今月は新潮、文學界、群像、すばるの4誌が発売された。4誌の概観をここで紹介しよう。

新潮 2022年6月号

・町屋良平による新連載「生活」がスタート。作家の父を持ち、母は駆け落ちし、夢もなければ金もない二十歳の男を通し、流れる時間を掴む挑戦作。『ほんのこども』で新境地を見せたばかりの町屋だが、まだまだ底の知れなさを見せてくれそうだ。

・『第46回川端康成文学賞』が発表。芥川賞作家・上田岳弘「旅のない」が受賞。コロナ渦を描く初短編集で結果を出すあたりは流石。選評も気になるところ。

・蓮實重彦による「青山真治をみだりに追悼せずにおくために」という、三月に亡くなった青山真治監督への、御大らしいタイトルの追悼文も掲載。

・いまだに戦争状態が続くウクライナ。四方田犬彦は「それでもロシアはなぜ懐かしいのか」で戦争の現在を忘却の「混血児作家」から辿る。

文學界 2022年6月号

・巻頭表現は、西川火尖による「空容器」。2020年に、『俳句界』発行元である文學の森が主催する『第11回北斗賞』受賞し、昨年末に同社から句集『サーチライト』を発売したばかりの新鋭が勢いそのままに巻頭を飾る。

・創作では、『「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか』(青土社)でも知られる鈴木涼美の初中編「ギフテッド」。歓楽街に住む娘と、「詩を書きたい」と彼女を訪ねる母との関係を描く。磯﨑憲一郎「日本蒙昧前史 第二部」が登場。さらに、「穀雨のころ」で九段理江とともに『第126回文學界新人賞』を受賞した青野暦による受賞第一作「夢と灰」を掲載。

個人的に注目したいのは、中野沙羅「鳥たちは遠くで騒ぐ」(2022年上半期同人雑誌優秀作)。芥川賞作家・吉田知子が発行する同人誌『バル 9号』掲載作で、この同人誌だけでも凄まじい存在感だがきっちり優秀作を送りこんでいるところがまた凄い。

・三月に発売した『現代思想入門』 (講談社現代新書)が好評な千葉雅也と、同じく三月に『雌伏三十年』(文藝春秋)で自身初の私小説を上梓したマキタスポーツによる対談「ボケは希望である」では何が語られるか。

・故青山監督と親交も深かった阿部和重による「You Can’t Always Get What You Want――青山真治追悼」も掲載。

群像 2022年6月号

・『第65回群像新人文学賞』が発表。2072篇の応募の中から「当選作」に小砂川チト「家庭用安心坑夫」、平沢 逸「点滅するものの革命」の2作が選ばれた。

・創作では、鴻上尚史「愛媛県新居浜市上原一丁目三番地」、第166回芥川龍之介賞候補作『オン・ザ・プラネット』(講談社)でも話題となった島口大樹による「遠い指先が触れて」、長島有里枝「フィービーちゃんと僕」が掲載。

・阿部公彦による新連載「事務に狂う人々」がスタート。初回は夏目漱石と事務について語られるようだ。

・日本在住のクルド人一家を通して日本の難民問題を描いた映画『マイスモールランド』で、衝撃の初長編デビューを果たした川和田恵真監督と、シングルマザーとスリランカ人の恋愛という、こちらも日本での移民問題を描いた『やさしい猫』で吉川英治文学賞を受賞した中島京子。社会の不条理を「家族の物語」として紡ぐ二人による対話「見えない現実をフィクションで描く」は必読。

・連載では、長野まゆみ「ゴッホの犬と耳とひまわり」が最終回を迎える。

すばる 2022年6月号

・2018年に『無限の玄』で三島由紀夫賞を受賞した古谷田奈月による「フィールダー(1)」が掲載。

・日本の小説を英訳する翻訳家であり、自身の仕事周りへの取材をエッセイ・ルポとしてまとめた『文芸ピープル 「好き」を仕事にする人々』(講談社)などの作家としての活動でも知られる辛島デイヴィッド。彼による小説「インターセクションズ」も掲載。

・『第七回渡辺淳一文学賞』には、葉真中 顕による『灼熱』が選ばれた。また、『第三十七回詩歌文学館賞』に田中庸介『ぴんくの砂袋』、志垣澄幸『歌集 鳥語降る』、遠山陽子『輪舞曲』[『遠山陽子俳句集成』所収]の三作となった。

・【追悼:青山真治】では田中慎弥「生き残った者として」、原田ひ香「忘れられない一日」が寄せられた。

以上、2022年5月発売の4誌について、概観を紹介した。読書の一助になれば幸いである。