クリスマスプレゼント

諏訪真

小説

1,516文字

人が人に物を贈っているのを見るのも、そして必要なときに受け取れないのも、全部不愉快だった。

小学校に入って間がない頃だったと思う。

当時大流行していたアニメがあって、その関連玩具が欲しくてしょうがなく、俺は毎日それを親にねだっていた。男児向けの玩具としてはやや高級で超合金性のしっかりした造りのものだった。その値段に反して、当時の人気は凄まじく、周りでそれを持っていないのが俺と他数人だった。クラスの中心とそれに近い奴らは皆持っていて、俺は悔しくてしょうがなかった。持ってないことで囃し立てられるということも無くもなかったが、どちらかというとそのみっともなさと悔しさが、やがて俺の要求を無視する両親への恨みへと変わっていった。

半年もすぎる頃、流行の中心は超合金のような高価なものから、プラモデルのような安価なものへとシフトしていった。小遣いでも買える程度の安さで、所有そのものがヒエラルキーとなるほどの加熱ではなかった。俺の当時の関心は寧ろビデオゲームのソフトとかに向いていた気がする。クリスマスを前にして、何かしらのものが貰えると期待していた。

 

12月25日、学校から帰るとやけに大きな包みが置いてあった。プラモデルにしてはやや大きかった。ゲームソフトにしては大きいのでひょっとしたら別のものかもしれないが、期待して開けてみると半年以上前にねだっていた超合金だった。俺は突然半年前のことを思い出し、悔しさがこみ上げてきた。冷静な頭でも親の意図を理解しかねているのに、この状態ではもう馬鹿にされているとしか感じなかった。包み紙でもう一度雑にラップすると、それを持ったまま近所の小川まできて、プレゼントを投げ捨てた。何もかもが憎たらしかった。

と、突然後ろから怒鳴り声がした。「何してんだお前」と。

振り返ると見知らぬオッサンがいた。今ならきっと不審者事案だったんだろうが、当時は割と緩かった。どんな顔だったかはよく覚えていないが、ズングリした作業着姿のオッサンだったことは覚えている。俺の様子もただならぬものがあったので、何かを察するものがあったんだろう。

何を思ったかそのオッサンが川に入ってプレゼントの箱を拾った。当時の俺からするとかなり深い川に見えたが、大人からすると腰まで浸かる程度のものだった。プレゼントを拾ってくるなりいきなりゲンコツを貰い、「馬鹿なことしてんじゃねえ」とプレゼントを押し付けて、そのままどこかへ去っていった。

俺は泣きながらそれを持って帰った。泣くというより、押し殺しても涙が溢れ出て止まらなかった。ずぶ濡れの箱はゴミ袋に突っ込んで縛ったまま、押し入れに放り込んでいた。その日のクリスマスディナーのステーキの味も、全く覚えていない。はっきり記憶しているのは、親父の渾身のドヤ顔だった。このとき親への感謝など死んでもするものかという反骨と、復讐の誓いを貫いた。

 

それから暫くの間、俺の目標はそのプレゼントをいかに処分するかというものになった。結局念願かなったのは年が明けてからだった。自転車で家からかなり離れた山中まで移動し、ガードレールの向こうにゴミ袋に包んだままのプレゼントを放り投げたとき、俺は勝ち誇っていた。

だが、ふとあの小汚い身なりのオッサンのことを思い出した。川に入ってプレゼントを拾い上げ、ゲンコツとともに俺に返してくれたおせっかいなオッサンは、ここにはいない。目的は達成したはずなのに、泣きそうな気分だった。初めから終わりまで、本当は何がしたかったのかは知らなかった。

思い返すと親父のドヤ顔も、それが本当に俺をやり込めたというものか、それとも思いやりなのか、どちらか片方ということは絶対にありえないということだけは当時の俺にも理解できた。だがその配分は今でも分からない。

2020年12月24日公開

© 2020 諏訪真

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"クリスマスプレゼント"へのコメント 1

  • 投稿者 | 2020-12-26 13:33

    子どもの頃の気持ちを思い出させてくれた良作でした。子供の視点の描写からそれぞれの思いが伝わって来て、泣いていいのか笑っていいのか。

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