アメブロ

小林TKG

小説

3,677文字

こちらは人生逆噴射文学賞の一次審査を通過しなかったやつです。でも諏訪さんがこれも一次を通過させようとしてくれていて、それで、だから惚れそうでした。すいませんって思ってました。お手数をおかけしてすいません。って。あと惚れそうでした。

父が死んで以降、SNSに対しての気持ちの減少が否めない。そんな訳無い。自分に対して何度となく問いかけているのだけど、最近、どうもこれは幻覚ではないようだ。気のせいでもないようだ。もうこれ以上は気のせいで済ませておけない。そう思えて来た。

なぜ、父と私のSNSが関係してるかといえば、それは彼が私のアメブロを長年にわたって眺めていたかだろうと思う。

そもそも私がアメブロ、SNSを始めた理由はお話を書く練習の為であった。
「お話を書くとは言っても、そうそう思いつくものでもないだろうし、でも何もやらないとキーボードを打つ為の、タイピング力も減少するだろうし、何か、アメブロとかやってたらいいかあ」

なんとなく私はアメブロを始めた。

私がこういう事を始めた当時、小説投稿サイトというのはなろうと、他にもなんかあったって聞いたはずだけど覚えていない。ある他人が、私になろうというサイトがあると教えてくれた。その他人は私に、
「何か話書いて。それに僕が絵を描くから」

という事を言ってきた。そんなの全く、一切、やった事ない私に何か話を書けと強要してきて。でもなんとか頑張って、絞り出して一応出来ましたって出したら、なんか、それが多分その他人が思った感じと違ったらんだろうな。その他人は私がもっと、俗な言い方をしたら商品。お金になるようなものを書くと思っていたんだろう。胸アツとか。萌え系とか。キャラ立ちしてるとか。そういうの。でも、出されたのが全然違う。苦悩とか懊悩が散見されるようなもので。私の。醜い。

だからそいつは私が絞り出した話に絵なんて描かなかったし。それ以降そいつはすぐにそういう事を止めてしまった。面倒になったんだろう。でも私は私で、扉を開いてしまって。新しい。自分の。扉が開かれてしまっていて。だから別の話を書いて提出したりもした。でも、もうそいつは読まなかったし。絵も描かなかったし。液タブ持ってたけどそれも物に埋もれてしまっていたし。もう目が覚めてしまっていた。だから私の対応すら面倒で。疎ましくて。それでなろうを教えてきたんだ。もう嫌だったんでしょ。私はじゃあ、とりあえずそこに投げますってなった。

その後すぐに私のファーストインパクトも終わった。お話なんてもう何も思いつかなくなった。その時に私も目が覚めるべきだったんだと思う。でも、私は、どうしようってなって。それでアメブロに行った。それからややあってTwitter(現X)にも登録して、またなんやかんやあって、今に至る。

アメブロには日々の事を書いておこうと思った。タイピングの練習も兼ねて。あとそうして残しておいたら後で使えるんじゃないかと思ったりもした。誰も見てないアメブロ。どうでもいい奴のアメブロ。有象無象の。

しかし、そのうち私にもSNSを始める人間の大半と同じように、醜い認証欲求が湧いてきて、誰も見てないのが辛くなってきて。

それである年のお盆だか年末だかに実家に帰省した際、父親に打ち明けた。
「私アメブロやってるんです」

自分の恥ずかしい事を告白するみたいに。

その日から、まあ、それ以降も醜い認証欲求の類はあったけど、でもアメブロの主な用途が、実家に私が生きていますという事を伝える為の手段に変わった。アメブロを更新するという事は、私が生きているという事。だから電話をして生存確認をする必要もない。そういうものに変わった。

父は私のアメブロを見て、母親に、勿論母親はそんな他人が書いた日記、日常の話になんて興味ない。一切無い。子供が書いたものだろうと興味ない。あの人は自分の事、自分のまわりの事にしか興味ない。私が生きてるかどうかには多少興味を持ってくれてるようだけど、書いたものには興味ない。

父親は私のアメブロを毎日眺めていたそうだ。父親だって本当は他人の書いた日常の話になんて興味なかったんだろうけども。でも彼は母親と違って読書が趣味で、だから文字を読むことに拒絶も、抵抗も無かったんだろう。昔の人のエッセイとかも読んでたし。

父親は私のアメブロを見て、母親に、
「あいつ、あれが食べたいって言ってるぞ」

と、茄子の揚げびたしの事とかレンコンと挽き肉の炒め物の事とか、筑前煮の事とかを話していたらしい。

その後、母親から電話が来て、
「お父さんに、あんたがやってるブログで、なんか食べたいとかって書いてたって言われたわ。あれまた作ったから送るから」

そういう流れが出来た。流通経路の様な。

晩年の父と私はアメブロによって繋がっていた。なんて言うと大げさだけども、でも、最後、死ぬ直前まで、父親は毎日パソコンをつけっぱなしにして、dTV(現レミノ)やらネトフリを垂れ流していた。更にラジオもつけっぱにして、そんな状態で本を読んで、私のアメブロも見ていた。だから私が帰省すると、お前のブログは適当だなあ。へへへ、へへへへという会話が出来た。

その父が死んで、それで、私のアメブロに対しての気持ちが小さくなった、

そんな訳無い。父親が私のアメブロを見ていたというのはあくまでもオマケだ。私は、私のアメブロに対しての気持ちは父が死ぬ前と変わってない。

私が勝手に始めたアメブロだ。誰に頼まれたわけでもない。勝手に始めたくせに勝手にやめるというのは礼儀がなってない。私はこれからも変わらないスタンスでアメブロをやって行く。

絶対に。そう思ってはいたが、しかし、どうも、どうやら、気持ちはあるけど、でも、なんか。やっぱり。

父の死は私のアメブロに影響を及ぼしたみたいだった。

アメブロがそうなると、他の部分にもそれが波及した。アメブロをやらない日は他の事もやらない。Twitter(現X)でつぶやいたりしないし、tumblerもマストドンもやらない。FC2ブログもやらなければ、はてなブログもやらない。

父が生きていた頃にやっていたアメブロは私にとって腰や首、背骨のような役割だったのかもしれない。父が死んでから、そう思うようになった。父が生きていた頃は一切そんな事考えなかったのに。

父が死んで、実家に生存報告をする必要が無くなった。母親は端から興味ない。

だからもしかしたら、もうSNSをやらなくてもいいのかもしれない。父が死んでもう誰も見ていないアメブロをやる必要は無いのかもしれない。

でも、それなのに、やめられなかった。

やめられないのだ。

そういう事態に苛まれててしまった。

自分ではもうやめられない。

誰かが私を無人島なんかに放置したりしたらやめられるかもしれない。でもそういう事は無い。そんなことはありえない。

私はいつの間にか、いつの間にやら今の私に執着している。執着していた。

自分では止められない類の執着。

やめようと思ってもやめられない。気が付くと今日は何を書こうかな。と考えている。父親の事を考えている。実家の事を考えている。実家の人が見ても文句言われない事を書かないとなあ。と考えている。

アメブロは実家、父が見ているから無難な事を書かなくては。泥酔して廊下でおしっこをしたとか、そういうのはFC2ブログとかはてなブログで書けばいいか。ふとそんな事を考えている。

それは無意識に去来する。いつの間にか。

父が死んでも、父が見ていると思ってしまう。これはダメだな実家が見ているから。そういう風に考えている。考えないようにしてもやって来る。意識と意識の狭間にやって来る。いつの間にか。時間みたいに。朝みたいに。夜みたいに。空気みたいに。

だから、それで、もう、思った。

実家が無くなれば、もしかしたら、やめれるかもしれない。一切合切、やめれるかも。

お盆に実家に帰省した。前の年に父が死んだので、今年はその父の初盆であった。

お盆が終わった次の日の朝、いつも私が一番早く起きる。同じく帰省していた姉も母親もまだ別室で寝ている時間。私は起きた。

それからトイレの為に一階に降りて、その後に台所に行ってある引き出しを開けた。子供の頃その引き出しには金づちや鉈、ノミがしまってあった。私が高校生になった位の時に父がそれらを使って木の二段ベッドを単なる木っ端にしていた。

しかし父が死んで以降、家のものを整理している母親がどかしたのか、その引き出しには金づちも鉈もノミも入っていなかった。

仕方なく台所の包丁を探そうと思った。でもまだ薄暗くてそれもちょっとわからない。

ナイロンの紐や、頭をすっぽり覆える様なビニール袋はあったが、しかしそれはどうも違う気がした。私の中で。そうじゃない。

やっぱり金づちや鉈、ノミがいいなあ。二段ベッドみたいに。父が解体した二段ベッドみたいに。バラバラの二段ベッドみたいに。

時計を見るとまだ朝の四時だった。仕方ないのでもう少し寝る事にした。音をたてないように階段を上がった。自分の部屋に帰る前に母親と姉が寝ている部屋の様子を伺った。二人ともぐっすりと眠っているようだった。

今。

金づちと鉈、ノミがあれば。そう思った。

あ、玄関の脇に石があった。砂利の所に。大きめの。とりあえずそれでも、それで、それから考えようか。石で。とりあえず。

2024年3月3日公開

© 2024 小林TKG

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