今月は新潮、文學界、群像、すばる、文藝の5誌が発売された。5誌の概観をここで紹介しよう。

新潮 2023年2月号

・千葉雅也による小説「エレクトリック」が掲載。高校二年の達也は東京に憧れ、父はアンプの完成に腐心する。性と家族の旋律が高らかに響く気鋭の渾身作。芥川賞作家の古川真人による新作「フィードバック」も。

・韓国文学翻訳者の斎藤真理子と黒川創による対談「「命のものさし」で歴史を測る」。『彼女のことを知っている』で実に四半世紀ぶりに再会した二人が今なにを語るのか。

・初回から話題となった坂本龍一による連載「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」が
最終回「未来に遺すもの」を迎える。最後のピアノ・ソロ。日記のように生まれた新アルバム。今だから明かせる幾つかのこと。

・昨年12月に亡くなった映画監督・吉田喜重。蓮實重彦が追悼文「弔辞 映画作家吉田喜重を追悼する」を寄稿。

文學界 2023年2月号

・昨年芥川賞を受賞した高瀬隼子による受賞第一作「うるさいこの音の全部」が掲載。ペンネームで小説を書きながらゲームセンターで働く長井朝陽。兼業作家であることが職場に広まりはじめ、小説と現実の境界が溶解する。「おいしいごはんが食べられますように」の先を示すサスペンスフルな傑作。

・【特集】「『力と交換様式』を読む」として、昨年哲学界のノーベル賞とも言われる『バーグルエン賞』を受賞した柄谷行人の新著を5人の評者が読み解く。大澤真幸「柄谷行人はすべてを語った」、東畑開人「転移D――友・親・店・鬱」、渡邊英理「希望の現実化のために」、佐藤優「「不可能の可能性」の追究」、鹿島茂「霊の力はどこから来るのか」を一挙掲載。

・西村紗知による新連載「成熟と〇〇」がスタート。いま、新しい世代は文芸批評家・江藤淳をどのように読みうるのか? 現代の「成熟」論。

・島本理生と鈴木涼美による対談「欲望が凪いだ後」。同い年の二人が語る小説の文体、テーマ、恋愛。物欲からの解放を経て、向かう先はどう語られるか。

群像 2023年2月号

・【新年短篇特集】として、黒井千次、三木卓、川崎徹、小池昌代、長野まゆみ、円城塔、石沢麻依、7人による短編を一挙掲載。

・『可能なるアナキズム』の著者である山田広昭による柄谷行人『力と交換様式』の長篇書評「希望の原理としての反復強迫」。

・【二〇世紀鼎談】松浦寿輝×沼野充義×田中純による鼎談、第11回は「インターネットの出現」。インターネットによって生まれたユートピア/ディストピアをめぐって。

・今号から不定期で始める「レビュー」。今回は、昨年公開され話題を呼んでいる映画『ケイコ 目を澄ませて』を論じる。藤井仁子による「ゴングなき戦い――『ケイコ 目を澄ませて』讃」。

すばる 2023年2月号

・岩城けいによる「Ms エムズ(3)」が最終回を迎える。

・【文芸漫談】奥泉光×いとうせいこうによる「夏目漱石『それから』を読む」が掲載。

・【すばるクリティーク】では、奥憲介「私のための物語でありながら、私のものではない物語――林芙美子の描いた戦争と『推し、燃ゆ』が語るもの」、西村紗知「ポップアンドカルチャートリロジー」、鴇田義晴「蒼空と革命――見沢知廉論」と充実のラインアップ。

文藝 2023年春季号

・今年創刊から90周年を迎える。【特集】瀬戸夏子+水上文 責任編集「批評」として、水上文「シェイクスピアの妹など生まれはしない」、斎藤真理子「翻訳に悩む〈倫理〉という言葉 韓国文芸批評が示すもの」、杉田俊介「批評と男性性 男性解放批評のために」といった論考をはじめ、高橋源一郎×町屋良平による対談「批評・詩・小説」、大塚英志のインタビュー「ロマン主義殺しと工学的な偽史」など批評について様々なアプローチで迫る。

・「創刊90周年記念連続企画1」として、阿部晴政(元「文藝」編集長)が聞き手を務め、阿部和重が語る「J文学とは何だったのか」が掲載。

・古川日出男による新連載「京都という劇場で、パンデミックというオペラを観る」がスタート。「桁外れの物語力を持ったはずの京都が、ふいに敗れた」――何に敗れたのか。それはパンデミックという「物語」に。観光都市・京都を舞台に日本史と人類史が交叉するシン・ノンフィクション、開幕。

以上、2023年1月発売の5誌について、概観を紹介した。新年から五大文芸誌を読破して文芸的スタートダッシュを切るのもいいだろう。読書の一助になれば幸いである。