ピン・チーリンと背びれザメ

島田梟

小説

6,238文字

少年ピン・チーリンは、無人島で背びれザメと遭遇する。本人が言うには背びれしかないらしいが、本当にそんなことがあるのだろうか?疑いながらも、何だかんだでお世話になるチーリン。そして……

ピンチーのサバイバル生活は翌朝から始まりました。助けが来るまで、食べ物や飲み物は自分で何とかしないといけません。

まず森を散策しました。湧き水がちょろちょろ出ていたので、水の件は早速解決です。しかし、食べ物探しは手こずりました。落ちている木の実はトゲつきで毒々しく、鳥も小さいのばかりでマズそうでした。虫は色・形ともに気持ち悪いやつだらけだったので、候補にすら挙げずに記憶から消しました。どうやらこの島には、ステーキやポテトチップスと肩を並べる食べ物はないようです。

魚はどうでしょうか。海に行かないといけません。生は厳しいので、焼くために道具が必要になるでしょう。乗客の荷物をあさるには、海に行かないといけません。

結局ピンチーは、また砂浜に戻ってきました。海面に背びれはなく、ひとまずほっとしました。

どうやって魚を釣るか考えていると、空から魚が降ってきました。ピチピチと活きの良いタイです。ピンチーは万引き犯みたいにきょろきょろしました。もちろん誰もいません。大きなタイが逃げないように、波から離れます。

暴れるタイを叩いて黙らせてから、見える範囲のスーツケースを集めました。事故の衝撃でカギがこわれたものもあれば、岩でこじ開けなければならないものもありました。三つあるケースのうち、二つの大人の衣類と外国語の書類で外れでした。書類はお尻を拭くのに使えるかもしれません。

三つめはサバイバルナイフが入っていました。これは当たりです。ピンチーは見るからにぶきっちょうな手つきで、タイをぶつ切りにしました。うろこがジャマで、生の魚というのもイヤでしたが、虫と比べればごちそうです。ぺっぺっとうろこを吐きながら、ピンチーは食べつくしました。

下着をマットにして横になると、聞こえるのは波の音と海鳥の鳴き声でした。うるさい先生はいません。お隣さんのグレートデーンもいません。鼻くそをほじる友達も遠い海のかなたです。

けっこういいかも。まんざらではない気分になってきました。家族旅行が楽しいなんて嘘っぱち。一人の方がよっぽど気楽でした。誰にも気を遣わなくて良いのですから。

楽しい気分は、タイの切り身が腸に送られるまで続きました。その先は案の定、孤独感におそわれました。「一人でいるとさびしいよね」と誰とも分かち合えないつらさ! ピンチーのすすり泣きが、波の音と重なります。視界は涙でにじみ、海と空がぼやけて見えました。そのせいで海面を動く物体に気づきませんでした。悲しみが引いた頃になって、あいつの存在をはっきりと認識したのです。

「さびしいんだろう」

背びれザメが言いました。

「そんなことない」

「似た者同士、仲良くやろう」

「海に帰れ!」

「お前はどこに帰るんだ?」

「家だよ」

「親がいるのか?」

飛行機には、お父さんとお母さんも乗っていました。

「知らない。いま、いないかも」

「大変だな。助けになれるといいんだが」

「背びれだけのくせに、何言ってんの?」

サメは背びれを反らせました。

「失礼な。さっきのタイ、誰がとったと思ってるんだ」

その証拠として、サメは潜り、オコゼやウツボを手荒に投げてきました。どちらもピチピチです。血は出ていません。

「すごいね」

「これくらい、朝飯前だ」

これではピンチーも、ひどいことを言えなくなりそうです。怒りと恐怖で正しい判断ができていなかったピンチーでしたが、「このサメはすごいやつかも」とようやく適切な評価を下しました。

「あの、サメさん」

「友達になるか?」

「その前に、助けを呼んでほしいんだ。船が来たら、この島に人がいるって言ってよ。そしたら友達になるよ」

「無理だ。できない」

サメが言うには、船に近づこうものなら、逃げられるか、モリを打たれてしまい、まったく話し合いにならないそうです。それもそうかとピンチーは納得しました。

「じゃあ人のいるところまで乗せてってよ」

サメはこれにも難色を示しました。陸地はずっと遠くにあり、子供にはとても我慢できないと言います。

ピンチーは背中から倒れました。

「ずっと一人とか、いやだ」

「まあ元気を出せ。エサくらいなら獲ってきてやるから」

「ありがとう」

2020年7月22日公開

© 2020 島田梟

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