非処女まんこのおもらし錬金術

佐川恭一

戯曲

1,686文字

カフェに流れる冴えない時間と非処女のおしっこ。

見て。
え?
見てよ。
見た。
どうしてなのよ! って叫んでるやつがいるね。
いる。
いまにも男に捨てられそうな雰囲気だね。
もう捨てられた後じゃないか。
そう見えなくもない。
この後どうなると思う?
まず男が金を置いて帰るだろう。
セオリーだね。
女はしばらく動けないだろうね。
うんうん。
これから三日ほどすると、どちらかがどちらかにメールか電話をするだろうね。
おいおい。
何?
どっちがどっちに、メールするのか電話するのか。
そうだな、僕は男が女にメールする方に賭ける。
いくら?
百ペソ。
ペソ?
ペソ。
持ってるの?
外貨を保有しておかなくちゃ、何が起きるかわからないからね。
そこでペソを選ぶかね。
君なら何を選ぶ?
ジンバブエドル。
晴れてるね。
天気が女の心と合ってない。
やつらは僕たちのことなんておかまいなしさ。
わかってるよ。
じゃあ変なこと言うなよ。
凄い泣き方だね。
あんな泣き方はじめて見た。
笑ってるようにも見えるね。
確かに。
男に捨てられたってことは、新しい男を探すチャンスだからね。
それで笑ってるのか。
いや、泣いてるな。
そうか。
そんなに悲しいことかな。さっきの男、別にかっこよくなかったけど。
かっこいいとか悪いとかで判断してないんだよ。
いい子なんだね。
でも、あんまりかわいくない。
かわいくなくたっていい子だよ。
どうやって確かめるの?
え?
さっきの百ペソ。
あの女をストーキングして家を特定して、盗聴器をしかける。
めんどくさいよ、明日仕事だし。
僕も明日仕事だよ。
人生ってほとんど仕事だね。
仕事がない人は何してるんだろ?
さあ。
君さ、百ペソ持ってないだろ。
持ってるよ。
財布見せてみろよ。
今あるかわかんないよ。
いいから。
わかったよ。
ユーロしかないじゃん。
ユーロしかなかったかな?
ここの支払いどうするんだよ。
頼む。
僕もいま三百円しかない。
このコーヒーは?
二百八十円。
だめじゃん。
僕はだめじゃない。
ほら、男がお金を置いていったよ。
女は気づかずに泣いてるね。
あれでなんとかするか。
僕は知らないよ。
千円ある。
あるね。
いいかな?
だめだろ。
じゃあどうするんだよ。
知らない。
ちょっとは考えてくれ。
僕は自分のことで手一杯なんだ。
雨が降ってきた。
君の心を表してる。
関係ないって。
女が首をつってるね。
つってる。
いいスカーフなのになあ。
死ぬほどのことかな。
きっと、たくさん思い出があったんだよ。
でも、大抵の恋人は別れるわけだろ。
結婚しなけりゃね。
結婚したって別れる。
ふむ。
ほんとは気にすることないんだ、別れなんて。
そうか。
首さえつらなきゃ、新しい出会いがあったかもしれないのに。
まあ、首つったら出会えないもんな。
そう。
そもそも出会った方がいいの?
それは難しい問題だ。
千円札に小便垂れてるよ。
死んだみたいだね。
ビチャビチャじゃん。
大丈夫、使える。
僕なら触りたくないな。
聖水だ。
あんまりかわいくないのに?
ブスでもない。それに若い。
そうかね。
(「聖水」に濡れた千円をくすねる)
ちょっと臭うな。
嘘だ!
は?
おにゃにょこのおしっこが臭いわけないもん!
そんなことないよ。おしっこだからね。
臭いわけないのら!
どうしたの?
セルビア・モンテネグロってあったでしょ?
今はないの?
ないよ。
女の子のおしっこ飲んだことない?
ない。
乾いてきた。
待って、それ売ったら一万円になるよ。
こんなのどうやって売るんだよ。
ヤフオク。
でも今お金ないと、店を出られない。
じゃあ僕がヤフオクで売ってくるから待ってて。
わかったよ。

(一か月後)

ヤフオクで売れたよ。
いくらで。
八千円。
結構上がったね。
仕事は?
有休でなんとか。
じゃあ、コーヒー代を払って出よう。
それなんだけどさ。
うん。
もう動きたくない。
何言ってんだよ。
めんどくさい。
わかった。八千円のうち三千円は君に置いていくから。
うん。
僕はもうここには来ない。
わかってるよ。
元気でね。
嘘つけ。
何が。
もう会わないやつなんて、死んでるのと一緒だろ。
野暮なこと言うなよ。
僕が元気じゃなかろうが、君にはわからない。
そうだけどさ。
変な気遣いはよすでおじゃる。
じゃあ、まあ元気でもどうでもいいけど、さようなら。
ああ、元気でもどうでもいいけど、さようなら。

〈了〉

2015年6月27日公開

© 2015 佐川恭一

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