ハダカデバサルモドキの星

合評会2020年01月応募作品

波野發作

小説

4,004文字

破滅派合評「普通」応募作品。普通の話。イラスト: Rossella Apostoli (123RF)

「調査員ザマリン、調査員コトリンは惑星レポートを発表せよ」

背が低いのがザマリン、背が高いのがコトリンである。解析ロボのドッカーを連れて壇上へ。

「お呼ばれましたザマリンです」

「コトリンです。ドッカーもいます」

司会者が無駄に苛ついた態度で二人を急かす。

「急げ」

「はい。急ぎます。マッハでいきます」

「12パーセクで飛ばします」

「そういうのいいから」

司会者が遮って、話は先へ進む。

「ザマリン、発表します」

「コトリンはスクリーンの映像を操作します。役割を分担しています」

司会者はもう茶々を入れない。スクリーンには青系の天体が掲示された。

「はい。こちらね。バケーションで行ってきた。はい。変な色ね。青とか緑とか珍しいね」

会場がざわつく。

「なんで青いか。液体が多いね。液体。不安定。だけど、だいたい1万メーメーぐらいしか深さがない。こんな青い感じだけど、気のせい。表面だけ。その下は普通に岩。硬いのの下に溶けてるのがある。恒星に近すぎるせいかもね。あと緑のとこね、これプランツよ。すごくね? びっしりプランツ。恒星が近いからかね。多いね。珍しいね。ただ、原住民が結構荒らしてるから少し減ってるってね。アホだね」

コトリンは大気組成図を出す。

「はい、酸素多め。だいたいは窒素ね。まあ燃えにくくていいね。呼吸回数増えるからめんどくさいけど慣れればたいしたことない。3日で慣れる。アーイ次」

ザマリンの合図で次のスクリーンに進む。

「ここね一番変なのは、生き物が多い。多いっていうか種類がアホほど多い。管理してないっぽい。なんか勝手に進化させちゃってるっぽい。ダーウィン教とかいうのが蔓延してるね。種規格のコントロールしてないから、微妙に近いのがアホほどある、いる。いるいる。雑種の雑種が増えて、もう元の種がわからんね。どうでもいいみたい。そういう星ね。野蛮。めちゃ野蛮。はい」

場内がざわめくが、想定内だ。ザマリンが次の画像を出させる。液体溜まりと砕石岩芥の丘。青と白のコントラストが印象的である。

「はい、例の液体ね。表面の。酸素1と水素2の結合液。ちょうど融点と沸点の間が常温なんで、めっちゃ不安定ね。星の表面がずっとちゃぷちゃぷしてるね。よくないこれ。よくなくない。いやよくない。地面の形めっちゃ変わるっしょ。実際変わってる。少し目を離すとあっちう間に山が谷になるとよ。そんであれ、岩の下がドロってるから、これがまたぐるぐる動くんで、えらい影響あるめちゃある。揺れる。暴れる。メタメタよ。生き物死ぬ。仕方がない。そういう不安定な星によく住めるな。アホ」

「質問!」

会場から声が上がる。

「はい、質問はノーサンキュー」

「ファック」

「次いく」

「地学はめんどくさい。専門外。生物の紹介する」

コトリンがAVのパッケージを表示する。

「はい、これ。この生物がだいたいこの星の代表。数はそうでもない。いろいろ作って地表を荒らしているのと、天敵が少ないので、少し栄えた。サルに近い。でも毛がないんだわ。珍しい。毛もウロコもないよ。個体によっては少しあるけど、まあない。ない方。だいたいない。あと歯が出てる。見た感じでハダカデバサルモドキと命名したっす」

画面にハダカデバサルモドキとジガー文字で表示される。会場の聴衆が一斉にメモをしはじめる。新生物の発表は、いつも盛り上がる。

「はい、ハダカデバサルモドキは性別が二つしかないだす。極稀に、どっちでもないのもいるけど、かなり少数なので、概ね二種類。あと、観察した感じではこの二種類は仲が悪い。だいたい仲が悪い。繁殖期だけ少し仲良いが、それ以外はもうひどい。とにかくひどい。平和の概念がない。ああそう武器めっちゃ持ってるこの星の連中。あんまり使わんけど、ただ持ってる。使うところもあるけど、全体的には珍しい。余談でした」

AVの別のシーンのスチールが映し出される。文字がかぶっているので、おそらくパッケージの類だろう。

「これは二種類が仲良いときの記録映像と思われる映像メディアのパッケージをこっそり撮影したものだ。入手は困難である。通貨がないと難しい。あとたぶん撮影も禁止されているので、口外はご遠慮ください。捕縛される。はい、で、この画像の黒いところは棒状の臓器が写っている。棒状の臓器と孔状の臓器を接続して生殖を行うシステムになっている。あ、この星の全部がではないよ。ここの生き物はめっちゃバリエーションあるので、生殖システムがめっちゃバラバラ。ちょっとやそっとじゃ整理できない。てかこの星の連中も誰も把握してない。アンコン。あとね、このハダカデバサルモドキだけちょっと変わってて、他の個体の生殖を観察して発情する。どういうつもり?」

場内から奇声が上がる。そんなバカな生き物がこの宇宙に存在するのか。ざわつく場内を手で制して、ザマリンはコンポートをショットグラスであおった。

ねちょねちょと尖ったくちばしをくねらせて、レポートを継続した。それは今の彼の職務であり、使命である。司会のフレンズマンが残り時間計測器をじっと見ている。まだ残時間は多いはず。問題ない。ゴーだ。

「このハダカデバサルモドキは何がすごいって、他生物を保有するってのがすごい。なかなかない。ないね。生物生存権とかがまだちゃんと整備されてないっぽい。同種を〆ると罰は受けるが、他生物はとくにお咎めがないというね。これはなかなかの蛮族。惑星外生命体とのコンタクトが極端に少ないせいもある。同種との関わりしか知らない系? で、そう。そう。他生物を監禁して保有する文化がある。文化って言っていいのか知らんが、とにかく巣にロープで括ったり、格子状の収納ケースに収めたりで、いろいろやる。液体の中で生息するタイプの生物を保有するケースもある」

写真が切り替わる。小型の毛の多い生物をハダカデバサルモドキが紐でひきづっている。会場からは悲鳴に似た奇声が上がる。なんと酷い。非道だ。

「はい。このハダカデバサルモドキは少し位が高い小型の個体なのですが、いつもこうして毛のあるタイプを連れ回して、排泄を強要している。排泄によりテリトリーを示しているそうで、はい野蛮。食事も格差があって、ハダカデバサルモドキは日照時間に二回、日没後に一回程度、自分の意志で摂取するのだけれども、保有される生物は1回だ。不公平。自由がない。いけない。ただ、この星ではハダカデバサルモドキ以外は経済活動を行っていないため、小型個体は依存するしかないということだが、稀に野生の個体もあり、それは自由に狩猟して食事する。これは尊厳がある。あと保有されても自由な種もいる。紐で吊られている生物の種類はドッとかグアとか呼ばれるが、自由種はもう少し小型で、キャとシャとかマオとかいう。こいつらは自由。食事も自分の意志でハダカデバサルモドキに要求して得る。寝てれば起こす」

画面上に小型自由生物の画像が出される。あまりの可愛さに場内がざわつく。

「一応正式な名前をつけました。ネムリケダマです。だいたい寝てる。全身がだいたい毛なんだけど足先だけ肉の塊が露出していてセクシー。ぷにぷにしてみんな興奮。ネムリケダマは異常に嫌がるので、あまりやるとガッってなる。気をつけてかかれ」

水槽の写真が表示された。赤いウロコ生物が液体の中を漂っているようだ。

「これもハダカデバサルモドキが好んで保有する生命。催事場で販売されているので、一般のハダカデバサルモドキが入手できる。闇市場ではないよ。通常の商業で生命が売買されている。恐ろしい! あまり関わらないほうがいい。警告はした。あ、そんで、この赤いのがゴルフィスね。そう名付けた。黒いのも白いのもいるけど、全部ゴルフィス。複数形はない。大型のゴルフィスはコイキングという。さらに巨大化したらギャラドス。液体が地形によって滝状になっているところを登るとコイキングがギャラドスになるらしい。見たことはない。ギャラドスは見たことない。小型のはタッツーだけど、これはシードラになってキングドラになるんで、ギャラドスは関係ない。不思議。なんやねん」

コトリンが操作をすると、今度は白黒でまだらに塗り分けられた生物が表示された。鋭い角が2本ある。

「はい、これ。これもハダカデバサルモドキが好んで保有する種だね。栄養的に摂取できない分泌液を意味もなく飲用にしたり、殺害して食用にしたり、なかなかやり放題。やり放題パラダイス。モノクロクサクイと命名した。あと、未確認情報ではあるんだがハダカデバサルモドキと混血ができるらしい。びっくり。交配している映像はあったし、伝説レベルだけど混血で誕生した個体の逸話が残っている。生物学的には少し考えにくいが、意外にDNAが近いのかもしれない。少し組織を切り取って持ち帰ったので、今後の研究課題にしたい」

「時間だ」

司会者がレポートタイムの終焉を告げた。今こそ講評が述べられる。

「なかなか、悪くなかった。興味深い惑星だと思った。ハダカデバサルモドキの今後の活躍に期待しよう」

「ありがとうございます。単位ください」

「単位をやろう」

「わたしにもください」

「お前にもやろう」

会場からは惜しみない手打ち音が鳴り響いていた。

「それで、発見したお前たちがこの惑星に名前をつけていいのだが、どうするね。ハダカデバサルモドキ星とかか?」

「あ、いえ、それはすでに決めていました」

「ほう」

「青い液体の星〈ティンカス〉です」

「んー」

「駄目ですか?」

「ちょっと普通すぎるかな。変な惑星なのに。まあいいけど」

こうしてハダカデバサルモドキが銀河帝国の許可も得ずに勝手に支配している田舎惑星の名前は、その住民の知らないところでいつの間にか〈ティンカス〉と決定したが、ハダカデバサルモドキは知る由もなかった。そしてお前もまたハダカデバサルモドキなのかもしれない。

おしまい

 

2020年1月17日公開

© 2020 波野發作

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"ハダカデバサルモドキの星"へのコメント 10

  • 投稿者 | 2020-01-23 12:31

    どういう読み方をすれば良いのかよく判らなかった。笑えそうで笑えない。ギャラドスのくだりも、面白そうな感じなのだけれど、笑えない。惜しいのだろうけど、どう惜しいのかも判らない。

    • 投稿者 | 2020-01-23 13:36

      保有するコンテクスト次第で見え方ががらりと変わるシステムになっています。ギャラドスのくだりは高橋さんぐらいしかわからないかもしれませんので軽く流していただければよいかと。

      著者
  • 投稿者 | 2020-01-24 14:19

    私もちょっとどう読めばいいのかわからなかった。。

  • 投稿者 | 2020-01-24 15:49

    ひとつひとつのセリフを区切って話すザマリンの喋り方から、この星の住民は微生物ほどの大きさなのかなあと想像しましたが、犬らしき生物のことを「小型個体」と呼んでいるので犬よりかは大きいんだなあと思い直しました。彼らはハダカデバサルモドキの衣服についてはどのような見解をしているのだろうと思いました。

  • 投稿者 | 2020-01-25 11:18

    地球に来て犬に遭遇する宇宙人の話を斧田さんが以前書いていたが、それを軽い文体とユーモア多めにした感じ。楽しいヴァイブは伝わった。

  • 投稿者 | 2020-01-25 22:46

    おや、風俗の話ではない。
    異星生物の特徴を説明する話はSFでよく見かけますが、この作品はとことんコミカルで小ネタがちりばめられていて楽しめました。
    そういえば貴志祐介のSFファンタジー『新世界より』に出て来る<ハダカデバネズミ>も元人間でしたね。

  • 投稿者 | 2020-01-26 22:30

    いきなり、『ポケモンいえるかな?』な会話になるの、こいつらも大概、無秩序で感情的で野蛮だなと。
    あと、モニターとして使われたAVって洋物ってことですかね。学術的に使う物にモザイクかかってたら話にならないし、例のハムスターのところから盗んできた物なら肝心の部分で誇張しすぎた福山雅治さんの動画にさしかえてやりましょう。猫は至高。

  • 編集者 | 2020-01-27 12:14

    スクリーンを前におこなうレポート発表というとても現代人っぽいやり取りで人類を揶揄する、という構造自体がとても人間的で少し捻りが欲しいところでした。あとネーミングはギャグというところなのかもしいれませんが、ジガー文字という言語を登場させるのであれば、そこも独創性があれば地球外さが出た気がします。

  • 編集者 | 2020-01-27 14:56

    俺も地球に来たM79星の青年宙外協力隊員なのだが、もう地球人には飽き飽きしている。もう嫌になった。早く帰りたい。

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