縄文スタイル(5)

縄文スタイル(第6話)

波野發作

小説

4,049文字

週刊アゲンスト、エビデンス、縄文スタイル。

 イサカイさんが会社を辞めてから半年経った。絶妙に忙しかったせいか、わたしは思ったほどダメージを受けておらず、センパイへの恋心もあったんだかなかったんだかよくわからなくなっていた。社長は新しい人は雇わず、ヒーヒー言いながら獲ってきた仕事をこなしていた。わたしも少しフォローできればとデザイン系のアプリケーションを触るようにしていて、少しの修正や画像の差し替え程度はできるようになっていた。ライティングの仕事自体が減っていたせいもあるけれど、センパイが戻ってきたときに、今度はもう少し手伝えるようになっていたらいいなと思ったからだ。社長を手伝おうとは思っていない。ああそうか、わたしは、今でも、センパイは戻ってくると思っていたのだ。スマホにいまだに連絡がない。

 

 朝、出社したら雑誌が置いてあった。社長のかな。週刊アゲンスト。確かゴシップ誌だったかな。あまり興味がないので普段は見てない。釣り広告で見かける程度だ。大きな記事は「縄文スタイル法案可決へのカウントダウン。融和する社会の実現へ」というタイトル。最近はテレビでもおなじみになったJAJAの岩井堂理事長と、共和縄文党のイケメン恵比寿田議員の対談記事のようだ。見出しを追ってみると、〈縄文スタイル〉をベースにした三つの法律改正案についての討論だった。討論というかすでに決まったストーリーでお互いがセリフを言い合うような、そんな下手くそな小説のような記事。ひどい茶番だ。改められるのは、火葬許可法と、埋葬許可法と、それに伴う新しい埋葬許可法の制定。この法改正で、火葬許可証と埋葬許可証が統合され、とくに都道府県知事の許可がなくても、火葬でも土葬でもできるようになる。というもの。今までは縄文ライフ至上主義派の人たちが「縄文人は土に還る」を実践するために土葬を行おうとした場合、限界集落のような過疎地に広大な土地を買い、県知事の特別な許可を取り埋葬していた。土葬は禁止こそされていないが、手続きがわざと煩雑になっていて、実現が難しくなっていた。手続きはあきらめて火葬したあと散骨して土葬したことにしたり、山岳地帯でわざと行方不明なるケースもいくつか発生したようで、一部で問題になりつつあった。敬虔なクリスチャンは以前から悩んでいたようだが、日本では土葬が難しいため終活で海外に移住したり、数少ないキリスト系墓地の奪い合いなどが行われていたようだ。恵比寿田議員は以前から埋葬法改正を公約に掲げて、縄文ブームに後押しされて当選した参議院議員だ。縄文スタイルは宗教なのかという議論もあり、未だに論戦は続いているが、埋葬法の改正に関しては与党の大きな派閥の協力も得られ、成立はほぼ確定というところまで来ているそうだ。共和縄文党としてはこの法案成立を足がかりに、さらなる縄文文化由来の法案を成立させるべく粉骨砕身して努力すると、岩井堂理事長に決意表明して、記事は締められていた。

 

 土葬ってそんなにこだわるもんだっけ、と縄文スタイルをまとめた時期のことを思い出していた。「縄文人は土に還る」という一文が、〈洞ヶ瀬スレート〉にあったという亀ヶ岡教授のコメントが元になっている。土葬ってはっきり言ってたかな。もっとエコ生活とか、日常生活それぞれの話だったような気もする。

 

2019年11月15日公開

作品集『縄文スタイル』第6話 (全8話)

縄文スタイル

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© 2019 波野發作

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