今月は新潮、文學界、群像、すばるの4誌が発売された。4誌の概観をここで紹介しよう。

 

新潮 2018年12月号

・巻頭は岸政彦の三作目の小説「図書室」である。作者のツイッターアカウント曰く「飛躍したり飛翔したり」する作品であるという。是非その躍動感に期待したい。
・高橋弘希の芥川賞受賞第一作「アジサイ」が掲載される。また、大前粟生「ドレスセーバー」、滝口悠生「続アイオワ日記」なども掲載される。

・森田真生の連載「そして、言語から生命へ」が12月号で完結する。2年間にわたる濃密な思索に敬意を表したい。

・注目は、はめにゅーでもお伝えしたヘミングウェイ未発表小説「中庭に面した部屋」である。日本初公開のこの作品はヘミングウェイの新たな一面を切り開くものとなるだろう。

・特集は「差別と想像力――「新潮45」問題から考える」。系列の雑誌が起こした筆禍に対し新潮はどう答えるのか注目だ。

・「宮本輝『流転の海』シリーズ完結記念」として、同シリーズに対する二つの評論が掲載される。

・四方田犬彦「数多くの〈五月〉の後に」は1968年からの現代までの民衆と政治の関係を追うエセーである。

 

文學界 2018年12月号

・特集は「書くことを「仕事」にする」。東浩紀、辻本力、武田砂鉄、吉田大助、犬山紙子、川口則弘、オカヤイヅミら作家・ライター陣が自身の「仕事」について語る。ライター志望なら是非とも読みたい特集だ。

・創作に松浦寿輝「人類存続研究所の謎あるいは動物への生成変化によってホモ・サピエンスははたして幸福になれるのか」、ほか砂川文次と玉置伸在が掲載。
・特別エッセイとして金井美恵子「首の行方、あるいは……」が掲載される。
・評論では佐々木敦の「FOR YOUR EYES ONLY ──映画作家としてのアラン・ロブ=グリエ」が掲載される。ヌーヴォー・ロマンの代表的作家を佐々木はどう語るのか。
・連載小説は田中慎弥、西村賢太、阿部和重、宮本輝。
・エセーに西村賢太、藤代泉、舩橋淳など。

・文學界新人賞についての情報も掲載される。

 

群像 2018年12月号

・創作では上田岳弘「ニムロッド」(200枚)が登場。採掘課の課長となった主人公が見た世界とは。

・同じく創作として舞城王太郎「裏山の凄い猿」(70枚)。行方不明になった4歳児が実は人語を喋る猿に育てられていた。それを知った主人公は……。

・新連載は乃南アサの「チーム・オベリベリ」。明治時代の女学校に生きる女子を描く。

・第62回群像新人評論賞の当選作、長﨑健吾「故郷と未来」が掲載される。文学者志望ならぜひ目を通しておきたい。

・連続対談は富岡幸一郎×佐藤優の「「危機の時代」を読み解くⅡ」。「ニヒリズムが蔓延する現代の危機を問う」としており、社会全般を問う対談となりそうだ。

・エセーに高山羽根子、九螺ささら、戸田学、瀬々敬久。

 

すばる 2018年12月号

・創作は島田雅彦、金原ひとみ、綿矢りさ。

・温又柔の小説「誇り」が掲載される。作者が大学生の頃、ある神社の傍でとあるビラを目にして以来ずっと書きたかった作品であるという。台湾系作家の新作に注目である。

・評論に佐々木敦「地理的身体たちの演劇」。岡田利規の演劇「プラーターナー:憑依のポートレート」を観劇した佐々木が語る演劇論とは。

・奥泉光といとうせいこうが、フローベール「ボヴァリー夫人」について紙上漫談。

・エセーは今福龍太、鴻野わか菜。

・北京在住の作家横山悠太による「唐詩和訓」が最終回を迎えた。この連載で中国詩の面白さに気付いた人も多いだろう。

 

以上、2018年12月発売の4誌について、概観を紹介した。読書の一助になれば幸いである。