今月は新潮、文學界、群像、すばる、文藝の5誌が発売された。5誌の概観をここで紹介しよう。

新潮 2024年2月号

・『構造と力』がついに文庫化された浅田彰のロングインタビュー「アイデンティティ・ポリティクスを超えてーー『構造と力』文庫化を機に」一世を風靡した自著に対して、40年後に思うことを語る。

・小川哲と高瀬隼子による対談「小説家は嘘をつく」(司会・原稿構成=渡辺祐真)。作家になった理由からサバイブ術まで。純文学とエンタメの気鋭による忌憚のない初対談。
・創作では、内村薫風「ボート」、小野正嗣「静かな場所」、福永信「夢のなかの政治家の夢」、崔実「ビックバン」、本谷有希子「ブルーライトが目に刺さる」、藤野可織「スイスへ.docx」、川上弘美による連作「あなたたちはわたしたちを夢みる」が掲載。

・「クイア/黒人」若手作家ブライアン・ワシントンの柴田元幸による本邦初訳「ロックウッド/610北、610西」。

・【短期集中連載】として、石川直樹「最後の山」第一回。チョオユー8000メートル峰14座の登頂制覇まで残り2座。最後の挑戦を追ったリアルタイム手記。

文學界 2024年2月号

・【創作】では、島田雅彦による短期集中連載第1回「大転生時代」、千葉雅也「幅が広い踏切」、坂崎かおる「海岸通り」、又吉直樹の短期集中連載第2回「生きとるわ」が掲載。

・酒井泰斗と吉川浩満による【新連載】「読むためのトゥルーイズム――非哲学者による非哲学者のための〈哲学入門〉読書会」がスタート。

・【特集】「没後100年、これからのカフカ」として、没後100年を迎えたフランツ・カフカにフォーカス。上田岳弘×藤野可織×小山田浩子、司会・川島隆によるシンポジウム「カフカを読みながら、書き続けるということ――「作家が語るカフカ」」、昨年行われた公募「フランツ・カフカ ショートストーリーコンテスト」受賞作である、仲白針平「傘《最優秀作》」、清水翔太「翳り《優秀作》」、川島隆の評論「カフカの『フェリスへの手紙』について」を掲載。

 さらに、いとうせいこう「absurdについて」、九月「マヨンツ・マヨカ「変遷」」、九段理江「カフカだカフカ」、グレゴリー・ケズナジャット「入管でカフカを読む」、ケラリーノ・サンドロヴィッチ「兄妹のはなし」、山村浩二「禿鷹と橋」と豪華執筆陣によるエッセイを一挙。

群像 2024年2月号

・創作は、高瀬隼子「新しい恋愛」、いしいしんじ「息してますえ」、小川洋子「今日は小鳥の日」、群像初登場の川野芽生「兄の帰還」、高橋源一郎「オオカミの」。

・平山周吉による新連載「天皇機関説タイフーン」がスタート。昭和史の転換点とも言うべき「天皇機関説事件」を扱う。

・【特集・死について、】として、青葉市子「夜と惺と」、石井美保「海鳴りの底、亡き人の声」、折田明子「死後にデータを残すこと」、末木新「自殺対策はすばらしい新世界を創造し、我々の人生を豊かにするか?」、工藤あゆみ「ほっついていたら、そのうち」、生方美久「神様の仕事はほぼ人事」、鯨庭「小鳥は絶望しない」、高村友也「ただそこにある生」、頭山ゆう紀「死を生きること」。9人の書き手による「死/生」についての言葉。

・上田岳弘「多頭獣の話」が最終回を迎える。

・芥川賞候補となった『アウア・エイジ(our age)』以来となる、岡本学「X/Y-Z」を一挙掲載。

すばる 2024年2月号

・【小説】では、石沢麻依「木偏の母」、古川真人「鳶」、水村美苗「Red No.28」、金石範「ミョンスンとキジュン」、椎名誠「機械牛と鳥人間との旅」が掲載。

・【刊行記念対談】として、『続きと始まり』(集英社)を上梓した柴崎友香と斎藤真理子による対談「終わらない〝続き〟を生きていく」。また、短編集『わたしに会いたい』を発表した西加奈子と長島有里枝の対談「間違えてもいいから、優しいままであること」も。

・【『曇る眼鏡を拭きながら』刊行記念読書会】として、井戸川射子×小山内園子×小松原織香「私たちの前に置かれたバトン」。

・【すばるクリティーク】では、奥憲介「反戦のための序章──梅崎春生『桜島』論」が掲載。

・昨年11月に亡くなった三木卓を追悼し、川村湊が「〝小さきもの〟への慈しみ」を寄稿。

文藝 2024年春季号

・特集【バルクアップ! プロテイン文学】として、伊藤亜紗×羽田圭介による対談「ブレる心、裏切る筋肉」。創作では、円城塔「植物性ジャーキー事件」、児玉雨子「跳べないならせめて立て」、石田夏穂「ヘルスモニター」、李龍徳「反男性」。特別企画として、平松洋子「身体と言葉を考える ブックガイド」が掲載。

 さらに、エッセイ『11月9日、体の声を聴くために、「瞑想」へ』と題し、大前粟生「〝思考〟〝思考〟」、永井玲衣「ほんとうにすしうまなんですよ」、町屋良平「殺意の名は私」、藤原麻里菜「仕事を休んだ日の暖かい太陽」、八木詠美「ずっと上の空で過ごしている」を一挙。

・創作では、俳優としても活躍する長井短「存在よ!」、王谷晶「蜜のながれ」。

・羽田圭介「バックミラー」、滝口悠生「音楽」と二作の短篇。

・山内マリコによる連載「マリリン・トールド・ミー」と、古川日出男の連載「京都という劇場で、パンデミックというオペラを観る」がそれぞれ最終回を迎える。

 以上、2024年1月発売の5誌について、概観を紹介した。読書の一助になれば幸いである。