今月は新潮、文學界、群像、すばるの4誌が発売された。4誌の概観をここで紹介しよう。

 

新潮 2019年3月号

・トップに、吉本ばななの「ミトンふびん」。ヘルシンキの街にかけおちの様にやって来た二人組に訪れる時間とは。

・黒田夏子による、記憶をたどるような掌編三連作「ひきだし火事」「さかさ率」「うろの中の天」が掲載される。

・藤井光による訳・解説の、ジェン・シルヴァーマンの小説「白人たち」が掲載される。白人上流階級の価値観に悩みつつ生活する夫婦の行方や如何に。

・古川日出男の文学評論「三たび文学に着陸する」では、かつての日本文学に現れてきた少年たちの姿からこれからの日本文学の姿を予言している。

・黒川創と片山杜秀による対談「鶴見俊輔とは何者だったのか?」も目が離せない。2015年に亡くなった思想界の巨人の残した遺産を二人が語り尽くす。

 

文學界 2019年3月号

・川上未映子「夏物語」(前編)がトップとなった。親子関係に不安を覚える世代にあてられた小説である。

・芥川賞作家への「最速インタビュー」として、「ニムロッド」の上田岳弘による「切なさと可愛げと」、「1R1分34秒」の町屋良平による「アマチュアからプロのリングへ」が掲載。芥川賞作家を目指す人必見であろう。

・筒井康隆が松浦寿輝を聞き手に小説を語り倒すインタビュー「作家人生を語る」は要注目である。常に大きな話題を振りまいてきた多才な作家は松浦に何を語るのか。

・小特集の「越境する演劇」では、岩井秀人・千木良悠子・橋本倫史によるそれぞれの演劇論が展開される。フランスとドイツを中心にヨーロッパの演劇事情の今が明かされる。

 

群像 2019年3月号

・トップとなった宮下遼の創作「青痣」は、伝説の煙草を巡る母娘の関りを丁寧に描写した小説である。

・平野啓一郎と芥川賞作家上田岳弘による特別対談「変容する世界をどう描くか」では、仮想通貨を扱った上田の芥川賞小説「ニムロッド」を取り上げながら、これからのテクノロジーの発展と小説との関わり方について濃密に思考を交わす。

・大澤真幸と國分功一郎による特別対談「自由・中動態・責任」では、社会学と哲学の互いの立場から「自由」の在り方について語り合う。大澤真幸は今度「〈自由〉の条件」が文庫化されており、要注目の学者である。

・藤野可織の連作小説「ピエタとトランジ〈完全版〉」は12話を数えて今月で完結となる。「おはなしして子ちゃん」に載って以来の完全版の全貌が明らかになる。

 

すばる 2019年3月号

・新連載は桐野夏生によるディストピア小説「燕は戻ってこない」。医療事務職に勤めつつも貧困にあえぐ女性リキは、卵子提供の誘いを受け……と言う興味を惹かれるストーリーである。

・小説は保坂和志、島田雅彦、綿矢りさ、椎名誠。島田雅彦の「君が異端だった頃」は今月で最終回となる。

・堀田善衛と武田泰淳の全集未収録原稿が採録される。中国文化に深く関わった二人から学ぶことは多いだろう。

・すばるスペシャル1として「平成とカルチャー」が特集された。倉本さおり、清田隆之、矢野利裕が少年ジャンプから小室哲哉まで様々な平成を評論する。

・中西進による、梅原猛の追悼記事が掲載されている。津田左右吉による古代史観を批判した梅原に再び脚光が当たる。

 

以上、2019年3月発売の4誌について、概観を紹介した。読書の一助になれば幸いである。