気分ではなかったため一人で砂遊びをしていたのだった。滑り台に飽きたらまた呼んでと言っていたのをすっかり忘れていた。

おちんちん(仮)へ向かいかけていた私は引き戻された。

「ごめんなさいお兄さん。私戻らないと」

私は友達のいる方へ駆け出す。男はとても悲しそうな顔をしていた。涙こそ流していないものの、お気に入りのぬいぐるみをなくした時の友人よりも悲惨な顔をしていた。少しくらい触ってやれば良かっただろうか。否、駄目だ。あのような不審物、触らない方が正しいのだ。触れていればきっと両親にも怒られるはず。これで良かったのだ。私は何も間違っていない。後悔なんてあるわけない。いや、本当にこれで良いのだろうか。もうここで背を向けたら二度とこのお誘いはない気がする。それで良いのだろうか。

「あとで!」

友達に背を向け私はUターン。おちんちん(仮)に駆け寄った。むにゅ。柔らかかったおちんちん(仮)が進化した。そう、私がしんかのいしだったのだ。テッテッテッテッテッテッテー。Bボタン連打止めるなんて不粋なことはできやしない。私は身を任せた。握り締めたおちんちん(仮)にすごい勢いで持ち上げられた私は空高く舞い上がった。ああ、やはりそうだった。これはおちんちんだ。男の股間から生えているのだからそれ以外の何者でもない。風を切って空高く舞い上がっていく私の手には進化したおちんちんがあった。

「テヲハナサナイデネ!」

私、飛んでる! おちんちんだけどおちんちんじゃなかった! 風を切り雲を抜け宙を舞い私とおちんちんはおちんちんらんどに到着した。ふわり、と地面に降り立つ。いろんな大きさのおちんちんがいる。進化したものもしていないものもいる。売店ではおちんちんがおちんちんを売っている。頭上では細長いおちんちんが猛スピードでレールの上を走り回っていた。その中にはスリルに悲鳴を上げるおちんちんたちが乗っているのが見える。お化け屋敷では腐ったり血まみれのおちんちんが徘徊していた。ホログラムで半透明のおちんちんも浮かび上がってきた。ちっとも怖くなかった。とはいえ、絶叫系は苦手なので上下にゆっくりと動く回転おちんちんに乗ってみた。おちんちんらんどの平和な風景が見える。滝壺に真っ逆様に落ちていくおちんちん。光を放ちながら巨大な円を回転していくおちんちん。泉では中央のおちんちんから水のようなものが吹き上げられている。数多のおちんちんが手を取り合ってその中を行き交う。微笑ましい光景だ。心が安らぐ。日が沈んでくると何やら美しく輝く行列が現れた。そう、お察しの通り、おちんちんがエレクトリカルパレードをしていた。テンテレレレンレンテンテレレテレレレ。おちんちんたちが光輝き、踊りながら、次々と握手、否、握ちんちんを求めてくる。私はそれに応えてやる。嬉しくては私は両手におちんちんでそのパレードに加わった。周囲は色とりどりに輝いている。まるで大量のおちんちんと一緒に宇宙に浮いているみたいだ。

はっ、と女である私が目を覚ました。そうか。そりゃあそうだろう。夢でしかあのようなことはできない。またあの夢を見てしまった。朧気な意識が徐々に明確になる。ああ、おちんちんらんどにずっといられれば良かった。大人はおちんちんらんどにいられない。だからあの男は私に声をかけたのだ。しかし、入れるのは子供とおちんちんだけ。それが自然の摂理だ。男はあの公園の前に残されてしまったのだろう。今はどうしているのやら。

緩慢な動きで起き上がり、眠い目をこする。ゆっくりと起き上がり、頭を上げる。そう、私に握られた瞬間のおちんちんのように。

メメントおちんちん。私は忘れることはない。ずっと目の前にあるのだから、忘れることはない。

寝ぼけ眼を開いた私の視線の先には壁いっぱいに所狭しと並んだおちんちんの標本がある。

あの楽しそうなおちんちんらんどはなんてない。もうなくなってしまった。私のせいで。

離れがたいのなら捕らえてしまえば良い。少女の私が世界のすべてのおちんちんを標本にしてしまった。私はそうすることしかできなかった。もうこの世界にはここにしか本物のおちんちんはない。

2021年10月21日公開

© 2021 曾根崎十三

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