縄文スタイル(2)

縄文スタイル(第3話)

波野發作

小説

6,367文字

ワークショップ、ワイドショー、縄文スタイル。

 それから。一度仕事で関わるとなんとなくその分野には興味が残るもので、国立博物館や歴博あたりで縄文展などがあれば、センパイとふたりで出向くようになった。そして心なしか、縄文文化や遺跡、発掘品に関する企画展は日に日に多くなってきたように思う。それは、わたしたちが興味を持っているからそう感じているだけなのかもしれないし、世間的に考古学がブームになっているのかもしれない。例えば電通やら博報堂みたいな大手広告代理店が暗躍して世論を動かして巨額の資金を動かしているかもしれないし、なにやら政府や政府関係者や政治家そのほか闇の力が蠢いているのかもしれない、とセンパイがふざけて言っていたが、わたしはリアリストなのでそれは気のせいだと断言した。

 

 しかし、少し知識が溜まってくると、そういった展示を見ても一家言は生まれるようで、センパイは土器やら土偶やらの出土品にやたらと詳しくなっていたし(デザイナーだから意匠に関しては興味が強いのだろう)、わたしはわたしで縄文人の生活様式などの仮説やら再現映像(推測)など文化的側面からの展示にそそられていた。銀座の大越デパートでの新縄文展があったときは、結構な行列に並び(センパイは行列が苦手なので、ずっとわたしがなだめすかしていた)、ショーケースに納められた新出土品とかいう最新の(?)土偶を遠目に眺め、お土産にレプリカのマグネットを買ったり、おそろいのハンカチを買おうとしてみたりしたが、やはり銀座なのでちょっとデートっぽくなった。三丁目からじわじわと中央通りを南下して新橋に向かい、日が暮れたあたりで飲んで帰ろうということになり、ふたりで仕事の愚痴を言い合いながらいい感じにできあがってきたところで、わりとプライベートな話もするようになってきたものの、逆方向の電車に乗るのでコンコースで別れるまで、わたしたちは仕事の同僚のまま、先輩と後輩の一線は越えられないまま、それぞれの巣に帰った。わたしはもう、もう少し違う関係になってもいいように感じていたが、センパイがどう思っているかはわたしにはわからないし、職場でそういう関係を作るのは本当にいいのか迷っていたし(三人しかいない会社で)、そもそもセンパイにはそんな気はないのかもしれないし、そういえばそもそもセンパイにパートナーがいるのかどうか確かめたことはなかった。一人暮らしだし、休日出勤に残業放題だったし、恋人がどうのこうのという愚痴を聞かされたこともなかったから今まで考えたこともなったけれど、最終電車に揺られながらこのままぐるっと一周してセンパイの駅まで行ったら、どうなるんだろう、どうにかなるんだろうか、と思っていたら自分の駅について、そのまま降りてしまった。

 

 JAJAからの依頼はあれっきり何もなかったが、だいぶ経ってから別の団体からの案内DMが届いた。会社宛。タイトルは「JOMON生活ワクワクセミナー」。「生活」のところには「ライフ」とルビが振られていた。A4コピー用紙の案内状と、印刷された三つ折りのリーフレット。セミナーの内容が詳しく書かれている。ごちゃごちゃして読みにくい。センパイならもっとうまくレイアウトするのに。文章もいまいちわかりにくいなあ。

「なにそれ」

「え、ええと……、なんか縄文人の生活を再現して、縄文の心に触れ合うというイベントみたいです」

「JAJAの企画?」

「いえ、違う団体ですね。〈NPO法人縄文ライフの会〉だそうです」

「なんか増えてきたのかな」

「どうでしょう。——あっ」

 案内状の差出人に見覚えがあった。

「どした?」

「この団体の主宰って手代森さんですよ」

「てしろもり……、ああ、あのロン毛爺さんか」

「そうですそうです」

 

 JAJAで本づくりをしていたとき、機構の幹部だったひとりだ。亀ヶ岡教授の同郷で、学生時代からの知り合いだという以外にはとくにエピソードはなかったが、白髪を伸ばしてうしろで束ねた縄文っぽいヘアスタイルの印象が強く、覚えていた。リーフレットを渡すと、センパイは見るなりうえっと悲鳴を上げた。

「雑な仕事だなー。別にいいけど」

 ですよね。世の中にはいろんな仕事人がいる。条件はそれぞれだから、アウトプットだけ見て外野が四の五の言っても仕方がない。手代森さんが自分で作ってるのかも知れないし、専門学校出たばかりの若手のデビュー作かもしれないし、予算が全然なくて、印刷屋のオペレーターが適当に作っただけかもしれない。

「ナカヨシ、『縄文スタイル』のときの縄文人のーって何か条だったっけ?」

「え、七か条ですよ」

2019年11月15日公開

作品集『縄文スタイル』第3話 (全8話)

縄文スタイル

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© 2019 波野發作

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