変わらぬ血の輝き

Juan.B

小説

11,755文字

※破滅派オリジナル作品。

与党の幹部議員である足利に『混血』の疑いが掛けられた。左右老若男女問わず日本中が敵に回る中、足利議員は『混血』の疑いを晴らし、『正しき日本人』として生きる事が出来るのか?

~1~

 

 

引きつった顔をした側近達が、事務所の出口のドアを開けた。警備員達と側近に囲まれながら、私は外に踏み出した。途端に幾十ものフラッシュが周囲から突き刺さり、報道陣や野次馬が群がってくる。

 

「足利議員!混血と言うのは本当なのでしょうか!」

「外国人の血筋が入っていると言う情報が出ていますが!」

 

警備員たちが多少横暴に道を開けさせ、送迎車までのわずかなスペースを私は無言で突き進んだ。

 

「足利議員!」

「説明責任はどうしたんですか!」

 

私は口を開きたかった。しかし背後に居る参謀役は私の背中を強く押し、話すべきではないという意思を伝えてくる。とにかく車まで辿り付くと、直ぐにドアを閉め、私と参謀それに第一秘書を載せた車は発進した。私は汗を拭きながら、未だ窓の外からビカビカ光ってくるフラッシュから顔を背けた。

 

「大変な事だ」

 

私は助手席に座っている無口な秘書から更にミネラルウォーターを受け取り、口に含んだ。牛島が外からの光を遮るようにジャケットで窓を覆った後、話しかけて来た。

 

「それで、身に覚えはないのですか」

「ついさっきまで全く知らなかった」

「知らなかったと言わないで下さい、とにかく元々そんな事があり得ないと言う様に振舞って貰わなければ」

「牛島、勿論分ってる……分ってるが、こんな問題は初めてだからな」

「絶対に焦らないで下さい、無用な言葉を発してはいけません」

「……」

 

私はようやく落ち着いてきた車外の風景を眺めながら、参謀役の牛島の言葉も踏まえつつ、とにかくこれからどうするかと言う事を考えていた。しかししばらくすると、今度は私の携帯電話が鳴り始めた。

 

「これから行く事は党は分ってるから……この電話はウチからじゃないか、この大事な時に」

「奥様からですか」

「うん」

「ショックを受けておいでかも知れませんがとにかく落ち着かせて下さい」

「……」

 

私は通話ボタンを押した。

 

「貴方、どうなってんの!」

「落ち着け、千鶴子、落ち着くんだ」

「落ち着けって言われても、アンタがアイノコの子だなんて、今家の周りがテレビの人間だらけなんだよ!?」

「千鶴子、絶対に応対するな、とにかく家に居てくれ」

「ああ、一体……」

「千鶴子、必ず説明してどうにかする、だからしばらく我慢してくれ、昔の事を思い出してくれ」

「若い時にはアンタがアイノコだなんて知らなかった!」

「……私はアイノコじゃない!分ったか!違うんだ!だから落ち着いて、ドアを開けずに、俺を待っててくれ!」

「……分った」

 

通話を終え、私はため息を付いた。分ったと言うが、あの声は不服さも交じっている。千鶴子は私に本当に良くしてくれているが、今度の事は想定外だった。

 

「奥様は」

「家に居ると言ってくれてるが……」

「奥様を信用するしかありません」

 

私は参謀の顔を見ずに、ただ頷いた。確かにそうするしかない。この点、参謀は当たり前の事しか言っていない。勿論当たり前の事を再確認し、急の自体に大ポカをやらかさない様に気をつける役目もあるのだろうが。

 

「まず……ああ、田中、予定頼む」

「ハッ……午後三時から党本部で会議、その後午後五時から『全国正しいおんなの会』代表委員との懇談、午後六時過ぎに御帰宅となっています」

「確実に私の事が議題になるだろうな……何だ、それでその後の会議は向こうからキャンセルされてないのか?」

「はい、今の所は」

 

牛島は静かに声を上げた。

 

「何も恐れる事はありません……キャンセルされないならば平然と応じれば良い」

「疑惑の渦中の野郎と会ったと自慢でもするのかね」

「疑惑が晴れれば良いのです」

 

私は静かに目を閉じて前を向いた。今ここに居る者達は私を信じて来てくれている様だ。私が混血ではないと思ってくれているのだ。そして、私自身、それをどう証明するか。もう両親は鬼籍に入っている。

 

 

~2~

 

 

党本部の一室で、私は十数名の人間に取り囲まれていた。会議と言う名目であったし実際昨日までは和やかに行われるはずだったが、今となっては私への査問会になっている。

 

「それで、貴方が混血でない事を今すぐに証明出来るのですか」

「内密の事ながら、ついさっきまでこの事は全く寝耳に水の事だったのです、しかしこの疑いは必ず晴らします、私は日本人である事を確信しております」

「晴らす、確信、と未だ何の証明も無い内から言い張るのですか!」

「清瀬さん、私が混血であると言う情報こそ証明が無いんですよ」

「言った者勝ちなんですよ!」

 

清瀬と言う女性議員が甲高い声を上げた。非常に傲慢に思えたが、私もその気持ちだけは分った。これはもう党の問題になっているのだ。その時、他の議員が割って入った。

 

「まあ、その、混血だからと言って、今まで十数年間こうして日本の為に実績を築いて来たのだし、その方向で逃げ道を作れば……」

 

私と女性議員はそれに同時に反論した。

 

「私は混血ではない!」

「混血の行った政治に実績など無い!」

 

会議室には一瞬静寂が訪れた。調整役の飯田と言う若い幹部がホワイトボードとプロジェクターと書類とメモを同時にとっかえひっかえしながら声を上げた。

 

「……まずもう一度整理しましょう、混血報道が出たのは昨日付の週間春夏秋冬」

「この報道を党の何者も事前に察知できなかったのがまた問題なのだ、調査室は何をしていたんだ」

「情報元は野党日本再建党の某幹部……」

「あいつら、ハメやがった……」

 

飯田の声と他の議員の声が入り混じる中、私は目を瞑った。我が党は先の総選挙で大きく議席を減らし、未だ連立などで与党及び過半数を保っているとは言え日本再建党に有利な政局に迫られてる。ここで、我が党の若き重鎮とはっきり言える私の疑惑が打ち込まれたのだから……。別の幹部が声を上げた。

 

「今、法務部が対応を練っている所ですが、事態が事態だけに」

「事態が事態、とは何だ!」

「ええ、ですから、法的措置を取る為にも……」

 

このままなら党の敗走は勿論、私の政治生命まで絶たれてしまう。だがもし、ここで一発逆転が出来るなら、形勢逆転以上の効果があるはずだ。その時、田中が私にメモを差し出した。

 

「時間か……ん?」

 

確かに会議の時間を指すメモもあったが、牛島からのメモもあった。

 

「彼が独自に?……そんな、参謀が……いや、分った」

 

私は席を立ち上がった。

 

「これから会議がありますので」

「無責任な!」

「私からは絶対に予定をキャンセルしませんし、あちらからも予定はキャンセルされておりません、私は責任を果たしております!」

 

ざわめく会議室を背にし、私は秘書や数人の警備員と共に颯爽と部屋を出た。

 

 

~3~

 

 

先程の会議室と全く雰囲気が変わり、窓が広く明るい応接室で私は四名の女性と対峙していた。

 

「それで、本当に足利さんは混血じゃないんですね?」

「もちろん」

「私達全国正しいおんなの会は、国際結婚、いや国際強姦による混血の出生に何より反対します!」

「ごもっともです、ごもっとも……」

「普通の結婚ですら殆ど搾取に変わりないというのに、意思疎通や正しい性知識の共有すら危うい忌々しいガイジンどもと恋愛なんて出来る訳は無いんです、ね」

「はい……」

「全ての国際結婚は国際強姦と呼ぶべきで、また混血はその子孫なのだと、先生も分っておりますね?」

「はい……ええ、うん」

「フィリピン人やブラジル人により日本に悪しき性風俗が輸入されセクシュアリティが歪められ更に混血が日々増えている、これほど恐ろしい事は無いんです」

「ええ、ええ」

「足利議員は男性として始めて私達の意見に理解を示した、正しい男性の一人です、ですから私達はこうして先生を応援しているのです、それなのにこんな事態になれば……」

 

私は軽く机をダンと叩き、注目させた。

 

「見てください、私の顔を、私の肌を、どこからどうみても日本人です、私は混血ではありません!私の両親は偉大な……偉大な日本人です、ええ」

「本当に日本人なんですね!ポルノを憎み、性的搾取を憎み、意思疎通の出来ない野蛮で乱れたガイジンどもを憎む、日本人なんですね!?」

「ええ!」

「ああ良かった……足利先生とはこれからもオスと私達女性の闘争の関係であり続けますが、日本人同士である事は本当に良かったと思います!」

 

私は内心ベロを出したい気分だったが、笑顔で応じた。最近この団体に分派が出来たらしいが、彼女達から更に分かれるような分派とは何だろうか?しかし女性達は考える暇も与えず次の話題を出した。

 

「さて、先生には私達の最近のエンパワメント活動を見ていただきたいと思います」

 

部屋に備え付けられたプロジェクターにDVDの映像が投影された。某大手OSプリインストールのムービーメーカーで作られた字幕が浮かび上がる。

 

『全国正しいおんなの会 群馬県太泉町に集住する中南米系在日外国人に対するエンパワメント的啓蒙事業 7月』

 

しかし始まったばかりの映像がここで一旦止まる。

 

「先生、この間、エンパワメントについてお話しましたね」

「ええ」

「覚えておられるなら話して下さい」

「え?ああ、エンパワメントについて?えー……ああ、ブラジルの教育思想家パウロ・フレイレが広めた、その、権利のための思想体系ですね」

「ええ、まあ良いでしょう」

 

映像が再び流れ始める。赤色の街宣車が映し出される。何かノイズの様な音楽をスピーカーから出しながら、街宣車は太泉町の中心に向かい、ブラジルの国旗がデカデカと掲示された恐らく輸入食材を扱うスーパーの前の広場で止まった。車内の映像が映し出され、この場にもいる女性の一人がマイクで何かを喋っている映像が出た。

 

『アテンション!アテンション!ウステーデス、マル!ウステーデス!マル!』

 

メモを見ながら、女性は片言のスペイン語らしき言葉を発した。カメラは急に振り向き外を映し出す。在日外国人や混血と思しき住民が注目している。

 

『ウステーデス!マル!ウステーデス!マル!』

 

外国人や混血たちは密かに笑い始めた。褐色の子供を肩車した黒人の女性が笑っている所に特にズームが入り、更にテロップが挿入された。

 

『低知能の、教育されていない、救済されるべき女性、及び国際強姦の子孫』

 

また映像が止まった。

 

「どう思われますか、このツラ」

「ええー、あー、とても、その、テロップの通りですね」

「ああ、足利さんは良くわかってらっしゃいますね」

 

映像が再び始まる。しかし女性達は映像を早回しした。その流れの中には、頭の横で指をくるくる回す褐色の男や、コロッケらしきものを食いながら大笑いする太った白人女性の姿もあった。褐色や白人の子供たちは駐車場の地べたに座り込んで携帯ゲーム機で遊んでいる。黒人のヨチヨチ歩きの坊やはドギツい色のキャンディーをしゃぶっていた。

 

『知能の低い子供』

 

街宣の声にも力が入る。

 

『メスティーゾ!マル!メスティーゾ エス プタラミエルダ!』

 

早口の映像の横で、映像を流す女性達はうなずきあっていた。

 

「私達のエンパワメント、本当に頑張ってるよね」

「本当に凄い、私達輝いてると思う」

「もっと多くの人が混血の恐怖に気付いてくれたらいいのに」

 

私は適当に頷きながら、早くこの彼女らの気が済んで会合が終わる事を願った。こんな事になるのも、混血なんてものが存在するせいだ。映像の中では、この団体の関係者が混血の子供を指差したことで、現地の外国人たちと小競り合いになり始めていた。私は視線をずらしながら部屋の隅の時計を伺い始めた。

 

『私達の活動についてどう思います?』

『ベツニ……フツーノニホンジンジャナイノ?』

 

 

~4~

 

 

『……でありますから、共産党としまして、与党の幹部が混血であるとするなら、これは重大な問題であると受け止めます。混血は思想の左右を問わず往々にして情勢を見極めず世界的な動きを野暮に求め冒険主義に陥りがちであり……』

 

テレビでは、与党の幹部足利議員の混血疑惑に対する各党の反応が移されていた。

 

「ママ、こんけつってなに?」

「由紀夫、お昼寝してなさい」

「ひるまからカーテンしめて怖いよ、ママ」

「今日はそう言う日なんだよ、さ、ベッドに入って少し寝てなさい」

「ママ、外がうるさい……」

「いいから、横になってれば眠くなるから」

 

千鶴子は無理やり息子を寝かしつけた。そして、外から聞こえる微かなざわめきから逃れる様に、自身は薄暗い部屋の中でテレビに食い入った。

 

『共産党も批判に周りましたね、奥田さん』

『はい、昨今は共産党も天皇陛下、天皇制を文化として認知し反天皇制の動きを事実上取りやめるなどそのあり方に変化が見られます』

『ただ一応それは簡単に共産党の単純な歩み寄りと言う訳ではない事ですね』

『はい、公安による監視の緩和などが内密に取引されたのではないかとの報道があります』

『まあー党自体が転向しつつあると言えなくも無いですがどうでしょう大林さん』

『ええんじゃないですか、アカが大人しくなんなら』

『ハッハッハ……さて再び中継です、現在疑惑の渦中にある足利議員、その自宅前に染谷さんがいます、染谷さんどうですか』

『えー染谷です、現在足利議員の家族が在宅している筈なんですが、えー、インターホンを押しましても何の反応もありません、えー、カーテンなども締め切られております、近所の方のお話も聞きました』

 

自宅が写っている。千鶴子は目を伏せた。しかしテレビからは否応なく音が出る。電源を消す気も起きない。

 

『そおねえ、別に変なご家庭じゃあないと思ってたんですけどねえ、混血なんですかねえ』

 

聞き覚えのある声、つまり近所の人々の声が次々テレビから溢れる。

 

『混血の子孫だとしたらまー嫌ですよね、地価も下がるし』

 

千鶴子はテレビを付けたままその場を離れ、便所で嘔吐を始めた。

 

「うぐえええええっ、げおおおおええええっ、ふうううううっ、ううううっ」

 

テレビの映像はスタジオに戻っていた。

 

『まず時系列順に整理しましょう……週間春夏秋冬の報道によりますと、四十二年前、足利議員の母にあたる足利孝子さんがアメリカのカリフォルニア州に滞在中、現地のアジア系の男と関係を持ったとされています』

『はい、このアジア系の男性は恐らく中国系の男ではないかと言われてるんですよね』

『そして帰国すぐ、以前から交際中だった足利智男さんと結婚、九ヵ月後に出産と……どう思います?少女漫画家の福永さん』

『事実だとしたら女性の隅にも置けませんよねーこういうのがねー日本を悪くするんですよ、社会に悪影響を与えてるんですよね、女性の権利にもね、まず混血は信用できない、足利議員は絶対混血だと思います』

 

這い出た千鶴子はテレビの電源を切った。

 

「あの人は……混血じゃない!断じて!そうでなければ……そうでなければ」

 

千鶴子は震える手で一つの写真立てを掴んだ。息子の由紀夫が生まれてすぐ、家族三人で撮った写真だ。

 

「混血じゃない……混血じゃない……」

 

その時、外からの音が大きくなった。千鶴子は密かにカーテンの僅かな隙間から外をうかがった。

 

『道を開けなさいよー!道を開けろー!女性に道を開けろー!男は失せろー!あいつを批判できるのは私達女だけー!』

『黙れ!黙れ!極左の女は帰れ!なでしこに立ち返れ!失せろ!混血を批判できるのは我々だけなのだ!』

 

“全国もっと正しいおんなの会”なる男女論団体分派の街宣車と、右翼団体の街宣車が我が家の前で罵り合っている。

 

「うぐううッげええ」

 

千鶴子は再び便所に駆け込み嘔吐を再開した。

 

「ママ……ママ!大丈夫!?」

 

由紀夫が起き出して後ろから心配してくる。

 

「ゲヴォッ……由紀夫……いい?……とにかくベッドに居なさい……」

 

その時、外からさらに大きな声が響いてきた。それは両団体が自分の声が一番大きくなるように競争している様で、どんどんエスカレートしていく声だ。

 

『在日外国人!混血!障害者!ホモ!全ての男性を虐殺しろ!この世に聳え立つファルスを倒せ!去勢せよ!聞こえるか足利ァ!お前は一番劣悪な男だ!お前は一番醜い生まれの……』

『売国奴に国政をゆだねるな!混血野朗!わずかでも日本の血が混ざっているなら切腹して大和魂を証明しろ!我が国にお前らの居場所は無い!聞こえるかー!……』

 

更に宗教団体の街宣も交ざってくる。

 

『仏敵足利を倒せ、八次元エネルギーで倒せ、現代の悪魔足利を倒せ、超古代の核戦争の原因は足利にある、サタン足利を倒せ、日食の原因は足利にある……』

 

遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。それと同時に街宣の音は遠のいていった。わずかずつではあるが、静寂が戻って来たようだ。だが千鶴子は椅子に座って頭を抱えたまま時が過ぎ行くのを待っていた。

 

 

~5~

 

 

嵐の様な、悪夢の様な、そんな一週間が過ぎた。

 

「……」

 

自宅のリビングのテーブルで、私はやつれた顔の千鶴子と向かい合っていた。隣の部屋では秘書や協力者が控えている。由紀夫は学校を休み、自分の部屋に居る。

 

「……それで……いつ終わる……」

「もうすぐ、もうすぐだよ、牛島が帰って来れば、あいつはちゃんとやってくれるから」

「……私……もう耐えられない……混血だなんて……」

「千鶴子!何度言えば分るんだ!俺は混血じゃない!」

「……」

 

千鶴子はうつむいたまま返事をしなくなった。音量を絞ってあるテレビからは、まさにこの自宅が映し出されている。家の近くにキャンプを張った“全国もっと正しいおんなの会”なる集団が映し出された。

 

『それで、抗議の時間を分けたんですか?妥協点を探った?』

『妥協じゃない!戦略的転進だ!穢れた男め!私から二メートル離れろ!』

 

男性リポーターは驚いた顔をして、跳ねる様にして団体代表から距離をとった。

 

『……そう、その距離で良い……そうです、非常に難しい決断でしたが、混血を叩き潰す事を優先しそうしました、午前中はあの右翼団体に場を譲り、私達は午後抗議します』

『そ、それで、もう一週間も抗議が続いていますが、成果などは感じていますか?』

『私達のエンパワメントに成果とかそう言うものは無い!私達が輝けるならそれでいいんだよ!分ったか!おい!カメラの向うの足利!お前もだ!お前も……』

 

映像は無理やり切られ、スタジオに戻った。引きつった顔のゲスト達がそれでもコメントを試みている。

 

『……まあ、全ては混血で議員になろうとする様な人のせいですから』

『もう一週間でしょう?進退をいい加減決めるべきでしょ……』

『しかし党が独自の調査を行っていると言う情報もありますが、結果は未だ……』

 

その時、電話が鳴った。

 

「足利だ」

「牛島です!……証拠が全て揃いました!必ず疑いを晴らせます!」

「……!」

 

私は受話器を持ったまま立ち上がった。秘書達が期待に満ちた目で見つめてきた。千鶴子もやや視線を上げている。

 

 

~6~

 

 

情報元であった中国系アメリカ人は買収された事をあっさり認めた。更に、現地で得られた資料や領事館の協力などにより、四十二年前の滞在及び接近のアリバイも取れた。疑いは九割九分晴れた。だが、私にはやらなければならない事が残っていた。

 

「足利議員!血液検査を行うのですか!」

「行います、99%ではなく100%疑いを晴らします」

「議員!議員!」

「全ては後ほどお話します」

 

私は事務所前に群がる報道陣を避け、車に乗り込んだ。息子の由紀夫も前もって車に乗っており、今日は一緒だ。

 

「まず例の病院に向かってくれ」

 

公用車は発車し、通りを走りぬけた。カーナビからテレビの音声だけが聞こえてくる。

 

『さて、大よその疑いは晴れたのではないかと言われていますが、野党の要求、そして本人の覚悟と言う形で、半公開と言いましょうか、プロセスの明らかな血液検査が行われる事になりました、少女漫画家の福永さんどうですか』

『まずね、足利議員に本当にお疲れ様と言いたい、私最初から足利議員は混血じゃないって信じてましたし、足利議員が混血だなんて言ってた人たちはどうかしてるんじゃない?って言いたい、足利さんは絶対シロですね』

『まーそうですよね、足利議員ほどの人が混血な訳ありませんもんね、さあ結果はどうなるでしょうか、CMの後は……』

 

私は音声を聞きながら苦笑いした。その時、電話が鳴った。

 

「千鶴子か……もしもし?」

「貴方……家の周りにはもう誰も居ないよ」

「そうか、右翼も、あの女性団体も、他の宗教とか野次馬とかも居ないか」

「ええ……久しぶりにカーテンを開けられた、本当に気分がいい」

「うん……」

「貴方……信じてたよ、ありがとう」

「……私がお礼を言われる事ではないよ、周りの人の助けが無ければ……それにまだやらなきゃいけない事がある……また後で話そう」

「うん……さよなら」

 

電話を切ると同時に、隣の牛島が笑顔で語りかけてきた。

 

「どうですか、奥様は」

「調子良さそうだった……由紀夫ももう学校に行けるだろう」

「ほんと?」

「ああ!」

 

由紀夫は嬉しそうな顔をした。

 

「後は結果次第ですな……何、これが終わったら今度やられるのは相手側なんだ、これからが楽しみですよ、あらゆる手段でやり返してやりましょう」

「そうだな……ハッハッハ」

 

車は病院に着いた。私は急いで中に入り、予定の手順の通り、採血された。院内の一室、看護師が持つ注射器に私の血が吸い上げられていく。その血の色は真っ赤だった。息子の由紀夫からも血が取られる。由紀夫は歯を食いしばり注射を我慢した。そして血はすぐさま専用のケースに入れられた。

 

「……以上で採血は終了です」

「どうもありがとう」

 

私達は病院を後にした。由紀夫が不思議な顔をしている。

 

「パパ、けつえき検査って、病院でやらないの?」

「何を言ってるんだ由紀夫、血液検査ってのはな……まあ良い、これから起きる事を見てれば分るさ」

 

未だ納得のいかない顔をしている由紀夫の頭を撫でてやりながら、私は暫く外を眺めていた。遠くに大きな鳥居が見える。

 

「ほら、あれが靖国神社だ」

「へえー」

 

牛島も鳥居を指差しながら由紀夫に話しかける。

 

「由紀夫坊ちゃん、靖国には行った事あるかい?」

「ううん、ない」

「今からあそこに行くんだよ」

「えっ?」

 

由紀夫が私の顔を見る。私も笑って頷いた。車は靖国神社の駐車場に入った。

 

 

~7~

 

 

靖国神社の本殿の前に、大勢の人が集まった。神官が御幣を持ちながら祝詞を唱えている。そして神聖な縄で囲まれた中心には、私と由紀夫の血液ケースがあった。

 

「高天原に神留座す、神魯伎神魯美の詔以て……」

 

私と由紀夫、そして関係者は神官の横に控えて正座し、ただ何が起きるかを見つめていた。僅かに許可された報道陣も厳粛な面持ちでこの様子を見ている。一帯には祝詞の声しか響いていない。

 

「……」

 

私はただ只管に神聖さへ身を浸し、古代より日本を見守ってきた神々と英霊達の意を感じながら、目を瞑り、全てが滞りなく終わるのを待った。私は混血ではない。断じて!……そして神官達の祝詞が終わった。神官たちはしばらく時が過ぎるのを待っていたようだった。

 

「……」

 

物音がして、私が目を開けると、神官たちは私と由紀夫の血の入ったケースを、トングの様なもので摘み上げ、掲げた。

 

「……血に何の穢れも現れません……全ての神、英霊の前において、両名が混血ではない事を証明し奉ります」

 

全ての荷が降りた瞬間だった。私は安堵の気持ちで一杯になり、ただ平伏した。由紀夫も私の真似をした。全ては晴れたのだ。多少、歓喜の交ざったざわめきが起きたがすぐに静まり、神官たちは終わりの祝詞を唱え始めた。私はただただ、日本と言う国体への感謝ばかりが募った。嗚呼!そして私は由紀夫に、小さな声で語りかけた。

 

「お父さんは、日本人だ……勿論お前もな」

「うん……本当に良かった」

「ああ、お父さんは混血じゃない、お前も……そしてずっとこれからもだ」

「うん!……」

 

靖国の空は広く晴れ渡っていた。

 

血液検査の儀式が終わった後、沿道で多くの人の歓迎を受けた。

 

「議員!おめでとう!」

「最初から信じていましたよ!」

「よっ!日本人!」

「おめでとう!本当におめでとう!」

「おめでとう!」

「おめでとう!」

「おめでとう!」

 

私は深々と礼をした。控えていた清瀬議員や他の議員達も進んで来た。

 

「やはり日本人だったんですね!信じてました!」

「ええ」

 

私は向き直り、報道陣に向かって叫んだ。

 

「本日示されましたとおり、私は混血ではありませんでした、本当に良かったと思います!私は混血ではなかった!私は混血じゃない!日本人だ!ずっと!」

 

拍手が響く。私は混血じゃない!私は穢れた血ではないのだ!すばらしい!私は、私の一家は、我が党は……再び安心を取り戻した!拍手の中で私の心は幸福に包まれていた。

 

 

~8~

 

 

そして再び私は拍手に包まれている。私の議席に向かって万雷の拍手が響いているのだ。議長のアナウンスが響いた。

 

「……足利武雄君を第100代総理大臣に指名致します」

 

私は深々と礼をした。あの混血騒ぎから何年経っただろうか。あれ以後も色々あったが、あの騒ぎの時ほど心身が消耗した事は無い。全ての出来事は過ぎ去っていったが、家族・党・総理大臣なる存在、そして日本の血が私の前に残った。私は正しい日本の為に、邁進しなければならない。混血が蔓延る日本などもっての他だ!

 

そして私は天皇陛下の元へ向かい、親任式に臨んだ。

 

「……」

 

厳かな面持ちの天皇陛下から詔書が手渡された。この時、私は光栄と責任を背負った。この日本から穢れの多い連中を消し去って行く為に!日本人に、男も女も老いも若きも差は無いのだ!栄光に向かって前進しよう!嗚呼!嗚呼!嗚呼!

 

 

 

(終)

2017年1月11日公開

© 2017 Juan.B

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