滝口悠生「反対方向行き」(交通新聞社刊『鉄道小説』収録)が『第47回川端康成文学賞(主催:川端康成記念会、後援:新潮社)』を受賞した。

 川端康成文学賞は、日本人初のノーベル文学賞受賞者である川端康成の没後、その賞金を基金にして生まれた。短篇小説を対象とする賞としては日本で最も権威のある小説賞として50年近く営まれてきた。過去の受賞者にはノーベル文学賞作家・大江健三郎や古井由吉、安岡章太郎、筒井康隆から山田詠美、江國香織、町田康など。2019年に惜しまれつつ一時休止したが、川端康成没後50年を翌2022年に控えた一昨年、待望の復活を果たした。今年の選考委員は、荒川洋治、角田光代、辻原登、堀江敏幸、村田喜代子の五人。昨年は上田岳弘「旅のない」が受賞している。

 「反対方向行き」は、湘南新宿ラインのボックス席に座り、亡き祖父・竹春の家に向かうなつめを主人公にもう戻れないはずの時間、もういないはずのひとの記憶と、思いがけない出会いが交錯する旅の一日を描いた短編。

 『鉄道小説』(交通新聞社)は鉄道開業150年を記念し、昨年発売された“人と鉄道の記憶”についての物語を集めた短編集。滝口のほか、乗代雄介「犬馬と鎌ケ谷大仏」、温又柔「ぼくと母の国々」、澤村伊智「行かなかった遊園地と非心霊写真」、能町みね子「青森トラム」と五人の作家がそれぞれ鉄道に関する短編を寄稿している。

 滝口悠生は1982年、東京都八丈島生まれ。2011年、「楽器」で『第43回新潮新人賞』を受賞し、デビュー。2015年、『愛と人生』で『第37回野間文芸新人賞』を受賞。2016年、「死んでいない者」で『第154回芥川龍之介賞』を受賞。今年、『水平線』で『第39回織田作之助賞』ならびに『第73回芸術選奨文部科学大臣賞』を受賞した。