(第10話) 伸びをした拍子に、店をぐるりと見回す。拘らないようにしているのだが、つい、あの女がいないかと探ってしまう。 女はいない。依本は落胆する。一目見れば、明日からま…
(第9話) 松江は以前から、依本の落ちていく様を聞いても、同情や慰めの言葉を吐かなかった。依本が書けなくなり、仕事が減り、そしてなくなり、収入が激減すると同時に離婚もし、寂れた一…
(第8話) 勤め人同士で呑む場合と、自由業同士でのそれかで大きく違うのは、相手の基本的な背景を知っているかどうかということがある。 勤め人同士、それも同じ会社であれば、相手…
(第7話) 新宿区役所前で友人と落ち合った依本は、信号を渡ってゴールデン街へと入っていった。 2区画歩いたが、どこもまだ閉まっている。この伝統ある猥雑な呑み屋街は、日がとっぷり暮…
(第6話) 私鉄に乗って、待ち合わせの新宿まで30分と少し。その間、ぼんやり車窓なんか見ていたってしょうがない。せっかくなら資料本でも買って、電車の中で読んでいこうじゃないか。依…
(第5話) その翌日は日曜日だった。しかし在宅の創作者に祝祭日など関係ない。依本は早朝から起きだし、歯だけ磨くとインスタントコーヒーを入れ、すぐパソコンに向かった。 開け放…
(第4話) 女は当然依本に視線を送ることなく、依本が今来た方へと進んでいった。 歩行者用の信号が点滅し、依本は渡りきってから通りの向こうを見やった。しかし女の姿はなかった。…
(第3話) 「内田、かぁ」 依本のちょっと大きめの呟きに、店のオヤジが怪訝そうに顔を向けた。 「いやゴメン、昨日来た編集者のこと。なんか変わった男だったからさ」 「じ…
(第2話) 翌日、依本は編集者の内田に電話をし、前日に聞き忘れたことを二、三質問した。 電話をしたのは、質問もさることながら仕事の依頼が本当に本当なのか探りを入れたかった…
(第1話) 駅で編集者と別れた依本は、馴染みにしていた「大葉」の暖簾をくぐった。 「いらっしゃ……、なぁんだ、ヨリさんか」 「なんだはないだろ。客だぜ、おれは」 オ…
フィクションですが、主人公の影が最後は主人公です。
ある朝目覚めるとそこは養鶏場だった。男は鶏になったのだ。
子供のころからいじめられていた男は、二十代のある日、世界を平和にする薬を開発することを志す。七十代になってやっとその夢はかなうのだが……
優しい彼女との同棲生活を満喫していた男だったが、新しい仕事をはじめてからその生活に異変が生じるようになる。
自分を変えたくない人間が自分の世界を見つける物語。
破滅派合評会二〇一七年四月「酒と不倫」参加作品。「僕」には好きな人がいる。彼女がゴールデン街のカウンターで寝物語をするのが、僕には苦しくてたまらない。藤城孝輔に「スライス・オブ・ライフ」と評され…
※合評会参加作品。 “友人”が見えていた少女サクラも成長するに連れ友人が見えなくなった。だが結婚し、不穏になる情勢の中で、ある日……。
お互いに好きなのに罪悪感によって別れなければならないと悩む男とそれすら飲み込んで彼を気持ち悪いくらい愛している女の話です。 前日譚の長編もありますが、後日投稿します。