見て。
え?
見てよ。
見た。
どうしてなのよ! って叫んでるやつがいるね。
いる。
いまにも男に捨てられそうな雰囲気だね。
もう捨てられた後じゃないか。
そう見えなくもない。
この後どうなると思う?
まず男が金を置いて帰るだろう。
セオリーだね。
女はしばらく動けないだろうね。
うんうん。
これから三日ほどすると、どちらかがどちらかにメールか電話をするだろうね。
おいおい。
何?
どっちがどっちに、メールするのか電話するのか。
そうだな、僕は男が女にメールする方に賭ける。
いくら?
百ペソ。
ペソ?
ペソ。
持ってるの?
外貨を保有しておかなくちゃ、何が起きるかわからないからね。
そこでペソを選ぶかね。
君なら何を選ぶ?
ジンバブエドル。
晴れてるね。
天気が女の心と合ってない。
やつらは僕たちのことなんておかまいなしさ。
わかってるよ。
じゃあ変なこと言うなよ。
凄い泣き方だね。
あんな泣き方はじめて見た。
笑ってるようにも見えるね。
確かに。
男に捨てられたってことは、新しい男を探すチャンスだからね。
それで笑ってるのか。
いや、泣いてるな。
そうか。
そんなに悲しいことかな。さっきの男、別にかっこよくなかったけど。
かっこいいとか悪いとかで判断してないんだよ。
いい子なんだね。
でも、あんまりかわいくない。
かわいくなくたっていい子だよ。
どうやって確かめるの?
え?
さっきの百ペソ。
あの女をストーキングして家を特定して、盗聴器をしかける。
めんどくさいよ、明日仕事だし。
僕も明日仕事だよ。
人生ってほとんど仕事だね。
仕事がない人は何してるんだろ?
さあ。
君さ、百ペソ持ってないだろ。
持ってるよ。
財布見せてみろよ。
今あるかわかんないよ。
いいから。
わかったよ。
ユーロしかないじゃん。
ユーロしかなかったかな?
ここの支払いどうするんだよ。
頼む。
僕もいま三百円しかない。
このコーヒーは?
二百八十円。
だめじゃん。
僕はだめじゃない。
ほら、男がお金を置いていったよ。
女は気づかずに泣いてるね。
あれでなんとかするか。
僕は知らないよ。
千円ある。
あるね。
いいかな?
だめだろ。
じゃあどうするんだよ。
知らない。
ちょっとは考えてくれ。
僕は自分のことで手一杯なんだ。
雨が降ってきた。
君の心を表してる。
関係ないって。
女が首をつってるね。
つってる。
いいスカーフなのになあ。
死ぬほどのことかな。
きっと、たくさん思い出があったんだよ。
でも、大抵の恋人は別れるわけだろ。
結婚しなけりゃね。
結婚したって別れる。
ふむ。
ほんとは気にすることないんだ、別れなんて。
そうか。
首さえつらなきゃ、新しい出会いがあったかもしれないのに。
まあ、首つったら出会えないもんな。
そう。
そもそも出会った方がいいの?
それは難しい問題だ。
千円札に小便垂れてるよ。
死んだみたいだね。
ビチャビチャじゃん。
大丈夫、使える。
僕なら触りたくないな。
聖水だ。
あんまりかわいくないのに?
ブスでもない。それに若い。
そうかね。
(「聖水」に濡れた千円をくすねる)
ちょっと臭うな。
嘘だ!
は?
おにゃにょこのおしっこが臭いわけないもん!
そんなことないよ。おしっこだからね。
臭いわけないのら!
どうしたの?
セルビア・モンテネグロってあったでしょ?
今はないの?
ないよ。
女の子のおしっこ飲んだことない?
ない。
乾いてきた。
待って、それ売ったら一万円になるよ。
こんなのどうやって売るんだよ。
ヤフオク。
でも今お金ないと、店を出られない。
じゃあ僕がヤフオクで売ってくるから待ってて。
わかったよ。
(一か月後)
ヤフオクで売れたよ。
いくらで。
八千円。
結構上がったね。
仕事は?
有休でなんとか。
じゃあ、コーヒー代を払って出よう。
それなんだけどさ。
うん。
もう動きたくない。
何言ってんだよ。
めんどくさい。
わかった。八千円のうち三千円は君に置いていくから。
うん。
僕はもうここには来ない。
わかってるよ。
元気でね。
嘘つけ。
何が。
もう会わないやつなんて、死んでるのと一緒だろ。
野暮なこと言うなよ。
僕が元気じゃなかろうが、君にはわからない。
そうだけどさ。
変な気遣いはよすでおじゃる。
じゃあ、まあ元気でもどうでもいいけど、さようなら。
ああ、元気でもどうでもいいけど、さようなら。
〈了〉
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