今月は新潮、文學界、群像、すばる、文藝の5誌が発売された。5誌の概観をここで紹介しよう。

新潮 2022年5月号

・没後50年を迎えた川端康成。新たに見つかった「篝火」草稿ほか、三島由紀夫が自衛隊の市ヶ谷駐屯地で自決する8か月前に川端に送ったとされる書簡、横光利一による川端への書簡が初公開。ノーベル文学賞受賞作家の死から半世紀、いまだに人気を得る川端の作品と、彼とともに世界で日本文学の確固たる地位を築き上げた文豪たちは何を語り合ったのか、要注目である。

・創作では、三島賞作家の温又柔による「祝宴」。主人公が日中台を舞台に多様な生を切り拓く渾身作は、マジックリアリズム的快作と銘打たれている。ほかに、かげはら史帆による「メアリー・Bの献呈」も掲載。

・ウクライナ・キエフ近郊ブチャでロシア軍による民間人の虐殺が報道され、混迷を極める世界情勢。緊急報告として、ロシア文学研究者であり、翻訳者の奈倉有里による「無数の橋をかけなおす――ロシアから届く反戦の声」、スーザン・ソンダクの伝記『ソンダク:彼女の人生と仕事』でピリッツァー賞を受賞した米作家ベンジャミン・モーザー、訳・村松潔の「本の武器庫――キエフの文化的最前線からの報告」を掲載する。

・第55回『新潮新人賞』応募規定、新選考委員が発表され、鴻巣友季子と田中慎弥に代わり、新たに上田岳弘と金原ひとみが加わった。

文學界 2022年5月号

・『第127回文學界新人賞』には、年森瑛としもりあきらによる「N/Aエヌエー」が選ばれた。なんでも選考委員満場一致での受賞作となった模様。タイトルといい、主人公・高校生のまどかは「かけがえのない他人」に憧れていたのだが……という意味深なあらすじといい、今年の賞レースに絡んでくるのか、読者自身の目で確かめてほしい。

・今月号は【特集】幻想の短歌と題し、短歌表現の最前線を追う。北山あさひや佐クマサトシなど現代短歌の世界で活躍する10人の短歌7首連作や、大森静佳×川野芽生×平岡直子による座談会「幻想はあらがう」など、現代短歌の最前線を知るにはこれ以上ない充実した内容。

・創作では、ともに芥川賞作家の絲山秋子「神とお弁当」と滝口悠生「レイニーブルー」が掲載。

・個人的に注目したいのは、2019年から西崎憲が主宰し、ネット文芸界で話題となっている文芸作品によるトーナメント戦『ブンゲイファイトクラブ(BFC)』、昨年行われたBFC3で準優勝するなどネット文芸で頭角を現し、『第28回三田文学新人賞』でも「あたう」で佳作を受賞した坂崎かおるによるエッセイ「エーゴ」だ。文壇とネットの境界を塗り替える兆しとなるか。

群像 2022年5月号

・『貝に続く場所にて』で芥川賞を受賞した石沢麻依の受賞後第1作となる「月の三相」が掲載される。360枚という大作ということからも、今後の賞レースに絡んでくることは間違いないだろう。

・伊藤春奈「ふたり暮らしの〈女性〉史」、大山顕「撮るあなたを撮るわたしを」、永井玲衣「世界の適切な保存」新連載3本がスタート。

・創作では、川上弘美「ロマン派」、柴崎友香「帰れない探偵 探す人たちの国の物語」、髙橋陽子「川むこうの丘」、町田康「日本武尊」が掲載。

・増村十七による、NHK Eテレ『100分de名著』のレポ漫画「100分de名言を求めて」。今回は戸谷洋志講師による「ハイデガー」がテーマ。

・連載では、青山七恵「はぐれんぼう」、斎藤幸平「マルクスる思考」が最終回を迎える。

すばる 2022年5月号

・今月号は小説に注目。山田詠美による「F××K PC」。PCはパソコンではなく、ポリコレである。タイトルからして不穏だが、ポリコレに悩まされる作家・山川英々が〈私が好きなのは、男に凌辱されることです。〉小説をこう書き出して、英々は窮地に陥るのである――あらすじからも問題作感満載である。ほか椎名誠「ムロト川異変」、金石範「地の疼き(前編)」、兎束まいこ「バナナは腐る」が掲載。

・桐野夏生×よしながふみによる対談「無限の可能性を秘めた「子ども」の前で」最新作『燕は戻ってこない』で代理母となった女性を描いた桐野。女系相続を主流とする江戸時代の『大奥』を描いた、漫画家よしながふみ。二人が政治と出産の関係性の中で翻弄される時代の女性たち、そして「子ども」について何を語るのか。

・評論では、倉数茂「家父長制社会に「女」という文字を書きこむ──『燕は戻ってこない』論」で桐野の新刊を現代社会と照らし合わせつつ読み込む。

文藝 2022年夏季号

・現代ロシア文学における最重要作家ウラジミール・ソローキンの「プーチン 過去からのモンスター」を緊急掲載。『青い脂』などアヴァンギャルドな作風でも知られる彼は、ウクライナ侵攻という蛮行を決断してしまった自国の大統領になにを思うのか。

・【特集1】怒り「感情だけは奴らに渡すな」として、阿部和重、小川哲、山内マリコ、谷崎由依、ジョヴァーニ・マルチンス(訳・福嶋伸洋)の短編を掲載。

・【特集2】フォークナー没後60年・中上健次没後30年では、池澤夏樹×柴田元幸×小野正嗣×桐山大介という豪華布陣で座談会も。アメリカ文学、日本文学にそれぞれ大きな影響を与えた二人。中上は特にフォークナーからの影響を大きく受けた。日本、アメリカ、そして世界文学をよく知る各人は二人をどう捉えるのか。

・【特集3】平家! 犬王! 平家!では、アニメ、映画化で話題の『平家物語』『犬王』、原作者の古川日出男と監督の湯浅政明が対談。

・【特集4】SFマガジン責任編集「グレッグ・イーガン祭」として、酉島伝法×橋本輝幸×長谷川愛の座談会を掲載。ハードSFの代名詞と言っても過言ではない、SF作家グレッグ・イーガン。難解でありながら、世界中で人気を誇る彼の作品の魅力について三人が大いに語る。

以上、2022年4月発売の5誌について、概観を紹介した。読書の一助になれば幸いである。