今月は新潮、文學界、群像、すばる、文藝の5誌が発売された。5誌の概観をここで紹介しよう。

新潮 2024年5月号

・創作では、朝比奈秋「サンショウウオの四十九日」、今村夏子「貯金箱」、諏訪哲史「極光」、本谷有希子の連作最終回「セルフィ」が掲載。

・中沢新一と吉本ばななによる対談「吉本隆明から託された『精神の考古学』」。『DJヒロヒト』を上梓した高橋源一郎と原武史の対談「『DJヒロヒト』と歴史の再起動」。

・柴田元幸+ジェイ・ルービン+いとうせいこうによる鼎談「能、謡の詞章を英語にする醍醐味」では、650年謡い継がれた言語を英語で読む意味、「能十番」訳者二人と名翻訳家の話など、古典と翻訳について興味深い話が語られそうだ。

文學界 2024年5月号

・【特集 心霊現象】として、綿矢りさ×万城目学×森見登美彦×辛酸なめ子「こっくりさんをやってみた」、藤野可織による特別エッセイ「実話怪談を読むことについて」、
いとうせいこう「『悪霊』」、角田光代「異界に触れる」、東直子「浮遊する魂と電気」、マーサ・ナカムラ「見える」、南條竹則「ホテルの話」の怪談エッセイ、高瀬隼子×大森時生による対談「「不快な物語」の引力」が一挙掲載。

・「第129回文學界新人賞」が発表。旗原理沙子「私は無人島」と、福海隆「日曜日(付随する19枚のパルプ)」のW受賞。受賞作全文掲載に加え、選考委員の村田沙耶香、中村文則、阿部和重、金原ひとみ、青山七恵による選評も。

・市川沙央による【芥川賞受賞第一作】「オフィーリア23号」。

・松尾スズキによる新連載「家々、家々家々~男、松尾スズキ。魂の物件漂流物語~」がスタート。人生14回目の引っ越しに挑むわたしを襲う困難の数々。自宅購入をめぐる極私的エッセイ。

群像 2024年5月号

・【短篇小説特集・休暇と短篇。】として、今村夏子「三影電機工業株式会社社員寮しらかば」、片瀬チヲル「かわいい獣」、くどうれいん「背」、小池昌代「魂ぎれ」、高瀬隼子「いくつも数える」、武塙麻衣子「とうらい」、長野まゆみ「もう森へ行かない」。

・【小特集・ルシア・ベルリン】では、ルシア・ベルリンの短篇「日干しレンガのブリキ屋根の家」、「オルゴールつき化粧ボックス」、「妻たち」3本を刊行準備中の新邦訳作品集『楽園の夕べ』(仮題)からの先行掲載。翻訳と解説は岸本佐知子。

・鎌田裕樹「野良の暦」、諏訪部浩一「チャンドラー講義」がそれぞれ最終回を迎える。

・「第67回群像新人文学賞」の予選通過作品を発表。

すばる 2024年5月号

・【小説】では、山内マリコ「ペンと絵封筒」、水原涼「台風一過」が掲載。

・松田青子による新連載「ポリゴナムの集会室」がスタート。

・キム・ソヨンと文月悠光による対談「悲しみに寄り添うのが詩人の役割」。

・奥泉光×いとうせいこうの【文芸漫談】「大江健三郎『水死』を読む」が掲載。

・吉見俊哉による「続・東京裏返し 都心南部編――川筋と軍都をたどる社会学的街歩き」が最終回を迎える。

文藝 2024年夏季号

・【緊急企画 ガザへの言葉 #CeasefireNOW】として、アダニーヤ・シブリー/田浪亜央江訳「かつて怪物はとても親切だった」を特別掲載。さらに、村田沙耶香「いかり」、町屋良平「私の虐殺」、滝口悠生「隔たりと連絡」、小山田浩子「私のプラカード」、大田ステファニー歓人「生きるために」とエッセイを一挙。

・創作では、詩人・向坂くじらの初小説「いなくなくならなくならないで」、山下澄人「わたしハ強ク・歌ウ」、早助よう子「天一坊婚々譚」、小川哲による短篇「啓蒙の光が、すべての幻を祓う日まで」が掲載。

・【特集1 世界はマッチングで回っている】として、鳥飼茜×安堂ホセの対談「さらす、隠す、しれっと消える」、桜庭一樹×斜線堂有紀「かわいそうに、魂が小さいね/その春に用がある」、俵万智×木下龍也「キングと天使」と共作を二作。

 さらに創作、遠野遥「AU」、山下紘加「わたしは、」、紗倉まな「やっぱりなしでもいいですか」、樋口恭介「あなたがYouなら私はI、そうでないなら何もない」、エッセイとして冬野梅子「自虐サ終のお知らせ」、水上文「想定されもしないマッチング、あるいはクィアな未来について」、瀬戸夏子の論考「超資本主義社会における恋愛至上主義について」、特別企画として、花田菜々子+福尾匠+葉山莉子+あわいゆき「回り続ける世界のためのマッチングブックガイド」を一挙掲載。

・【特集2 さよなら渋谷区千駄ヶ谷2-32-2】として、新社屋に移ったことを機に、山田詠美「トウキョウに上京して」、長野まゆみ「ある晴れた日」、中原昌也「カレー、カンヅメ、本と映画の記憶は忘却の彼方に」、武田砂鉄「ベストタイミング」とエッセイを掲載。

 さらに、「企画 2月14日、移転を聞きつけて、千駄ヶ谷散歩へ」として、星野智幸「幽霊はどこにいる?」、青山七恵「格子の向こう側」、宇佐見りん「あの日のABC」、柴崎友香「東京の真ん中の、なんでもない、名づけようのない場所」。

・「モノコン2023文藝×monogatary.com」大賞受賞作は、有手窓「白山通り炎上の件」。受賞の言葉と、選考委員の金原ひとみによる選評「巣鴨のOGになりたすぎる件について」。

以上、2024年4月発売の5誌について、概観を紹介した。読書の一助になれば幸いである。