INTERLUDE 『復活に関する異論』

東京守護天使(第12話)

高橋文樹

小説

5,136文字

警備員ルシ・フェル樹と作家志望の女の子ペニー・レインが交わす書簡体小説。キリストの復活に対して、ペニーは新たな解釈を掲げる。それは果たして、傷付いたルシを救うのだろうか。

作 ハニー・ペイン

 

キリストは十字架にかけられ、すべての人間の罪を背負って死んだのちに、一度復活してから、天に昇っていった。それはキリストに関しての通説となっています。しかし、それに従わない異本も幾つかあります。

たとえば、イエスは十字架をかついでゴルゴダの丘を上り、刑場へ向かうのですが、その途中、キュレネのシモンという男が申し出て、イエスの代わりに十字架をかつぎます。ここまではどの福音書にも書いてあるのですが、たとえば『ペトロ黙示録』によると、その瞬間、イエスはシモンと入れ替わり、まんまとはりつけから逃れたとなっています。パリサイ人たちはイエスが死んだと思って喜ぶのですが、とつぜん神殿の垂れ幕が裂けたために、天罰が下ったと怯えます。それはすべて、逃げのびたイエスの仕業だというのです。しかも、そのときイエスは彼らを嘲って笑っていたと伝えられています。

聖書に対する印象を裏切られる奇妙な異説ですが、不審な点もあります。

復活した後に昇天したのならば、その後の伝承が残っていないことも納得が行きますが、仮にイエスが生き残っていたとしたら、イエスの足跡を伝える伝承――つまり福音書の続き――がないのは奇妙なことです。一体、彼はなにをしていたのでしょうか? これに関して幾つかの異説があります。

 

 

マグダラのマリアという女がいました。イエスの刑死と復活を見届けた女です。彼女はイエスが昇天して自分の元を去ってからも、愛ゆえにイエスを求め続けていました。

年を経て、いくつかの噂も耳に入りました。イエスを見た、あるいは復活のお告げがあった……。彼女はいつも訪れて確かめましたが、真実だったことは一度もありませんでした。彼女はいつも裏切られ、そのたびに失望から立ち上がる努力をしなければなりませんでした。

そしていつか、マグダラのマリアも老婆になりました。可愛らしい赤味を差していた頬は腐った桃のように垂れ下がり、澄んだ泉のようだった瞳は皺だらけのまぶたで隠れがちです。失望の連続は彼女から笑顔をも奪いました。若かりし日を思い出させるものは、つんと高い鼻しかなく、それさえも名残りのようなものでしかありませんでした。

若い頃に出会った聖者への愛を後生大事に守りつづけ、探し求めるだけで終わりつつある自分の人生。それを思い返すことは、ほんの少しの後悔を伴いはしますが、結局は甘やかな痛みとして喜びが湧き上がってくるのです。

福音書というイエスの伝記が書かれたという噂を聞いたのは、マリアの晩年も訪れようという頃でした。しかも、その作者はイエスの十二使徒だというのです。ゼカリヤにいるというその男の元を目指し、マリアは老身に鞭を打ちました。

いざゼカリヤに着くと、作者はたしかに十二使徒の一人マタイでしたが、すでに死んでいました。彼女は旧知の人とイエスの思い出を語らうことができずに悲しみましたが、書かれた福音書を読んで気持ちを和らげました。

2015年7月12日公開

作品集『東京守護天使』第12話 (全13話)

東京守護天使

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© 2015 高橋文樹

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