喜一郎とおばあさん

巫女、帰郷ス。(第20話)

合評会2022年11月応募作品

吉田柚葉

小説

3,721文字

11月合評会「童話」応募作品。対象年齢は小学二年生以上です。

喜一郎(きいちろう)さんというでん車にのるのがすきな人がいました。ある日、喜一郎さんは、朝からまんいんでん車にのって、

「きょうもたくさんの人がでん車にのっていて、ちっともざせきにすわれないなあ。思いかえせば、この五年ほどの間に、ぼくがざせきにすわれたことが、いちどもない気がするぞ。これからさき、死(し)ぬまでの間に、いちどでよいからざせきにすわってみたいものだ。」

と、ひとりごとを言いました。

しばらくして、喜一郎さんのとなりで立っていたおじいさんが、

「きみ、ざせきにカバンをおくのはやめなさい。そのカバンがなければ、人がひとりすわれるじゃないか!」

と、大きな声で言いました。おじいさんの目のまえにすわっているおばあさんのとなりに、大きなくろいカバンがおかれていたのです。おばあさんは、おじいさんのことばをむししました。そのかわりに、おばあさんのとなりにすわっていた、こん色のスーツをきたおにいさんが、がばっと、ざせきから立ちあがり、どこかににげていってしまいました。

「おや、ぼくの目のまえのざせきがあいたぞ。でも、このざせきにすわると、やばいおじいさんにいんねんをつけられて、いやな目にあうかもしれない。ここは、やばいおじいさんにざせきをゆずるのが吉(きち)だ。」

と、喜一郎さんは思って、あいたざせきにおじいさんがすわるのを、うらめしそうにながめました。

それからしばらくの間、おじいさんはおとなしくざせきにすわっていましたが、

「きみ、ざせきにカバンをおくのはやめなさい。」

と、もういちど、おばあさんに言いました。おばあさんは、ねむっているふりをして、おじいさんをむししました。それを見て、喜一郎さんはひやひやしましたが、ゆうせんざせきにどかどかすわるおばあさんにはふだんからみんなもめいわくしていたので、まわりのみんなは、おばあさんがやっつけられたらいいきみだ、と思っていました。

おじいさんのせっ教はつづきました。

「えきちょうも言っているが、カバンはひざの上において、ひとりでもおおくの人がすわれるようにしなくてはいけない。」

2022年11月9日公開

作品集『巫女、帰郷ス。』第20話 (全29話)

巫女、帰郷ス。

巫女、帰郷ス。は4話、12話を無料で読むことができます。 続きはAmazonでご利用ください。

Amazonへ行く
© 2022 吉田柚葉

これはの応募作品です。
他の作品ともどもレビューお願いします。

この作品のタグ

著者

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


3.0 (10件の評価)

破滅チャートとは

"喜一郎とおばあさん"へのコメント 11

  • 投稿者 | 2022-11-18 05:51

    「なにをするのじゃ!」と「アイデンティティ」で二度笑いました。
    「破滅派らしい童話」ってなんじゃ? と思っていましたがその答えを得た思いです。

  • 投稿者 | 2022-11-18 23:08

    面白かったです。
    喜一郎さんは電車に乗るのが好きなのに、わざわざ満員電車に乗って迷惑な思いをしてるのもよく分からないし、説教じいさんが何だか知らないけど情に絆されちゃうとか、いちいちよく分かんないのが面白くて笑いました。
    おばあさんのカバンの中身は何かなあ。

  • 編集者 | 2022-11-19 16:06

    ナショナリズムの称揚が外人によってなされるという、皮肉が効いていると思います。童話としては不向きな感じがしますが、そういう常識は破滅派というマジックワードでかき消されますね。

  • 投稿者 | 2022-11-19 21:31

    これが新ジャンル破滅派童話ですね……!
    おばあさん強すぎますね。この後も同じ日常を送るんだろうな、と思わせるラストでした。
    そして、私もおばあさんの鞄の中身が気になりました。種明かしあるかなぁとわくわく読んでたので、明かされないのか!と衝撃的でした。
    喜一郎は何者なのか……成人男性?

  • 投稿者 | 2022-11-20 08:23

    優先席に座るお婆さんが隣に鞄を置いている。難題ですね。なぜそこまで隣の席に鞄を置くのをこだわるのか、亡くなる前に優先席に席を譲って貰えなかったお爺さんの形見なのかしら? とか色々考えました。外国人の登場は皮肉が効いてますね。

  • 投稿者 | 2022-11-20 09:27

    変な婆が列に並ばずにバスに一番に乗り込んできたことがあるので、あ、ちなみに私がその列の一番前に居たんですけど。その時のことを思い出しました。で、私はそれを話にして婆を石で殴り殺しましたけども。この話ではそういう事も無くて、自制心というか、自制力というか、そういうのがちゃんとかかってるなあって思いました。

  • 投稿者 | 2022-11-20 10:02

    すっかり忘れていました。誠に恐縮ではございますが合評会は不参加でお願いいたします。

    著者
  • 投稿者 | 2022-11-20 11:18

     おばあさんがなぜか大きな黒いカバンを座席に置いているという謎めいた状況が提示されれば、読者は意外性のある理由や真相が明かされることを期待して読み進めるので、この終わり方ではもの足りなくないか。/登場人物が多くてごちゃごちゃしている印象。半分以下の人数で充分に成立させられたはず。時間枠も十数分の出来事としてまとめられたと思う。/突然現れた外国人に叱られてトラブルが収束するという着地点に唐突感を感じた。意外性と納得感を併せ持つ結末を心がけたい。

  • 投稿者 | 2022-11-20 12:56

    正統派の童話。うみがめおじさん、関西弁になったり江戸っ子になったりしているけど、生き生きしたキャラクターがよいと思う。アニメで見てみたい。

    • 投稿者 | 2022-11-20 12:57

      ごめんなさい。別の人へのコメントでした……。

  • 投稿者 | 2022-11-20 14:40

    黒いカバンが何を示唆しているのか、それは読み手に委ねられるべき課題だろう。なんでもかんでも文中で説明してしまうのではあまりに無粋で幼稚はないだろうか。なにかわからないものは、なにかわからないままでいいのだ。破滅派だもの(字余り)

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る