「第45回吉川英治文学新人賞」が3月5日に発表され、藤岡陽子『リラの花咲くけものみち』(光文社)に決定した。また、「吉川英治文学賞」に黒川博行『悪逆』(朝日新聞出版)、「吉川英治文庫賞」に阿部智里「八咫烏」シリーズ『烏百花 白百合の章』(文春文庫)がそれぞれ選ばれた。

 『宮本武蔵』などで知られる大衆作家・吉川英治の偉業を記念して設立されたもので、故人が生前ひそかに希い続けていた遺志をうけて1962年に設立された。以来「吉川英治文学賞」と「吉川英治文化賞」を設定してきたが1975年から「吉川英治文学新人賞」、2016年から「吉川英治文庫賞」が新たに設けられた。

 毎年1月1日から12月31日までに、新聞、雑誌、単行本等に最も優秀な小説、評論、その他を発表した作家に贈呈される。

 藤岡陽子は1971年京都府生まれ。同志社大学文学部卒。新聞社勤務を経て、タンザニア・ダルエスサラーム大学に留学。慈恵看護専門学校卒業。2009年『いつまでも白い羽根』(光文社)でデビュー。著書に『手のひらの音符』『晴れたらいいね』『おしょりん』『満天のゴール』『この世界で君に逢いたい』『きのうのオレンジ』 『空にピース』など多数。

 黒川博行は、1949年愛媛県今治市生まれ。京都市立芸術大学美術学部彫刻科卒業。高校の美術教師などを経て、1983年「二度のお別れ」で「第1回サントリーミステリー大賞」佳作を受賞し、翌年、同タイトル単行本(文藝春秋)でデビュー。1996年『カウント・プラン』(文藝春秋)で「第49回日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)」を、2014年『破門』(KADOKAWA)で「第151回直木賞」を、2020年に「第24回日本ミステリー文学大賞」を受賞。

 阿部智里は、1991年群馬県前橋市生まれ。早稲田大学文化構想学部在学中の2012年、『烏に単は似合わない』で「松本清張賞」を史上最年少で受賞。17年、早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。デビュー作から続く壮大な異世界ファンタジー「八咫烏」シリーズは現在は第2部へと突入、外伝も含めて24年2月発売の新刊『望月の烏』で12冊を数える。24年4月からNHKアニメ「烏は主を選ばない」が放送開始予定。ほかの作品に『発現』がある。

 最終候補には受賞作のほか、荒木あかね『ちぎれた鎖と光の切れ端』(講談社)、斜線堂有紀『回樹』(早川書房)、武内涼『厳島』(新潮社)、多崎礼『レ―エンデ国物語』(講談社)の五作があがっていた。

 選考委員は、朝井まかて、大沢在昌、京極夏彦、辻村深月、村山由佳の五人。

 なお、贈呈式は4月11日に行う。受賞者の藤岡には、正賞として賞牌、副賞として賞金100万円が贈られる。