今月は新潮、文學界、群像、すばる、文藝の5誌が発売された。5誌の概観をここで紹介しよう。さらに、破滅派フリークには見逃せない掲載情報もあるので要注目。

新潮 2023年5月号

・【追悼 永遠の大江健三郎文学】として、筒井康隆、四方田犬彦、野田秀樹、川上弘美、尾崎真理子、多和田葉子、島田雅彦、町田康、岡田利規、平野啓一郎、中村文則、佐藤厚志という面々が寄稿。さらに、大江健三郎「難関突破(ブレックスルー)」を再掲載する。

・創作では、昨年『テーゲベックの祈り』でデビューした山﨑修平による「愛がすべて」が掲載。そのほか、佐伯一麦「苗代島」、小山田浩子「カレーの日」、円城塔「タムラマロ・ザ・ブラック」など掲載。

・谷川俊太郎「桜の詩 他二篇」が掲載。

文學界 2023年5月号

・『第127回文學界新人賞』受賞作は「ハンチバック」市川沙央いちかわさおう。私の身体は生きるために壊れてきた――強烈な生命力とユーモアが選考会に衝撃を与えた、ある女性の闘いの記録。選考委員である阿部和重、金原ひとみ、青山七恵、中村文則、村田沙耶香による選評もあわせて掲載。

・【特集】12人の“幻想”短篇競作として、山尾悠子「メランコリア」、諏訪哲史「昏色(くれいろ)の都」、沼田真佑「茶会」、石沢麻依「マルギット・Kの鏡像」、谷崎由依「天の岩戸ごっこ」、高原英理「ラサンドーハ手稿」、川野芽生「奇病庭園(抄)」、マーサ・ナカムラ「串」、坂崎かおる「母の散歩」、大木芙沙子「うなぎ」、大濱普美子「開花」、吉村萬壱「ニトロシンドローム」が一挙掲載。昨年、「ふくろはぎ」が「二〇二二年下半期同人雑誌優秀作」として同紙に掲載された大木による新作は要注目だ。

・【追悼 大江健三郎】として、蓮實重彦「ある寒い季節に、あなたは戸外で遥か遠くの何かをじっと見すえておられた」ほか、多和田葉子「個人的な思い出」、町田康「狂熱と鬱屈」、中村文則「再読する(リリード)、ということ」、松浦寿輝「誠実と猛烈」、安藤礼二「大江さんからの最後の手紙」、阿部和重「Across The Universe――大江健三郎追悼」、長嶋有「もう、大江さん!」、星野智幸「「大江健三郎という権威」を批判する大江さん」、横尾忠則「散歩中の会話」と島田雅彦×朝吹真理子による対談「理性と凶暴さと」が一挙掲載。

・個人的に注目したいのは、吉川一義によるエッセイ「プルースト没後百年のパリ」。『失われた時を求めて』の翻訳も手掛けた吉川がプルースト没後百年経ったパリの街に何を思うのか。

群像 2023年5月号

・【特集・川上未映子】として、『黄色いの家』を発表したばかりの川上の現在に迫る。大澤聡が聞き手となった、川上未映子のロングインタビュー「エクストリームで個人的なものとしての文学」をはじめ、小澤英実による書評「間違える生の彩り――川上未映子『黄色い家』について」、メルヴェ・エムレによる翻訳記事「実社会という学校 いじめとニーチェの物語『ヘヴン』」上田麻由子訳、ジョシュア・ハントによる「『Breasts and Eggs』でフェミニスト・アイコンとなった川上未映子。彼女にはさらなる野望がある。」小澤身和子訳など一挙掲載。

・松浦寿輝による新連載「B」、青葉市子による新連載「星沙たち、」がスタート。

・石田夏穂による中篇「我が手の太陽」一挙掲載。

・阿部公彦「事務に狂う人々」、高原到「復讐戦のかなたへ――安倍元首相銃殺事件と戦後日本の陥穽」、皆川博子「辺境図書館」、松浦寿輝×沼野充義×田中純「二〇世紀の思想・文学・芸術」がそれぞれ最終回を迎える。

すばる 2023年5月号

・奥田亜希子「ポップ・ラッキー・ポトラッチ」、上村亮平「ノラ」が掲載。

・【特集:文学×アート 語りえぬものを創造する】として、石沢麻依の短編「トルソの手紙」、山内マリコ短編「ふわふわ、ゆらゆら、ストン」、乗代雄介短編「三舟山」をはじめ、滝口悠生のルポ「知らぬ間に知っている」、石田夏穂のルポ「いちばん大きな窓」、高山羽根子のロングエッセイ「あっち側にいたときの切実と、東京のこの数年」、川内有緒へのインタビュー「〈間違い〉が存在しないアート鑑賞」、諏訪敦×朝吹真理子による対談「不可逆の時間に手を伸ばして」など一挙掲載。

・【講演】温又柔「言葉の居場所を探して――李良枝再読のために」。

・佐川光晴による「あけくれ」、富永京子「迂遠な思考、小さな運動を重ねて」がそれぞれ最終回を迎える。

文藝 2023年夏季号

・創作では、佐藤究による直木賞受賞第一作「幽玄F」が520枚一挙掲載。少年は、空を夢見、そして空へ羽ばたく――空を支配するGに取り憑かれ、Fを操る航空宇宙自衛隊員・易永透が、地上に願うものとは。直木賞と山本周五郎賞を受賞した『テスカトリポカ』から2年。日本・タイ・バングラデシュを舞台に「護国」を問う、佐藤究・圧巻の第4長篇。ほか、朝比奈秋「あなたの燃える左手で」、藤原無雨「グッド・バイ・バカヤロ」、児玉雨子「##NAME##」など。

・絲山秋子による新連載「細長い場所」がスタート。その細長い坂道を登っていくと、飲食店に、抽選に、共同浴場に並ぶ細長い行列、行列、行列……。不穏な物語が幕を開ける。

・「創刊90周年連続企画2」として、松浦理英子のロングインタビュー「ミソジニーと苦難の時代」が掲載。

以上、2023年5月発売の5誌について、概観を紹介した。読書の一助になれば幸いである。