死者の癒着

巫女、帰郷ス。(第19話)

吉田柚葉

小説

2,570文字

伊藤なむあひさんに捧ぐ。つまり隙間社に癒着する。

スタバではドリップコーヒーしか注文したことがないと言って、そのとびっきりの美女は、紙のカップに入ったソイラテを口に含んだ。で、味がしませんねとつぶやくように言った。彼女の所作のいちいちがとびっきり美しいのはいまさら断るまでもないことだが、そう言って彼女に見惚れてばかりいられないのは、ぼくは今、推理をしなくてはならないからである。

つまり、このとびっきりの美女が、生きた人間なのか、死者なのか、さっさと見極めなくてはならないのだ。

 

近年の通信技術の急速な発達による一番の恩恵は、島国の片田舎にあるボロアパートの一室に居ながらにして世界中の人間とコミュニケーションがとれるようになったことだ。これはほんとうにすばらしい。ツイッターがなければ、きょうという日、うだつの上がらぬへっぽこプログラマーたるぼくがこんなふうにしてとびっきりの美女とお茶をごいっしょ出来るなんて行幸は絶対にあり得なかった。だからそれには心から感謝する。ありがとう。

だけれど、ものごとには必ず良い部分と悪い部分があるものだ。

光があれば影がある。うちのオヤジだって、ものすごくお金をもっているときは、女性関係がめちゃくちゃだった。お金がなくなってからは、女性がよりつかなくなった。あれ? これ全然良い部分と悪い部分の話になってないな。まあ良いや。

とにかく、そういう世界にぼくたちは生きている。今回のケースで言えば、たしかにツイッターを使えば誰とでもつながれる。だけれど、誰とでも、というのが問題になることもある。つまり、スマホの画面の向こうでやり取りをしている相手が、人間なのか、死者なのか、それはじっさいに会ってみないことには確かめようがないのである。

じっさいに会ってみないことには、とたしかに今ぼくは言った。ぼくもさっきまでは、じっさいに会いさえすればその判断は容易だと思っていた。人間は人間だし、死者は死者だからだ。

しかし、このとびっきりの美女を初めてまぢかで見たぼくの脳裏に瞬時にフラッシュバックしたのは、次のようなことばだった。

「近年、人間は死者より死者らしく、死者は人間より人間らしく振る舞う傾向にある。」

2019年10月27日公開

作品集『巫女、帰郷ス。』第19話 (全29話)

巫女、帰郷ス。

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© 2019 吉田柚葉

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