鰐梨

応募作品

波野發作

小説

4,000文字

塊と魂を間違えて書いてしまいました。主人公はその後店外に出る前に店員に捕まって説教されています。破滅派合評アボカドの回参加作品

不快な無数の魂が俺に突き刺さる。なるほど、これがあの魂か。よくわかるぞ魂。

俺を称賛しない魂は実に不快だ。俺は称賛されたいし、称賛されるべき存在であるし、称賛しない人間は根源が間違っているし、その存在を許している社会も不完全なものである。俺にはこの社会を木っ端微塵に吹き飛ばす責務がある。

そこで、どうやって吹き飛ばすか考えてみた。

火薬はだめだ。入手も製造も難しい。自動車だの建物だのを吹き飛ばす程度ならどうとでもなるが、社会を全部巻き込んで破壊するにはまったく桁が届かない。世界最強である米軍の保有する火薬をすべて使用したとしても、社会という概念までは破壊できない。生存者はまた同じような社会を再構築する。第二次世界大戦では相当な量の爆薬を散布・使用したが、辺境のいち国家である日本すら完全には滅殺できなかった。火薬の延長線上にある原子爆弾でも、二発程度ではビビらせて降参させるのが関の山だ。何十万人を焼いても、社会は潰せない。冷戦期は、無造作に増えた核兵器の存在が人類を脅かしたが、結局誰一人使うことはできず、使わないために存在するオブジェとなって世界中に埋められている。そして俺にその起爆ができるのかというとそれはまったく不可能だ。現時点でそういうポジションにいない。これは戦略ミスである。よしんばその大統領を狙えるポジションにたどり着けたとして、おそらくその時は社会を木っ端微塵にしようなどとは思っておらず、むしろ木っ端微塵にしようと画策する側から世界を守護する側に回っており、社会を火薬で木っ端微塵にする動機などすっかり失っているに違いない。

社会を吹き飛ばすためには、俺は俺として生を受け、俺がゆえに評価されないという現実に直面するしかないのであるから、俺がこのように火薬のひとつも炸裂させられないようなだらしがない人生を送っているのは、社会の自己保全機能によるものなのかもしれない。いやそうに違いない。気づけてよかった。

火薬以外にも可燃物を燃焼させることで社会を木っ端微塵にする方法はあるのかもしれないが、量的な問題および経済的な理由で実行ができない。社会を木っ端微塵できるだけのガソリンを用意できるのであれば、おそらくその場合も俺は社会を木っ端微塵にする動機を失っていて、毎晩ソープランドに通っているだろう。秋葉原の駅から北向きの電車に乗って鶯谷駅で降り、南口からタクシーに乗れば十数分で送り届けてくれる。店に電話したら送迎だってしてもらえる。だがしかし、そのための現金がない。そんなザマでタンクローリー何台分ものガソリンを買うことなどできない。金がなければ社会を吹き飛ばせない。金があったら社会を吹き飛ばす必要がない。俺の動機は金で処理できる。だがしかし、金はないので、動機はここに残ったまま、魂を圧迫している。実に社会を木っ端微塵に吹き飛ばしたい気分でいっぱいだ。

LINEの着信を伝える振動が俺の鼠径部に響く。ポケットから安物の中華スマホを取り出してスリープから回復させると、先程渾身の文章力を発揮して美辞麗句を重ねて心からの懇願を叩きつけた親族から、金の無心を断る通信が届いていた。断った上に、長々と説教じみた忠告がつらつらと連ねられており、なおかつ最後は返済を催促する定型文で締められていた。金を貸せという相手に、むしろ返せと言って、それで金が返ってくると本気で思っているのだろうか。いや、もう二度と無心をしてくるなという意思表示かもしれない。いずれにしても万策尽きた。今月の家賃と、水道光熱費と、いくばくかの食費だけが全財産だ。これを元手にひと勝負仕掛けるべきか、小一時間秋葉原駅のホームで座りこんでいた。東に向かえば狭いながらも我が家がある。来月から家賃を滞納しても三ヶ月程度は居座れるから、春まではどうにかなるだろう。暖かくなればしばらくどうにか生き延びることはできるかもしれない。北に向かいたいのが本音だが、来月分の家賃まで数時間の快楽に浪費してしまうと、まだ朝晩が寒いうちにいきなり露頭に迷う可能性もあり、あまりにリスキーだ。西に向かうと、チャレンジすべきジャックポットが俺を待っている。しかし、それは破滅を前倒しにするのと二者択一。その勇気が振り絞れないまま、幾多の乗客を見送っている。だからこそ、いまここで社会をまるごと吹き飛ばせないか思案しているのだが、結局金がなければなにもできない。小銭があっても仕方がない。

そうなると考え方を改める必要がある。物理界での吹き飛ばしは現実的ではない。物理の障壁は強大だ。物理界にはエネルギー保存の法則があり、吹き飛ばしには吹き飛ばしに必要なエネルギーが決まっていて、そのエネルギーをどうにか捻出しない限りは吹き飛ばしは発生しない。これはいかんともしがたい。物理がだめなら思想はどうだ。思想なら実際にそのエネルギーを用意しなくても、概念で吹き飛ばすことができるのではないか。これはエコだ。非常にエコに効率よく社会を吹き飛ばせる。いいぞ。さすがは俺だ。さっそく目に見えるものを片っ端から吹き飛ばすことにしよう。

それ。それそれ。それそれそれ。

おかしい。なかなかうまく吹き飛んでくれない。

社会に対する理解が浅いせいだろうか。表面上のことしか理解しないのでは、根源を吹き飛ばすことなどできないということだろうか。こうもっと何か必要なファクターがあり、それが欠けているのではないか。俺はその失われたファクターを探して、南に向かう電車に乗って南に向かった。神の耕作地は少々気が引けるので、その次の駅で降りる。そうだ。ここは社会の中心だ。政治の中心ではないが、社会の中心の一つであることは間違いないだろう。この駅を吹き飛ばすことができたら、ある意味俺は社会の吹き飛ばしに成功していると言っていいのかもしれない。この国でもっとも身分が高い人物の城がある側がより影響が大きいと考え、西側に向かう。いわゆる丸の内という丸の内OLの本拠地である。丸の内OLはこの国の社会を牛耳る存在であり社会の根源である。すべては彼女たちを中心に回り、すべての根底でありながら同時に頂点でもある。社会は正三角錐のカタチをしている。俺は三角錐のてっぺんを探して案内板をじっくりと見た。俺に無縁な企業名が立ち並ぶ中、唯一見覚えのある文字列を発見した。

丸善。なるほど、丸善とはここにあったのか。

丸善ならば丸の内OLがさぞたくさん連なっていることだろう。ここを木っ端微塵に吹き飛ばせば、三角錐の頂点を吹き飛ばせば、きっと社会そのものを木っ端微塵に破壊することも可能であるに違いない。俺は作戦目標を丸善に決めた。

丸善があるから丸ビルかと思っていたが、どうやらそういうことはなく、丸ビルには丸善はなく、丸善は丸ビルにはなかった。丸ビルは丸の内にあるから、丸ビルという名前だろうが、丸善は丸の内にあるから丸善なのではなかった。丸善だから丸の内に出店しようかなどという安易な考えの元に出店しているに違いない。

地下道からエスカレーターを上がると目の前に丸善の正面口があった。誰でも入ることができる。夏にはホームレスになるだろうが、今はまだただの高等遊民である俺は、入り口で引き止められるほど汚くはない。ポケットに忍ばせている爆弾も、外からその存在を推し量ることは不可能だ。X線探知機でもこの高性能社会爆弾を察知することはできない。俺の勝利は目前である。

店内は明るく、文化に満ちていた。嫌味なほどにカルチャーの尊さを声高らかに歌い上げる書物の山、平積み、面陳、棚差しの差はあれど、どれも誰かのなんらかの思想を元に書かれた、文化の煉瓦だ。文化の煉瓦は理路整然と積み上げられ、社会の城を築き上げている。

この城を一発で破壊するには、果たしてどこに爆弾を仕掛ければいいのだろう。ビル爆破においては、炸薬の配置で崩壊の美しさが決まるという。俺も美しく社会を破壊したい。それが俺の存在意義であるからだ。文化の破壊者として後世まで名を残すためには、ここで手を抜くわけにはいかない。渾身の思考でどこがこの文化の城の弱点なのか察知して、一点突破で丸の内OLのヒエラルキーを破壊しなければならない。

上から攻めればよかろうと上がったが、4階にはあまり書籍がない。ここが文化の要であるとは思えないのでやめておく。仮に爆弾を仕掛けたところで展示物に溶け込み、起爆することなく配置換えでこっそり廃棄されるのが関の山だ。それでは文化を破壊できない。

3階の芸術コーナーに来た。この平積みになっている高名な画家の画集に爆弾をしかけたら、なんとなくイケている感じにはなるかもしれないが、それはなんだかもう古い。古臭い方法だ。アートでなんかイケている感を出そうとかもう今どき流行ってないのではないか。あと関係ないけど詩人とかキモい。まじキモい。俺の爆弾を仕掛けるのはここではないと本能が言っていた。

エスカレーターを挟んで逆側に赤本の壁があった。遠目にもすぐわかるほど真っ赤だった。頂点大学から底辺大学まで分け隔てなく赤かった。壁全体が輝いて見える。これから社会の歯車になる若者たちの夢の壁だ。そうだ。ここに爆弾を仕掛けよう。未来を担う人材に解けない呪いをかけてやれば、いずれ社会は腐敗し、自重で崩れ去るに違いない。これ以上最適な爆破ポイントはないように思えた。俺は偏差値の順に棚から引き抜いて積み上げ、頂点に最高学府の最高偏差値の学部の赤本を置いた。そしてその上にポケットから出したアボカドを立てた。真っ赤な塔のてっぺんに黒緑のタマゴが黒く輝いて見えた。これでこのいけ好かない丸の内界隈も木っ端微塵に吹き飛ぶだろう。俺は満足して、爆発に巻き込まれないように背を丸めた奇妙な姿勢で、縁が黄色く彩られたエスカレーターを下っていった。

2023年1月20日公開

© 2023 波野發作

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リアリズム文学

"鰐梨"へのコメント 30

  • 投稿者 | 2023-02-02 01:05

    しばくぞ。
    とっとと消えろ。ザコが。

    • 投稿者 | 2023-02-02 01:17

      律儀な人ですね。もうちょい煽れば本当に来そうだな。
      いいじゃないですか、現地集合とかだと怖いでしょうけど、今はリモート開催だし、ちょっと顔出しするだけなら心配いらないですよ。顔出したくないならビデオオフだっていいですし、自分のコメントの時だけしゃべればいいんだからそんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。それにぼくがいないってわかっているなら平気でしょう。他の参加者はみんな友好的で紳士淑女ですし、礼節をわきまえた方々ばかりです。
      ぜひ前向きにご検討いただきたい。プロのライターの矜持をぜひ高説賜りたいです。自分は参加しないので直接は伺えませんが、後日誰かから聞きます。

      著者
  • 投稿者 | 2023-02-02 12:29

     昨夜のやり取り、起承転結が完璧にできてて無茶苦茶面白いじゃねえの。
     あんたが仕掛けたオチのお陰で大バズりするぜ。
     ということで、やり取りを作品として再掲載させてくれよ。
     別にいいだろ? 既に公表された内容をそのまんま再掲載するわけだから。
     これであんたも一転して人気者間違いなしだ。
     嫌ってる者同士のコラボ作品が破滅派の最高傑作になったらすげえぜ。
     絶対に悪いようにはしねえから、一応「別にいいよ」って返事だけよろしく。
     

    • 投稿者 | 2023-02-02 12:52

      お断りします。こんな低次元なやり取りが面白いわけないでしょうw。スクショは撮ったので保存は大丈夫です。

      著者
  • 投稿者 | 2023-02-02 13:49

     つまんねえやつ。
     あ、だからこいつの作品もつまんねえんだ。

  • 投稿者 | 2023-02-02 15:25

    まあ破滅派はこのぐらいでは出禁になったりはしないので自由にしてくれて構わないですが、よそ様にお見せするにはちょっと恥ずかしいかなとは思いますね。

    著者
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