ぼくが合評で勝てないのは銃を持っていないからだ

応募作品

波野發作

小説

4,113文字

破滅派合評「銃」参戦作品。銃があれば評価も変わってくるに違いないのだ。よし。Photo credit: Powerhouse Museum Collection on Visual Hunt / No known copyright restrictions

「勝てん」

「なに?」

「破滅派合評だよ。デビュー戦でまぐれ勝ちしたっきり鳴かず飛ばずでまったく低調なんだ。このところ上向きな気配もあったけど、少し凝った感じにするととたんにスコアが下がる」

「なんの話なの?」

「ああ、気にしなくていい。ひとりごとみたいなもんだから」

「そうなんだ。ねえ、そろそろ時間なんだけど、どうする?」

「あ、延長でお願いします」

「やった。うれしい。前金でお願いします」

そうなんだ。勝てないのだ。まあ猛者揃いのあのフィールドで結果が出ないのはある程度仕方がないことではあるが、俺なりに対策を練り続けなければ続ける意味はあまりない。

何が原因なのか。高橋先生や牧野先生に「教養が足りない」とズバリ指摘をされた。まあファム・ファタールとか知らんかったしな。J文学を流行らせようと業界ががんばっていたころは仕事三昧であんまり読めてなかったし、そもそも理系で受験してて文系に転じて爆死した青春だったから、正規の文学教育などは受けておらない。あるのは叩き上げの出版技術のみという、いち職人に過ぎないのであるからして、まあ教養のたぐいは俺の武器ではない。それをいまさら付け焼き刃で取り繕っても仕方がない。そういう小手先のどうこうではなく、なにか根源的な湧き上がる溢れ出る漏れ出す何かが、足りないのだろうと、足りないに違いないのだと仮定して、対策を考えよう。

このところ大猫姐さんが快調だ。昨年優勝の勢いを保ったまま快進撃を続けている。魅力はなにか。一昨年あたりは出来事を並べる感じの作品が多く、伸び悩んでいたような印象があった。しかし去年あたりから、登場人物をゴリゴリと掘り下げ、中の油田をゴポゴポと噴出させて着火するよな、いわゆるエモさが目立って来たような気がする。艶めかしさというか。ストーリーが描く曲線のRが女性的になったというと、ジェンダーフリー的に語弊はあるが、矩形波でないのは確かだろう。滑らかに、しかし、落差は激しく。読むものを大きく揺さぶる。そのような感触の作品が増えているような気がする。気がするする。

参考にはならないなあ。武器が違いすぎる。そういうものが書けるのは、これまで積み上げたものがあるからこそであり、急に真似ようとしたところで上手くできるわけがない。真似てスコアが上がればいいっちゃいいんだが、そう甘いものでもないだろう。

あるいは、多くの破滅派作家がそうであるように、または伊藤なむあひが得意とするような幻想的なレトリックマジックを駆使した、重厚濃厚な物語をド派手にぶちまけたらどうか。いやいや。合わない。ラーメン屋で急にプラ・プランシパルを出されてもオーメルシーとはならない。ラーメン屋ならラーメンを出すべきだ。しかしそのラーメンがお口に合わないようであるのだから、なかなかに絶望が深い。

アカスリ洗体を出て、駅へ向かおうと思ったが、うっかり終電を逃していたことに気づき、引き返して事務所に向かった。最近外泊が多い。このままいくと家なし子になっちまうなとも思ったが、それはそれでいいのかもしれない。元より流離う根無し草なのだし、郷里とか言ったところで他人と親父の墓しかない村にはすでに居場所はない。生まれてからずっと地元なマイルドヤンキー作家を羨む気持ちもあるが、俺の人生には無縁のことだ。このまま流れて東京湾ってことでもまあ、悪くはないわな。東京生まれの山育ち、ハマに流れて東へ流れて、行き着くところは江戸前と。

 

自分の中でぐるぐるしていても結論はでない気がする。ここは素直に他人の意見を聞こうではないか。

「おっちゃんおっちゃん」

返事がない。ただのしかばねのようだ。

「タバコいる?」

それまで沈黙していたダンボール箱に、急に生命の息吹が吹き込まれ、動き出した。

「なんだあんた」

「通りすがりのもんだが、タバコを持っている。差し上げようか」

「めぐんでもらうのは性に合わん」

「ああ、ちょっと頼みを聞いてくれたら差し上げようということだよ」

「それならいいよ」

「おっちゃん学校出た人?」

「こう見えても大学まで出てんだ。バカにするな」

「ほう。あんまりホームレスっぽい面構えじゃないからそうかなと思っていたよ」

「何言ってやがる」

「これ、俺が書いた小説なんだけど、読んで感想くれたら、このタバコを残りまるごとやるよ」

「あ? ほとんど残ってるじゃないか。いいのか?」

「構わんよ。じゃ読んで」

スマホをホームレスに渡して、しばし待つ。他人に触られるのも嫌なうえに、ちんこ触って洗ってないとしか思えない手で自分のスマホをスリスリされるのは極めて不快ではあったが、新たなる自分の模索のためだ。仕方がない。我慢。いや、解脱だ。解脱して一切の衆生を許すのだ。

短編なんで、すぐに読み終えたようだ。

「あんた、なかなか面白いものを書くね」

「そうかい?」

「小説家の人?」

「いいや、そのなり損ないだ。下手の横好きってのが実際のとこさね」

「ふうん。で、何が聞きたい? というか読んだんだからタバコくれよ」

「まあ待て。感想を少し聞かせてほしい」

「感想ねえ。話は面白かったし、読みやすかった」

「それで?」

「他には、とくには」

「そうか」

「どうした元気ないな」

「ほら、タバコ。さっき開けて1本しか吸ってないからたくさんあるよ。ライターもくれてやろう」

「お、ありがてえ」

「じゃあなおっちゃん」

「おう、若けえの」

「若くねえよ」

「ライターの分だけサービスだ」

「なんだい」

「あんたの小説には足りねえもんがある」

「足りないものか」

「ああ、あんたの小説は、殺気が足りない」

「殺気」

「俺は、あんたに声をかけられて、殺されると思った。最近ヤバい若造が多いんでな」

「痛ましい事件は以前からもあるな」

「しかし、作品からはそういった気配がなかった。迫力と言ってもいい」

俺は返す言葉がなかった。平成令和軽薄体。俺が敬愛する作家たちには偏りがある。俺はもとより軽妙な文体の作家を好む。そしてそれは身に染み付いていて離れない。いまさら重厚重圧なものを書けと言われてもそれは無理だ。そうか無理か。

「タバコとライターの分はここまでだ。がんばんな。才能はないが、可能性はあるよ」

「かたじけない」

俺は生意気なホームレスからスマホを取り上げて、彼の居城から立ち去った。殺気のある文章とはなにか。その技法を模索するために。

 

殺気を与えるにはどうしたらいいかを考えても、結論は出ないだろう。殺気が発生しているかどうかは、出す側ではなく、受け取る側にセンサーがなければならないからだ。

ということはつまり、俺が誰かから殺気を与えられたシチュエーションを探し出し、それを再現してやればいいのだ。

女に包丁を向けられたときはヒヤッとした。そういうことか。

武器を向けられると、金玉は縮み上がる。誰でも、いや、非金玉族は金玉じゃないものが縮み上がるんだろうと思うが、とりあえず金玉派であれば縮み上がるのは金玉だ。

包丁よりも優れた武装はいくらでもある。そもそも包丁は武器ではない。日用品というカテゴリの中での殺気王にすぎない。

つまり殺傷を目的としたアイテムであれば、さらに強い殺気を放てるということか。だがしかし、わが生活エリアの内側に、殺傷兵器はない。うちは自衛隊じゃないんだよ。警察でもない。

バタフライナイフなんて気の利いたものも持っていない。せいぜい刃渡り6センチのスイスアーミーナイフが関の山だ。オピネルは欲しいが、もう子供が一緒にキャンプに行ってくれる年頃ではないから、買う意義が薄い。銃剣兼用のサバイバルナイフなんかもどこかに売ってそうだが、銃刀法が強化されて久しいので、運搬に無理がある。いずれにせよ、刃物は所定の訓練を受けなければ、殺傷兵器としては使いにくい。あと、ナイフワークを小説の殺気ために習得するなど、どうかしている。

ファブルを読むと、プロの殺し屋でもいざというときは拳銃を使う。そうだ。刃物なんかより飛び道具がいいに決まっている。エアガンか。いや、殺気について研究するのにエアガンはないだろ。BB弾は当たれば痛いが、エアガンを他人に向ける男が、他人に向けているのは殺気ではなく主に狂気である。俺の小説に足りないのは殺気であり、狂気ではない。違うんだ。違うんだよ。

反社会勢力の友人でもいれば、法外な値段で法外なものを入手することもやぶさかではなかったが、彼は原発作業員になると言い残して出かけたきりもう何年も連絡がないし、そもそも別に友人じゃなかった。以前に小説の相談に押しかけてきた、全身イレズミ小説の全身イレズミ先生は、全身イレズミだけど、実際は工務店のオッサンなだけなのでチャカは扱ってない。ネイルガンなら俺でも自分で買える。

そういえば、往年のハリウッド映画だとシュワちゃんが深夜のホームセンターに押し入って、ショーケースから銃器を調達するシーンがたくさんあった。最近ウォルマートでは取り扱いを中止して全米ライフル協会と対立しているが、そうだ。猟銃なら入手できるのではないか。

 

検索してみた。

 

まずは教習資格認定を受ける。講習を受けて、ヒアリングを受けて、受理されて交付まで1ヶ月ほどかかった。これがあると銃の教習が受けられ、購入申請もできるようになる。

教習は千葉県総合スポーツセンターの射撃場で受けた。百発近く撃つと身体が痛いが、上達は感じる。射撃とはスポーツであると実感した。

購入にあたっては、先に保管用のロッカーを買って固定する必要があった。銃を決めて、そのサイズに合わせてロッカーを購入し、事務所にボルトオンした。ネイルガン大活躍。

そこまで準備して、最寄りの警察署に申請を出すと、ロッカーの設置状況などを確認に来る。それが済んでようやく許可証が発行された。

銃は中古でミロク2000−Lをチョイス。手頃な価格で扱いやすいのが魅力だ。

キャリングケースを買う金が足りなかったので、ヨドバシアキバで三脚ケースを買ってその場しのぎにした。グレーで黄色いアクセントのあるものだ。

さて、準備はOK。それでは、殺気のある小説とやらを書こうじゃないか。

2019年10月2日公開

© 2019 波野發作

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