決闘

渡海 小波津

小説

1,250文字

礼節とは何か、受け止めることを現代人に問う

相手の腕がやや下がってきたように感じる。いや、それはこの時間に耐えがたくなってきたからではないだろう。焦っている様子もない。向こうも気付かずに腕が下がっているのだろう。

私は、まさに殺されるか、殺すかの瀬戸際に立っている。私の名は田名部本正(もとまさ)。私の討つべきは佐藤吉平(よしひら)。和泉清定様御立会いのもと此度の決闘を執り行うこととなったのである。私も佐藤殿も双方了解のもとの決闘故、このような場を与えて頂けることとなった。理由は至極単純で、この冬、城内の士に指南をすべき者を探しているという噂を聞き、私も佐藤殿も城下町まで来ていたのだ。

それが、先日酒屋で佐藤殿を見かけ、どちらからとなく話をするに至ったのだが、そこでどちらの剣が真の武士たるに値するかという点で争論になり、ヒートアップしてしまったためか役人から注意を言い渡されてしまったのだ。その際の理由を城主和泉様がお耳にしたらしく、ならばということで今に至るのである。

相手に不足はなし。佐藤殿と言えば、武蔵の南に道場を構える名のある流派と聞く。門下生は多く、私の村からも何人か弟子入りしようと足を運んだ者がいたが、厳しさから二、三日で戻ってくるものがほとんどであった。確か、先日の話では、佐藤殿が指南役になった際にはご子息に道場を継がせると言っていたが、私が、父である佐藤吉平殿を討ってしまってはご子息も残された妻も後々辛かろうか。否々、指南役として選ばれた者に討たれたとなれば、むしろ名誉の死であろう。それに、私も討たれるわけにもいかぬのである。

私とて、田舎侍なれど、妻子おり、村の若い士に剣の道を教えておる。剣はそのものではない、それを扱う者の心に真価を問われるものなのだ。これが我が道場のモットーであり、私の独学流にこだわる所以はそれ故である。門下生は今十六名。先日、京の都から来たという平太は、まだ剣でもって力を示すということしか言わん少年で、これから教えねばならぬことも多い。それに百姓だ。村の百姓は年寄りばかり。私と門下生で畑仕事を手伝うのも日課の一つであり、これもまた心の鍛錬である。食わねば人は死ぬ。これを作り、我々に売ってくれるのは間違いなく百姓である。特に村の百姓は気前もよく、町の市場よりも安く良いものを売ってくれる。私たちは、いつもこの百姓に感謝をしなくてはならないのだ。言葉でなくてもよい、美味いと言って飯を食えばそれでも十分礼は伝わるもの。すなわち、人の想い、行動に対して受け手側がいかに正面からそれを受け止めようとするかという心構えが重要である。これをなにとなく受け流すがごとくすませることは無礼以外の何物でもない。

これは剣とて同じこと。私も佐藤殿も様々な人、己の明日、今まで歩んできた道を背負って今にいる。私はこれを受け止めねばならぬ。また佐藤殿にもどうようの想いでもって受けて頂きたく存じる。

そういったことを一切考えずに相手を見る。手元がやや下がったように感じる。

刃が肉を断つ感触がした。

2012年6月22日公開

© 2012 渡海 小波津

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