ディビジョン/ゼロ(5)

ディビジョン/ゼロ(第5話)

波野發作

小説

1,188文字

はじめての。独りでできた。無人でできた。もう大丈夫だ。

〈5〉

 

困ったら相談して、と経理さんは言ってくれたが、それは社交辞令だ。

現時点で、この人の口からぼくに有利な情報は何一つ出てきていなかった。

困っているのは今なんですが、と言いたかったが、ぼくにもプライドがあった。

 

会社をあとにして、まずはATMに行った。

口座の残高を確認するためだ。

暗証番号を打ち込む。残りは3万円と少しだった。あると思った金額が、そのままあってがっかりした。

 

3万円で引っ越しができるのかといえば、まあ無理だ。

最低でも20万円ぐらいはなきゃならない。

せめて最後の給料だけでも入ってくればなんとかなったのだけど、期待はできない。

 

銀行のキャッシュカードの他に、クレジットカードがあった。

1枚だけ、インターネットの買い物用にと申し込んだものだ。

確かこれにもキャッシング枠があったはずだ。試したら20万円の残高があった。

 

それならなんとかなりそうだ。

引っ越してすぐ支払い期限が来てしまいそうだけど、それまでに仕事を見つければどうにかなるだろう。

それにリボ払いというものもあるから、一気に全部払わないとアウトということはない。

 

駅前のビルに消費者金融が山ほど入っているビルがある。

確かに、20万円では心もとない。

今のうちに少し上乗せしておくべきか迷った。使わなければ大丈夫だろう。

 

無人ルームというところに入り、画面の説明に従ってボタンを押していく。

原付の免許があるので、手続きはスムーズだった。

勤務先はもちろん今日辞めた会社を書いておいた。所属確認でもあれば面倒だが大丈夫だろうか。

 

とくに問題もなく、30分ほどで申し込みは済んだ。

借り入れの限度額は50万だった。

ぼくは一気に金持ちになった気分だった。実際、それほど余裕があるのは気が楽だった。

 

まだ昼前だったので、金融ビルの下でラーメンを食べた。

よく来たラーメン屋だったが、もう来ることはないだろう。ここまで通勤する理由がない。

思い切って、大盛りチャーシューメンを注文した。餃子もつけた。

 

腹がふくれたところで、このビルの他の消費者金融にも無人申し込み機があることに気づいた。

だいたいどこも同じようなやり方のようだ。

他に2軒ほどはしごした。疲れたが、トータルで150万円借りられるようになった。

 

そんだけあれば、どんな部屋でも借りられる。

さっきまでどん底の気分だったのが、ずいぶんと明るい展望になった。

ざまあみろ。

 

電車を降りて、地上に上がると、ゲリラ豪雨のまっただ中だった。

傘を買おうかと思ったが、部屋に何本もあるのを思い出した。

ぼくはタクシーを拾って、アパートの住所を告げた。

 

2015年7月29日公開

作品集『ディビジョン/ゼロ』第5話 (全10話)

© 2015 波野發作

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