グランド・ファッキン・レイルロード(4)

グランド・ファッキン・レイルロード(第4話)

佐川恭一

小説

7,446文字

ザッツライ☆櫻井翔くんの登場に場内騒然。

制服少年たちの選択 After 10 years

 

Case-A:【香川真司】

 

櫻井翔(以下櫻井) 今日のアニキゲストは、いま社会学者として一部ネット上で名を馳せているとかいないとかいう香川真司さんです。香川さんはかつて香川照之として東京大学を卒業した後トレンディ俳優として幅広く活動、大成功を収められ、その後香川真司と改名してセレッソ大阪に三週間、マンチェスター・ユナイテッドに二か月在籍、短い活動期間ながらバロンドールも四度獲得されました。そんな過去の名声をドブに捨て社会学という新たな分野に乗り出しておられる冒険心溢れる香川さんなんですが、なんと本の出版は一切しない主義でいらっしゃいます。紙媒体ではなくて、ブログを主戦場とされているわけなんですね。そこでの刺激的な考察は、某匿名掲示板で激しい議論を巻き起こすことが稀にあるという噂もよく耳にします。

単刀直入にお聞きいたしますが、香川さんのブログの一日のアクセス数って大体どのぐらいなんですか?
香川 大体、五アクセスくらいですね。
櫻井 なるほど。毎日コンスタントに、五人は香川さんのブログを見ている方がいるというわけですか。
香川 いえ、そのうち一人は私ですので、四人ですね。
櫻井 ……四人というのも、捉えようによっては多数ですよね。たとえば千人がアクセスしたとしても、そのほとんどが素通りであれば意味がない。おそらく香川さんの抱える四人の読者というのは、かなり熱心に記事を読まれていると思うんですね。一日一万アクセスだぜ、どうだ、って威張る方もいらっしゃいますが、その「内容」こそが重要になってくるわけで。
香川 さすが櫻井さん、鋭いですね。私のブログを閲覧している四人は非常に高い教養を身につけた、カルティベートされた方たちです。私の話というのは――櫻井さんもご存じだと思うのですが――どうしても聞く人を選んでしまうんですね。今日は櫻井さんが相手なので隠さずに言ってしまいますが、それもあえて、戦略的にやっていることなんです。何人の読者に届くか、というのは記事のレベル設定の時点である程度読むことができる。これは一万人いけるな、百人いけるな、四人しかいけないな、というのは皮膚感覚でわかる。もちろん、レベルを下げて幅広い読者を獲得することもできますが、それは私の主義に反します。私は自分の読者に対して一切遠慮をしないと決めている。レベルを下げて大衆に迎合するというのが嫌で嫌で仕方ないんですよ。いいですか、まずレベルを下げた時点で、私の本当に言いたいことというのがぼやけてしまうことは避けられません。本当に賢い人間とは難しいことをわかりやすく話せる人間だ、とよく言われますが、それはやはり「わかりやすく話せるレベルの話題」を要求しますよね。
櫻井 わかります。
香川 そんなことは馬鹿がやっていればいいわけでね。たとえば百万人が飛びつくような論考というのは、面白くないんです。最大公約数的でなければそれだけの読者はつかない。馬鹿が少し賢くなったような気になれる、というレベルのものが一番読まれる、そして売れる論考なんですね。私の読者は四人ですが、私がレベルを下げずに話したことにちゃんとついてきてくれるので、とても気分がいい(笑)。クソみたいに薄っぺらい論壇誌なんか読んで、何かを考えた気になるような人間よりよほどまともですよ。
櫻井 ……なるほど、香川さんのおっしゃることはよくわかりますが、私はアイドルとしてCDを出し何十万枚と売っている人間ですので、香川さんに手放しで賛同するというわけにはいきません。どれだけ優れたものも相手に届かなければ力を持たない、そして、本当に優れたものは多くの相手に必然的に届くのだ、というのが私の考えなんですね。しかし、このような反駁はこれまでに何度もされてきたでしょうから、ここで深く掘り下げることはやめましょう。
ところで香川さんご自身はサッカー選手を引退されてから基本的にニートでいらっしゃるわけなんですが、やはり香川さんのような優れた頭脳をお持ちの方が定職に就けないという日本の現状に対して危機感を抱いていらっしゃいますか。
香川 いえ、私はニートなんですけれども、そもそも就職活動をしたことがないんですね。いいですか、高学歴の人間はレベルの高い仕事をすべき、楽な仕事じゃもったいない、働かないなんてもってのほか、とかいうやつが世の中にはよくいますけどね、これは救いがたい馬鹿の発想ですよ。学歴を得て選択肢を拡げたあと、何を選びとるか、何に価値を置いて生きるかは当人の自由ですから。そういうところに想像が及ばない人間は当然ペーパーテストの点数さえとれません。大人になって答えのない問題に対処していこうというときに、想像力の不足した、答えのある問題さえ解けない人間に一体何ができるというんですかね?
それに、今の日本の就職というのは非常に変なことになっている。まず「人間力」なんてことを言い出した割に、面接が人間力を計る構成にほとんどなっていない。そして、人間力というのが一体何を指しているのか、はっきりとした定義が実はどこにもない。結局は私のようにそこそこの学歴があって、ソツのない解答ができれば大抵の企業に通るわけでね、みんな上っ面で人間を見てると言い張ってるだけ。それがくだらないと言うんですよ。そういう非常に愚かしい土俵に、私自身上がりたくない。正直、少し意地になっている部分もあるんですけどね。
櫻井 確かに、短時間の面接でいわゆる「人間力」をどの程度把握できるのか、疑問が残りますね。しかし、そうは言ってもやはり働かなくては生活ができません。俳優時代、サッカー選手時代に稼いだお金をすべて今年の有馬記念でダノンバラードに突っ込み無一文になられたとお聞きしておりますが、香川先生は現在どのようにして生活資金を捻出されていますか?
香川 親の金です。
櫻井 親の金。
香川 親の金がある以上、私が働くような必要はどこにもないんです。親はもちろん怒りますよ、家での居心地も悪い。しかしですね、居心地が悪いとか、または世間体が悪いとかいう理由では、私が働くには小さすぎます。そんなことのためにですね、押し出されるようにして就職するなんてのは、小物のやることです。小物は圧力に耐えることができないんですね。確固たる自己がなく、周囲の承認を何よりも大切だと考えている。それは自分自身の価値を、自分自身でなく、他者の判断に任せているということに他ならない。
以前ね、東大時代の、一流企業に就職した友人と話す機会があったんです。そしたらそいつ、残業代つけてないって言うんですよ。なぜかって聞くと、「誰もつけてないし、つけられる雰囲気じゃないから」って。これはマズイ。
櫻井 マズイですね。
香川 そんなことをしていればますます上に搾取されるわけでね。自分の持っている権利は、行使しなければ必ず腐ってしまう。そんなことは誰でもわかっているはずのことでしょう。でもね、周囲の雰囲気に流されて不利益を被っている現状に対して、そいつは何か不満を持っている風でもないんです。「残業なんてつけられるわけないよ」と言って受け入れる。周りの目を気にして、ただただ迎合している。私なんて、三十越えて親の金もらってるんですよ(笑)。
櫻井 賢い生き方というか、うまいやり方というものを、最近の若者は模索しようとすらしない。
香川 そうなんです。思考停止状態ですよね。私も両親からお金をもらうにはどうすれば良いのか、自分なりに考えたんですよ。まず、人間というのは立場でものを考え、またものを言う生き物なんです。学校の校長先生は、裏で援助交際をしていたって生徒の前では道徳的に正しい話しかしない。できない。社会がそのようにできているからです。それぞれの立場に対して、求められる発言や態度が確実にある。優等生は優等生らしい無難な意見を言うし、不良はそれに反対せねばならない。それぞれのエクリチュールがある。だって、ワルとして恐れられている子が「ぼく、文化祭の準備をさぼるのはいけないと思います」なんて言ったら、笑い者でしょ。そこは「文化祭なんてどうでもいいじゃんよー」と言わなくてはならない。
櫻井 なるほど。
香川 そして、親ですよ。親は親として振る舞わねばならない。親は子供を見捨ててはいけないんですね。親にも色んな種類の人間がいますよ、個々によって考え方も全く違う、しかし、とにかく、子供を見捨ててはいけないという前提がある。だから激流に飲み込まれる息子を見て、「あ、自分が助けにいったら間違いなく共倒れだな」と思っても、そこは飛びこむしかないんですね。それを「バカだな、死ぬだけなのに」と笑う人がいる。しかしこれは可能不可能の問題でなく、立場の問題なんです。親には子供を助けるという行為が要求され、それはほとんど反射のレベルで浸透していることなんです。よほどの臆病者か卑怯者でない限り、溺れる子はなりふり構わず助けにいく。それは絶対にそうなんです。ですから私はその原理を利用して、精神的に錯乱しているかのように見せかけたんですよ。
櫻井 見せかけた?
香川 はい。まあしばらく引きこもっていると親は怒るじゃないですか。そこで、僕はちょっと気色の悪い死体とか、生首の写真集を何冊か買って、中のページを破って部屋中に撒き散らしておいたんです。簡単なことでしょ?
櫻井 ご両親は驚かれたでしょうね(笑)
香川 ええ、結構なインパクトがあったでしょうね。後はたまに変なうめき声を上げたりして、万全を期しました。で、もう「駄目だこいつ」となったわけです。
櫻井 早くなんとかしないと(笑)
香川 そうです。まあ、なんともならないわけなんですがね。かくして、私は親のスネをかじるための絶好の立ち位置を勝ち得たわけです。
櫻井 なるほど。しかし、親の死後や、老後を考えると、多くの若者はそこまで極端な戦略を採用できないのではないでしょうか。
香川 そこですね、後は結婚です。自力で生活していない男と一緒になるような女はまずいないですからね。そういう部分に人生の意義を見出すのであれば、この戦略は途端に色あせてしまう。でもね、ちゃんと解決策はあるんですよ。
櫻井 それは一体どんな?
香川 まず前者、金銭的なことで言えば、生活保護ですね。私が最初から生活保護ありきで社会生活を放棄していると知れば、税金払ってる人は怒りますよ。みんな怒ります。まあ怒られたってかまわないんだけど(笑)。

でもね、生活保護制度というのは、たとえば障害があってどうしても働けない人とか、夫が亡くなった子持ちの専業主婦とかね、そういう人を助ける制度でもあるわけです。私がみんなから怒られるのは就業のための努力をしてない、社会をなめてるからでしょう。それは専業主婦とはどう違うんですかね?
櫻井 態度の差じゃないでしょうか。香川さんは就職しようと思えばできたのにしていない。専業主婦は子供を育てなければいけないので自分が働きに出るのも難しいし、長く家庭に入っていた女性が仕事を探しても、すぐに見つかるわけはない……
香川 そういうことなんです。しかし、結論を述べてしまうと、態度は重要視されませんよ。結果的に窮状に陥っていれば生活保護は下りるんです、車など財産の処分は必要ですが。後は、働けないということを証明しなくてはいけないんですが、これは精神科で診断書をもらってください。あれは本当に簡単にもらえますから、とりあえずうつむいてボソボソと暗そうに話してりゃ大丈夫です。他人の本当の精神状態なんて絶対にわからないんだから、こっちが辛いと言い張れば医者がそれをつっぱねることはできないんですよ。
大体ね、精神のこともそうだけど、態度って自己申告じゃないですか。私が「がんばってみたけどダメでした」と言えば、「いや、お前はがんばってない」なんて他人からは言えないわけでね。だから評価基準を「態度」なんていう曖昧なものに置くわけにいかないんです、生活保護の申請についてもね。私は正直だからこういうところで発言しちゃってますがね、みなさんはがんばったふりでもして周囲の攻撃をうまく逸らせばいいんですよ。本当のことなんて誰にもわからないんだから。
櫻井 確かに。がんばったとかがんばってないとかの基準って、人によっても違いますしね。
香川 そうですよ。大学受験だって、私は東大に入りましたから、東大っていうのが努力さえすれば、まともな人間なら誰でも入れる場所だっていうのを知ってる。それをね、一生懸命やって第一志望大学に受かりましたぁなんてね、東大じゃないところに入って喜んで泣いてる奴までいる。ふざけるなって話ですよ。第一志望って何なのって話です。はっきり言いますけどね、第一志望って東大以外ありえないでしょう。やりたいことが明確にある人とか、地方から出られない事情のある人もいるかもしれないですけどね、日本一優秀な大学を第一志望にするのが普通でしょう。それなのにカスみたいな高校生がそれぞれ訳わかんない大学を第一志望なんて言って、自分でハードル下げてるくせにですよ、受かったら勝ち誇ってガッツポーズなんかしてる、そんなの第一志望大学でもなんでもない、分相応大学とでも言った方が良いんだよ。私から見ればそいつらは誰もがんばってないということになる。
でもね、そいつらはやっぱりがんばってるんですよ。「がんばった」のラインを引くのはその人自身でしかありえないから。
櫻井 はあ……外から決められるようなことではないと。では次に、結婚についてはいかがでしょう?
香川 前提から話しますと、私は結婚に魅力を感じていません。それ以前に、恋愛にも魅力を感じていません。大体、同じ奴と長くいるなんて退屈この上ない。同じような話題なら同じような会話になるでしょ。パターンが読めるんですよね。それはもちろん相手だって同じですけど。だから、どんなに仲の良い友人でも大体、社会人になれば会うのは一年に数回でしょう。ゴールデンウィークとかお盆、正月あたりで。あれ、ちょうど良いペースですよ。それぐらいの、話題が溜まってきた頃に一回会って、思い出話も交えて、楽しく話して友情を定期更新する。人間は退屈する生き物ですから、同じ人と続けて会わない方が良いんです。退屈は死ですよ。
そして、恋愛ということで言うと、はっきり言って誰もがある種の妥協をしている。誰だってアイドルとか女優とか、ルックスに関して言えばそういうレベルの女性と付き合いたい。でもそれが無理だから手の届く範囲で無理やり納得してるんですよ。「いや、俺は本当に彼女を愛してる」なんてね、よく言うね。常に現在の彼女よりもその人に合う女性はどこかに、必ずいるわけでね、たまたまそれに出会ってないから、出会った範囲で手を打ってるわけ。それに、結婚するならこの子がいいけどセックスはこの子の方がいい、なんてことは普通に起こるわけです、でも私たちの社会では一つしか選べない。理不尽でしょう、この限定は。
櫻井 つかぬことをお伺いしますが、先生は童貞では?
香川 素人童貞です。たまにソープに行くんですよ、安い所ね。セックスというのはいいよね、人間が動物に還れる唯一の行為だよ。
櫻井 セックスに愛は求めませんか。
香川 求めません。何故なら愛などというものはこの世界において存在しないからです。愛というものは永久不変でなければならない。消滅してしまうようなものは愛ではありえません、一時的な愛というのはないんです。それは気の迷いと言うんでね。そして人間の気持ちは必ず変わるものです。一秒ごとに世界の認識方法を変え、他者への評価を変えていく。つまり、人間の気持ちの中に愛は存在しえない、両者は非常に相性の悪いものでありますからね。
櫻井 ならば、香川さんの考える愛とは一体どこに存在するのでしょうか。
香川 恋愛シミュレーションゲームの中ですね。後は漫画や小説。
櫻井 現実の中にはありませんか。
香川 ありません。愛の模造品ならば氾濫してますがね。やはりゲームは、プログラミングされた通りに女性がこちらを思ってくれるので、確実ですよね。ぶれません。手順を踏めば必ずこちらを「愛」してくれるわけですよ。漫画も小説もそう、その中で展開されている愛は不変です。だってもう、画像やテクストとして固定されてるわけだから。例えば小説内で男女が結ばれる、「愛してるよ」「私も」なんて言って話が終わる。そうしたらね、それは愛なんです。現実はそういうキリの良い所で終わることができない。不出来ですよね、現実は厳しいんじゃない、不出来なんです。
櫻井 なるほど、しかしさきほど「退屈」というワードが出てきましたが、ゲームや小説なんてそれこそ退屈じゃないですか? すべてが固定されていて。
香川 いや、それも無数にあるわけです。同じゲームだって何人もの女性を攻略できるし、一人の女性にしても複数の道筋やエンディングが用意されている。それに飽きたら別のゲームやればいいわけですよ、漫画だって小説だって一回読んだら、また別の作品読めばいいんです。私は無数の並行世界を自由自在に行き来できる。特にゲームはね、可愛い女性の姿を映し出してくれて、自分である程度自由に主人公をコントロールできる。グングン自由度も上がっていて、グラフィックなんかも凄いスピードで進化している。こういう恵まれた時代に生まれたことは感謝せねばなりませんね。
櫻井 なるほど。このへんで、どうやら時間がきてしまったようです。今日は貴重なお話をありがとうございました。
香川 こちらこそ、ありがとうございました。

 

 

……誰だよこんなやつ番組に呼んだの、

ディレクター出てこいよ!

何なんだよマジで、あの人ほんとに香川真司なの? なんかちがくない? ちがう真司じゃない?

え? 何?

ああ、忘れてた。

香川さん帰っちゃったけど一応みんなでやっときますか?

せーの、

 

《ザ・セット回転しやがれ!!》

 

第四章・完

2015年7月5日公開

作品集『グランド・ファッキン・レイルロード』第4話 (全17話)

© 2015 佐川恭一

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