クリスマスの死

Juan.B

小説

5,951文字

※クリスマス特別小説。
※混血×クリスマス×商業主義×子供×ガミガミ親×弱者×クソ。

「良いか、お前はニコニコして突っ立ってりゃ良いんだ」

「はい」

 

私は赤装束を身に付け、白い付け髭を顔に貼り、そして大きな袋を持って鏡の前に立った。

 

「お前は白人だからサンタの雰囲気が良く出る」

「ハハハ」

「黒人だったら、なんだ?ブラックサンタか?」

「……」

「まあ、良いや、よし、行って来い、近付くガキにちゃんと菓子をやるんだぞ」

 

親方が私の背中をぐいと押し、通用口からフロアに出した。

 

『本日もユニオンモールをご利用頂きありがとうございます……ただいまの時間より……グリーンランドから来たサンタさんとお子様の仲良し撮影会を開催いたします……』

 

私はフロア中央の、一段高く作られた撮影台に据えられた大きな椅子に座った。大きな袋を横にドカッと置く。早速家族連れどもが大勢集まってきた。

 

「ほら、サンタさんだよー」

「良かったねー、写真とってもらおうねー」

「はい、はい、こちらからお並び下さい」

 

私は無言でニコニコしながら首をぶんぶん立てに振る。横の店員が誘導を始めた。

 

「はい、じゃあそこの女の子から、どうぞ」

 

その女の子と言うのも、10歳を超えてディズニープリンセスの顔がデカく編まれたセーターを来ている、太った女児だった。

 

「ふひひ、ひい、サンタさぁん、いひ」

精子せいこー!良いぞ!良いぞー!」

「あの、お客様、まずお写真は一枚こちらでお撮りしますので、その後で」

「あ、すんません」

 

私の膝の上に座ったセイコと言う女児は見た目通り重かった。しかしその両親らしき人物もかなり太っている。私も見かけ上太っている。

 

「いひ、いひひ、サンタさぁん」

「……」

「さーセイコちゃん、サンタさんに、ほら、そっとサンタさんの耳にお願いしてみましょう」

 

店員が促すと、セイコは厚ぼったい顔を近付けて来た。

 

「あ、あの、あのね……私ねえ、シルバニアファミリーの『明りが灯る大きなラブホテル』が欲しいのォ」

 

最近やたらCMで流している擬人化ウサギのおもちゃだ。別に私がここでそれを渡すのではないが、設定上私は無言でグングン頷いた。そして頭を撫でてやりながら、一緒に写真を撮った。店員の持つポラロイドカメラからジーッと写真が出てくる。セイコの事はどうでも良いが、私のサンタ姿は中々サマになっていた。

 

「ホラッ、精子!今度はお父さんが写真を撮るからな!」

「お客様、なるべくお早めに……」

「分かってる」

 

父親らしき人物は、ゴテゴテしたカメラで素直に一枚だけ写真を撮った。セイコは降りて、私から小さな菓子詰を貰うと、ニタニタ笑いながら出て行った。

 

「さあ次はそこの男の子」

 

季節外れの半袖で野球帽を被った、頭の悪そうな少年だ。

 

「さあ、サンタさんに耳元でお願いをしてみましょう」

 

しかしこのガキは耳元でと言っているにもかかわらず、私の顔の近くで大声を出した。

 

「来年、西武ライオンズが優勝しますようにッ!」

 

会場から笑い声が上がる。私は野球の事など詳しくないのだがとりあえずブンブン頷いた。おもちゃやゲームより球団の優勝を願う辺り、もう大よそ個人的願望は満たされているのかも知れない。どこかで野次馬がそいつの連れ合いに言った。

 

「サンタは赤だからカープだろ……」

「フフ」

 

この子供とも写真を撮った。菓子詰を渡すと、野球少年もニタニタ笑いながら去っていった。

 

「さあ次は……」

 

今度はメガネを掛けた、暗そうな女児がやって来た。私の膝の上にチョコンと座る。

 

「お願いを言ってみましょう!」

「ねえ……サンタさんて本当は居ないんでしょ?」

 

私は首をブンブン横に振った。隣に居る店員が驚いた顔をしている。普通は私は肯定しかしない設定なので首を振った事に驚いているのだろう。

 

「サンタさんは親なんでしょ?」

 

私はどうして良いか分からず首をかしげる事にした。そして他の子供より早く菓子詰を渡してやり、顔元から離した。

 

「あっ、あ、サ、サンタさん、優しいですねえ、お願い言えたかな?じゃあ写真撮ります」

 

不服さの混じった皮肉な笑みを浮かべた女児と並んだ写真、その中で笑みを浮かべる事しか出来ない自分。だがこれも給料の為だ。女児はそのままこちらを見ずに去っていった。店員が私に耳打ちする。

 

「何で首を振った?」

「サンタが居ないとか言ったから振ったんです」

「お前は白人の設定なんだからそう言うのには分からないフリすりゃ良いんだ」

 

店員は振り返るといつもの調子で再び誘導を始めた。

 

「さあ次の子は……」

 

……どれくらい時間が経ったのだろうか。もうウンザリしている。腕で抱いてやる0歳児から、未だサンタを信じていると言い張る良いケツした中学生の女児まで、誰とでも写真を撮った。菓子詰も一回補充した。目の前にはもう待機列はない。時々誰かが来るくらいだ。

 

「すんませーん、カップルなんすけど、写真良いすか?」

 

急に死角から話しかけられた。隣で菓子詰の袋を見つつボーッとしていた店員は我に帰り、ヘラヘラしながら促した。

 

「ええ、どうぞどうぞ」

「じゃ、おい、電子、写真撮るぞ」

「ハ?サンタなんていねえし」

「ここに居るじゃん」

「作り物ワロス」

 

電子とか言う頭の非常に悪そうな女が、彼氏の促しに渋々従いながら私の左に来た。右には男が居る。どちらも体中にジャラジャラした物を付けている。

 

「お前さあ、子供居ねえから良いけどそんな事言うなよ」

「早い内から現実知れて良いじゃん」

「まあそっか、ウヒャヒャ、ヒヒヒヒ」

 

店員は二人の会話に苦笑いしながら、差し出されたスマートフォンで写真を撮った。

 

「あざーす」

「このサンタもどき何?どっから来たん?」

 

私は話を振られ、モゴモゴ手を振って動いた。店員が補足する。

 

「グリーンランドから来たんですよ」

「マジ?緑?グリーン?ウケる」

「グリーンて緑じゃん、冬植物咲かないし、ウケる」

 

カップルは今度は二人して笑い始めた。私は別に反論する事も無く座っていた。そんな事をするまでの給料を受け取る予定は無かったからだ。

 

「はい、はい、その、次のお子さんも来るので、そろそろ」

「ウケる、商業主義ウケる」

「早く帰ってケンタ食おうぜ」

「鶏虐殺ワロス」

 

オタクとヤンキーの下痢クソが入り混じった様なカップルは去っていった。店員が私に耳打ちする。

 

「駄目じゃないか、ちゃんと否定しなきゃ」

「……」

 

私はあの二人が家に帰ってチキンを食い終わったら、セックスをするのだろうか、するとしてどんな形でするのか気になった。ワロスとかウケるとか言いながらヤルんだろうか。

 

「おい、聞いてるのか、聞こえないのか」

 

私はとりあえず首を立てに振った。

 

「じゃあしっかりしろ」

 

店員は無精髭を生やした大して特徴の無い顔を離した。赤いエプロンを基礎にしたクリスマス風装束もそろそろボヤケて見える。しばらくすると再び子供が集まり始めた。

 

「よーしじゃあそこの男の子」

 

店員が少年らしき子供を招き寄せると、その母親らしき人物が憤った。

 

「うちの子供のセクシュアリティを決めないで下さい」

「は、はあ」

「うちの子供は男・女と言う物を決めていないんです」

「ああ、はあ」

「ですからうちの子供は太郎と呼んで下さい」

「はあ、うん、太郎くん」

「くん付けをしないで下さい、うちの子供のセクシュアリティを」

 

店員は半ば無視して、太郎を私の方に誘導した。

 

「さて、サンタさんにお願いしてみよう」

「うちの子供に商業主義を教え込まないで下さい、うちでは搾取的行動を……」

 

太郎は私に深刻そうな声で耳打ちをした。

 

「ぼく、自由が欲しい」

 

私は今までに無く大きく頷いた。太郎はもっとお願いをしてきた。

 

「ぼく、ジャンプ読んだ事無いからジャンプ買いたい」

 

母親がその近くでまた何かをわめいている。

 

「太郎、ぼくって言ってないでしょうね、私って言うんですよ、本当に、ねえ分かってる?」

 

太郎は文法をもはや無視して物事を羅列し始めた。

 

「自由……ジャンプ……PS4……ウルトラマン……ガンプラ……」

「太郎、太郎!サンタにいつまでお願いしてるんですか、そもそもサンタなんて居ないのにあんたチョコチョコこっちに勝手に歩いてきて、ねえ、聞いてんの?太郎!」

「お母さん、あの、サンタさんの横はお子様の世界ですから……」

 

店員がうまい事言って母親を引き離している間に、私は太郎に菓子詰をやった。これが取り上げられなければ良いが。

 

「はい、じゃあ写真撮ります」

「あの、フラッシュをたかないで下さい、眼に影響があるので」

「はあ」

 

そうは言ったものの、店員のポラロイドカメラは既に作動し、フラッシュをたいて写真が出てきた。

 

「たくなって言ったでしょ!そもそも何ですかこの男は!」

「お母さん止めて……」

「太郎、静かになさい!あんた男でしょ!ガタガタ言うな!何だ!分かったぞ!あんた小児愛者だな!ペドフィリアだな!」

 

太郎の母親は急にわめき出して私の元に駆け寄り、太郎を引き剥がした。

 

「お、お母さん」

 

そして店員が引き止めるのも無視して私の顔の髭を引っ張った。

 

「あっ」

 

あまりの強さに私は髭を取られた。更に私は太郎と写真を撮るために浅めに座っていたので椅子から落ちて転倒した。

 

「イデッ」

「あああ!白人!皆さん見てください!白人ですよ!意思疎通の出来ない白人を使って搾取してるんですよこの企業は!」

「……」

「……!良く見ると白人じゃない!こいつは!混血か?ええ!?混血は国際強姦だ!混血は搾取ですよ!どちらが、日本人と白人のどちらが性的な搾取を……」

 

私は後頭部を椅子の角にぶつけてクラクラしている。

 

「小児愛者!白人!」

「うぐぐぐ」

「白人!小児愛者!」

「……!」

「混血が日本人の子供を性的に搾取している!」

 

私は後頭部に手をやった。ヒリヒリ痛んでいる。

 

「あんた、何をしてるんだ、止めなさい」

「キイイイイイイイイイイイ」

 

店員が止めるのも聞かず、太郎の母親は発狂し、両手を広げて周囲をけん制した。さながらそれはアラレちゃんのキーンに似ていた。

 

「キイイイイイイイイイイン」

 

私は赤い帽子がずり落ちるのを感じながら、目の前の母親に対して何もする気も起きなかった。太郎はどうしたのだろう?私がずり落ちた後にどこかに走り去ってから太郎の姿が見えない。

 

「……キイイイイ!」

「!」

 

太郎の母親は私の股間を蹴り飛ばした。二度も三度も。ああ、私の睾丸が痛む。私は母親がドイツ系及びイタリア系移民の血を持つブラジル人、父親が日本人だ。つまり日本、ポルトガル、イタリア、ドイツの最低四ヶ国語喋るわけだ、私の精子は。家畜で言うと私はF1種なのだろうか。いや、私の母親が既に混血しているのだから違うのかも知れない。しかしヨーロッパの文化圏内、ドイツとイタリアの違いはそれほど大きいものだろうか。もし私の母親の祖先が北イタリア出身なら……待てよ、第一次大戦以前は北イタリアの一部はオーストリアに支配されていたのだった。今もチロルの人々はそうではないか。それならドイツ系で説明が付くかもしれない。ブラジルにおいてもドイツ系の人々は自分の文化を大切に残している。だが南イタリアで多分にラテン系の特徴を残している人の可能性もある。ちょっと待て、考えよう、私の母親はそれほどゲルマン系の顔立ちをしていないと思う。どうだろうか。目の前では太郎の母親が店員に何重にも固められ拘束されていた。

 

私はタンカに乗せられ、救急車に運び込まれた。救急隊員たちが大げさな顔をして私の下半身を見つめている。サンタの衣装を着た、髭のない白人が運ばれる姿は多くの人のスマートフォンに撮影された。ツイッターでもフェイスブックでも大流行間違いなしだろう。私の口座に後日給料と労災など諸々の手当てが入る事は想像に難くない。気になるのは太郎少年がどうなったかだ。あの母親をいつか殺すかそれとも強姦でもするんじゃないのか。その時は私は彼を弁護したいと思う。判決は無罪、いや賞金一億円だ。私は確かに搾取されている。だが俺も日本人を搾取してやる。金玉が痛え。ウケる。俺はまだ彼女を作ってもいないしソープランドやヘルスに行った事も無い。もしチンコがボロボロになっちまってたらどうしようか。太郎少年にジャンプを買ってやりたい。

 

チンコは無事だった。金玉も少し腫れていたがまあまあ無事だった。医者は私がこれからも生殖行為に参加できる事を保証してくれた。クリスマスには大勢のカップルがセックスするそうだが、俺はそう言う事に関われた思い出が無い。これから色々面倒なことが続くだろう。その時、私の頭の中に、太郎の母親の声である言葉が響いた。

 

「混血」

 

私は病院のトイレの個室で、大よそ普段の様子に戻った自分のチンコを労わり揉みながら、上を見上げた。いつか博多なり九十九里なりに軍船が漂着して大勢のガイジンが日本に乗り込んで来る気がする。元寇ならぬ混寇だ。世の中に混血が溢れれば良い。それが俺へのプレゼントだ。

 

(終)

2016年12月25日公開

© 2016 Juan.B

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