高木くんのすごいおなかのじゅう

合評会2019年11月応募作品

島田梟

小説

2,218文字

2019年11月合評会「銃」 参加作品

高木くんと「ぼく」の心温まる友情を描いたお話です。
(使用する漢字は文科省の「学年別漢字配当表」を参考にしました。 URL:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syo/koku/001.htm)

三年一組 平さわ 歩

 

ぼくのいちばんの友だちは高木くんです。高木くんはおなかのなかにじゅうが入ってるっていってました。どんなじゅうってきいたらバババババンってうてるやつと言ってました。じゃあうってよとぼくはまえのまえの週の水曜日にいいました。

そしたら、だめといわれました。なんでってきいたら、いまはバラバラだからといわれました。

高木くんにいくらきいてもわからなかったので、高木くんのおじさんにしつ問しました。高木くんのおじさんはたまにおか子くれるからぼくはすきです。でも、水曜日はおか子をくれませんでした。でも、しつ問の答えのメモはくれたのでよかったです。メモはむずかしいので書きうつしたらとお母さんにいわれたから、いわれた通りにしました。

「亮太の銃は普段解体され、肉体という名の海原を循環しているんだ。そりゃそうだ、組み立てたら危ないもんな。マガジンは頭、弾は尻、銃本体は心臓にある。が、ところがどっこい、場所はちょくちょく変わる。野菜食わない奴は場所が一定しない。だから亮太は銃を使いたいと思っても腹まで集めるのにそこから四、五日かかるんだ。難儀なもんだ」

つかれました。

お母さんにやさしく言ってもらったら、やっとおじさんのメモがわかりました。だからぼくは五日後に見せてよといいました。そしたらまたダメでした。なんでときいたら、つかれるからみたいです。どれくらいと聞いたら、高木くんは三十キロマラソン走ったくらいと答えました。五日間ずっとマラソンだぞ、ずっとだぞとおこってました。ぼくは木曜日にだまりました。

でも金曜日にまたいいました。高木くんはもうおこってなかったからです。

「じゅうを見せて」

「死ぬからむり」

ぼくはおか子とゲームをあげるとやくしました。やっぱりだめでした。

「ぜっ交だ!」

もう一回高木くんがめちゃくちゃおこって、ぼくたちはぜっ交しました。夜お母さんに学校の話をしたらこう言われました。

「友達は人生において最も価値のある宝物。友達がいなければ、人生の大半は味気ないものになってしまう。私を見てみなさい。すっかりおばさんでしょう? 友達がいないとこうなるの。だからね、来週必ずごめんなさいって言いなさい。悪くなくても頭を下げなさい。天からの祝福は真に首を垂れる者にのみ与えられるのだから」

字がきれいなのはお母さんが書いたからです。ぼくは横で見ていました。お母さんは手もきれいです。お母さんはおばさんというより、若いおばさんだと思います。

ねるとき、大へんなことをしてしまったと思いました。高木くんと遊べなくなるのはいやでした。でもお母さんはごめんなさいすれば大じょうぶといってました。大じょうぶなので、なきかけたけどやめました。

月曜日に学校に行ったら高木くんが先にあやまりました。

「ごめん」

「こっちこそ。もうじゅう見たいなんていわない」

「うん」

ぼくたちはぜっ交じゃなくなりました。よかったです。じゅうはいいやとおもいました。

水曜日ぼくはショウくんとタクヤくんによばれました。ふたりは体育館のうらでいやなことをときどきします。水曜日もされました。悪口を言ったあとで、かたをおされました。体もけられました。お母さんと先生はぼう力はいけないといっていたのでぼくはがまんしました。

タクヤくんはなけよといいましたが、ぼくはなかないことにしました。ショウくんがまたけりました。

そしたら高木くんが来てくれました。高木くんはおこっていかくしました。しばらくけんかしてましたが、高木くんは急におなかをおさえました。あせを一ぱいかいた高木くんは苦しそうにおえっとはきました。

「こいつ、はいた」

「キモい」

ショウくんとタクヤくんがいいました。ぼくもキモいなと思いました。

地面に生き物が落ちてました。ピクピクしてたので魚っぽかったです。お父さんが昔つってきたまずい魚にそっくりでした。

高木くんは拾って当たれーといいました。本当は死ねーと言ってたけど、お母さんにダメといわれました。みんな使ってるのになんでときいたら、こわい言葉だからダメといわれました。だから死ねーじゃなくて当たれーになりました。

タクヤくんのかたに玉が当たりました。でも死んでません。ちょっと血が出てました。

タクヤくんはすごくなきました。顔がぐにゃぐにゃでした。ぼくもいじめられてないたらぐにゃぐにゃになるからいやな気分になりました。ショウくんはおしっこもらしてました。ぼくはそこまでしません。

音がうるさかったせいで先生が来ました。ショウくんとタクヤくんはうたれたといいました。ぼくも高木くんがうったといいました。

「うそはいけません。じゅうなんて、どこにあるんですか」

高木くんはもう魚みたいなじゅうを飲みこんでいました。先生はおかしいなあと言いながら、タクヤくんをほけん室につれていきました。ショウくんは自分でどこかにいっちゃったから知りません。

「ありがとう」

ぼくはちゃんと高木くんにお礼を言いました。

「いいよ、気にしないで」

高木くんはわらってゲップしました。口はわりとくさかったです。

魚みたいなじゅうなんてあるんでしょうか? ぼくはじゅうに見えませんでした。でも後で高木くんのおじさんにきいたら、それはじゅうだといってたのでやっぱりじゅうです。

高木くんはぼくのヒーローです。でも、じゅうができるの時間かかるから、みんなぼくをいじめないでください。おねがいします。

 

おわり

2019年10月21日公開

© 2019 島田梟

これはの応募作品です。
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"高木くんのすごいおなかのじゅう"へのコメント 14

  • 投稿者 | 2019-10-29 19:48

    読ませていただきました。
    どことなくズレている世界線を感じました。まともなはずなのに、読んでる自分がいつの間にかまともじゃなくなってしまったんじゃないかと錯覚しました。

  • 投稿者 | 2019-11-09 07:49

    拝読いたしました!
    作りが丁寧で安心して読み進めることができました。漢字対応表に照らしたりももちろんですが、お母さんが宗教家だったり、高木くんが銃を用意するのに五日かかるといいつつ主人公がいじめられると銃を用意することができて、逆算すると五日前は高木くんと主人公が喧嘩した日だったり……など。そういう作り込まれたディテールが説明無しに提示されて、それがひとつの作品世界をしっかりと構成していると感じました。
    個人的にひとつ思ったのは、文章がどうしても「大人が書いた子供の文」に留まっているということでした。構成も文章も整然としているので、そこは敢えてもっと支離滅裂風に作り込んでもよかったのかなと。それによって「おじさんのメモ」と「お母さんの話」という唐突に挿入される異物としての「大人の言葉」が活きてくるのではないかと思いました。今の文章のままでは、敢えて大人の言葉を入れた効果があまり見受けられないように感じました。
    たわけ素人の個人的感想ですので、ご参考程度に見ていただければと思います……!

  • 投稿者 | 2019-11-11 20:54

    職人芸の掌編。「なんか面白い」を科学している。「木曜日にだまりました」からの「金曜日にまたいいました」は、あざといなーと思いつつ、やっぱり笑っちゃいますね。上手い。

  • 投稿者 | 2019-11-16 00:32

    終わりの文は、ジョークの一種なのか、それとも本当にいじめをやめてほしいと願っているのか、どちらなのだろうかと思いました。もしも後者なら、高木くんとは「ぼく」のあたまのなかで生み出された架空の友達なのではないかと思いました。

  • 編集者 | 2019-11-18 11:37

    子どもの作文を通して見る世界と、世界そのものの異変が良く合わさった作品だった。俺も小さいとき、こんな吐瀉式銃でも良いから欲しかったと思う。

  • 編集者 | 2019-11-18 12:37

    文科省の資料が公開されているのは良いことですね。掌編を作り込む熱意に敬服します。卍ノ輔さんの指摘にもありましたが、作り込まれ方が大人の思想を喚起させるというのは確かにあると思いました。個人的には途中のおじさんの話とお母さんの台詞が挟まれることでそれは強化されているように感じたので、作文と外の世界を明確に分けて構成しても良かったのではないか、と思いました。

  • 投稿者 | 2019-11-19 19:03

    子供の書いた文章に少し不思議を混ぜる手法は割とよく見かけるのですが、癖のある母親や高木君の叔父さんの生の言葉が入ることにより、物語に起伏が付いて良かったです。高木君が、恐らくぬめっとしていたであろう銃を掴み損ねなくて良かったです。

  • 投稿者 | 2019-11-21 23:04

    とても面白く拝読しました。身体の中に銃がバラバラに巡っているなんてワクワクします。野菜を食わない奴は場所が安定しないというくだりも好きです。子供の世界なので陰惨な話にならず童話のように展開するのもまた良いです。仲直りする会話など子供感が溢れてます。それにしても二人の友情の行く末が気になるところです。

  • 投稿者 | 2019-11-22 06:43

    子どもの作文を模した文体のみならず、メモ書きなのに話し言葉の語り口になっている点などの細部にも、不思議な世界観を演出しようとする作為がいちいち透けて見えてしまう。三人称のジュブナイル小説として書いても良かったのでは?

  • 投稿者 | 2019-11-22 13:27

    自分の作品の作り込みの甘さが恥ずかしくなるくらい、どこを見ても繊細で、手の込んだ文章だと感じました。

  • 投稿者 | 2019-11-22 14:47

    面白く読みました。文章には違和感が残りました。こどもの文章として、漢字、語彙、文章の長さなど気を配って書かれていますが、「読点」の打ち方は大人のように正確に打たれていると思います。句点もかなり正しいです。リズムが良すぎました。こどもの文章は何より、読点や句点のバランスが悪くて読みにくいです。島田さんの文章の上手さが出てしまっているのが残念(?)でした。

  • 投稿者 | 2019-11-23 14:53

    子どもの作文の中でどう演出していくのか、というのが小説上でかなり透けてみえたので、もうちょっとその凸凹がなくなればもっと面白くなるのかなと思いました。

  • 投稿者 | 2019-11-23 22:35

    平然と変なことが行われるのが好きで、これはまさにそんな感じでした。好きです。ただ、小学生ぽさの演出が、ややあざといのかなとは感じました。でも面白かったです。

  • 投稿者 | 2019-11-24 14:15

    新しい方から読んできたら一服の清涼剤になる、とか思ったら結構な劇薬でした。

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