今月は新潮、文學界、群像、すばる、文藝の5誌が発売された。5誌の概観をここで紹介しよう。そして、文藝には破滅派フリーク必読情報があるので確認されたい。

新潮 2022年8月号

・沢木耕太郎による超大型ノンフィクション「天路の旅人」第一部が掲載。第二次大戦末期、敵国・中国への密偵として内蒙古からチベットまで歩き、終戦後インドまであしかけ八年旅した男・西川一三。ヒマラヤを七回越えた稀代の旅人の生と魂を描く。

・「第十回河合隼雄物語賞・学芸賞」が発表。「物語賞」授賞作にいとうみくの「あしたの幸福」、「学芸賞」授賞作に森田真生「計算する生命」が選ばれた。後藤正治(物語賞)と岩宮恵子(学芸賞)による選評も掲載。

・ステージ4の癌闘病を告白し、話題となった坂本龍一の連載「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」第2回は「母へのレクイエム」として『音楽は自由にする』以降の活動を、哲学を交え振り返る。

文學界 2022年8月号

・【特集】「入門書の愉しみ」として哲学や思想、小説、演劇に挑む人たちへ、専門家が選書する愉楽の入門書ガイドを掲載。近刊『現代思想入門』 (講談社現代新書)が好評な千葉雅也のインタビュー「星座を作るように入門書を読む」をはじめ、カント(大澤真幸)、ヘーゲル(大河内泰樹)、マルクス(斎藤幸平)、ハイデガー(戸谷洋志)、アーレント(酒井信)、サルトル(永井玲衣)、ラカン(松本卓也)、フーコー(石田英敬)、ドゥルーズ(小泉義之)、デリダ(宮﨑裕助)、バトラー(清水晶子)と専門家が薦める哲学・思想入門書を一挙掲載。さらに「小説家が薦める小説・演劇入門」もあわせて紹介する。

・創作では、芥川賞作家・絲山秋子による黒蟹県シリーズ最新作「なんだかわからん木」が掲載。仙田学による娘同士が同じ保育園に通う二組の家族が、複雑に絡み合う。家族のかたちを問う問題作「赤色少女」、坂上秋成のクラスメートから暴力を受けているおれと浜内の奇妙な関係を描く「陽炎のほとり」があわせて掲載。

・新人小説月評に水上文と、新たに河野真太郎が加わる。

群像 2022年8月号

・【初夏短篇特集】として川上弘美、金原ひとみ、川崎徹、くどうれいん、紗倉まな、田中兆子、沼田真佑、藤野可織、町田康による短編を一挙掲載。

・近刊『パンとサーカス』についての島田雅彦インタビュー「政治小説の復讐」(聞き手:石戸諭)。紫綬褒章を受章したばかりの島田は政治について何を語るか。

・諏訪部浩一による「薄れゆく境界線 現代アメリカ小説探訪」が最終回を迎える。

すばる 2022年8月号

・椎名誠による「駅前WAN・NYAN会話学園」が掲載。石田夏穂による「黄金比の縁」も。

・米詩人、小説家であるシルヴィア・プラスの未邦訳短篇「ザ・シャドー」(訳・解説/柴田元幸)が掲載。さらに柴田元幸×小林エリカの対談「今日、シルヴィア・プラスを読むということ」も。

・『N/A』で『第167回芥川龍之介賞』にノミネートしている年森瑛によるエッセイ「欲しいものはサプライズではもらえない」は注目。

文藝 2022年秋季号

・【特集】金原ひとみ責任編集「私小説」として、村上龍「ユーチューブ」、尾崎世界観「電気の川」、西加奈子「Crazy in Love」、島田雅彦「私小説、死小説」、町屋良平「私の推敲」、しいきともみ「鉛筆」、金原ひとみ「ウィーウァームス」と豪華執筆陣が短編を寄稿。

・【ブックガイド】では、金原ひとみ編集長・選「私小説的小説10」として、金原自ら私小説的小説を紹介。

・【特別企画】「4月26日、金原ひとみとピクニックに行く」として、植本一子「写真を取るか 撮らないか」、滝口悠生「ポニー公園」、王谷晶「大丈夫なひとが森へ行く」、高瀬隼子「あの日わたしがしなかったことの話」、エリイ「クラウン・シャイネス」、児玉雨子「帰宅混乱者」と代々木公園に集まった七人がそれぞれ同じ日、同じ場所での出来事を思い思いに綴るという刺激的な試みも。

・創作では、飛浩隆による新たなる国創りの物語「鹽津城(しおつき)」、遠野遥の現実がどこまでも希薄化する新たなゲーム文学「浮遊」、女優としても活躍する長井短の初中篇「ほどける骨折り球子」と三者三様の小説が掲載。

・なお、今季号には6月20日に発売された佐川恭一『シン・サークルクラッシャー麻紀』斧田小夜『ギークに銃はいらない』の広告が出稿されているので、あわせて要チェックである。

以上、2022年7月発売の5誌について、概観を紹介した。読書の一助になれば幸いである。