エリカのふるさとは、かつて暴動の起こった街である。
彼女の生まれるずっと前の、クリスマスも近い師走のある夜、圧政に耐えかねた人々は軍人の歓楽街として知られるこの街で路肩に並ぶ自動車を次々とひっくり返して火を放った。通りは明け方まで煌々と輝き、火炎瓶に詰められたガソリンの臭気と機動隊が群衆の鎮圧に用いた催涙ガスがいたるところに立ち込めた。死人こそ出なかったものの武装蜂起まで一歩手前のぎりぎりの状況だったと、兄のエリックは隠れて酒を飲むたびにまるで見てきたように語ったものだ。彼も当時は生まれてすらいなかったのに。
ブソーホーキ、ため息と同じく呼気がそっと口の中を通りぬけていくその言葉は甘美な秘密のようにエリカを魅了する。記録から抹消され、公の場で口に出すだけで体制側に目をつけられかねないその暴動は、押し殺したささやきによってのみ語り継がれてきた。エリカもエリックも幼いころから革命戦士になるための訓練と思想教育を受けており、革命の実現のために命を捨てる覚悟はできていた。公立学校でいじめを受けてきた混血児の二人にとっては、地下組織が唯一の居場所である。そこで彼らは暴動の歴史を学び、迫害と構造的差別に打ち勝つには暴力革命を達成するほかにないと教えられてきた。
ある日、教育係の大城さんが十代のトレイニーを集めて言った。
「一ヶ月後に軍の総司令部を叩くことになった。もちろん警備は堅いが、諸君のこれまでの研鑚の成果を見せてほしい」
十数名の子どもたちは、はじめて与えられた任務にニキビ顔を紅潮させ、武者震いする。だが、エリックの表情に一瞬だけ曇りがよぎったのをエリカは見逃さなかった。
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