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明日世界が確実に滅びるとして(第3話)

波野發作

小説

1,259文字

軍人は軍では誰も殺すことはなかった。システムではすでに22人を屠ってきた。殺すために必要なのは銃や兵器ではない。ただ気合をこめて相手を睨むだけだ。それで誰でも死んでいく。

思考Log:No.8589932652

Command:REC

 

いつまでこんなことを続けるのか。

もうわたしはこれまでに22人を殺してきた。

殺してきたということでいいのかわからないが、とにかくわたしは生きていて、相手は死んだ。

女でも男でも子供でも老人でもみな死ぬ。

わたしは死なない。

 

わたしだけが死なないのにはなにか理由があるのだろう。

それについて考えてきたが、結論は、わからないということだ。

わたしがこの箱にとこじめられてから半月以上が経過したが、〈ファーザー〉は何も答えない。

なにを問うても答えることはなかった。

 

わたしが行方不明となれば、軍が動くはずだが、そのような気配はない。

いくら長年戦争をしていない軍隊だとしても、将校が行方不明となれば何もしないわけはない。

いずれこの白い壁がやぶられて、特殊部隊が救出にくるはずなのである。

 

最初に死んだのは、あの女だ。

ベッドで横で寝ていたあの女。

わたしが拉致される原因となったのはあの女に違いない。

麻薬王チャゾの姪だったか孫だったか。

くそ。

 

女はわたしのまえに現れた。わたしが何を言っても聞こうとせず、

ただうろたえて、おびえて、そして花が回り、女は穴に消えた。

落ち着いていたわたしはこうして今も生きている。

 

おそらくこのゲエムは、度胸を試すものなのだろう。

わたしも伊達に軍に長くいない。戦争はなくとも作戦はこなしてきた。

訓練も鍛錬も欠かすことはない。

どっしりと構えておれば、花びらはわたしに残る。それでいい。

今日もそれで生き延びる。助けが来るまで生き延びてやる。

そして、このくだらないシステムを作った輩を必ず法廷に引き出して、断罪するのだ。

 

どうやら今日もゲエムは行われるようだ。

扉の向こうには、わたしと同世代の男がいた。

わたしにはわかる。ヤツも軍人だ。落ち着いた様子。

悟りきった表情。死を覚悟してなおも戦える、鍛えられた男だ。

負けるわけにはいかない。生き延びるのはわたしだ。

 

男は何か話しているが、よくわからない。

チャイニーズかと思ったがジャパニーズかもしれない。

いやベトナム人か。

わたしも話しかけるが、こちらの言葉はわからないようだ。

 

花びらが現れた。巨大な花びらだ。

手が届かないのではっきりとはわからないが、おそらく実体はない。

この部屋も実体はないはずだ。

壁に手を伸ばしても触れられない。

床も立体映像で、どこまでがほんもの床かまったくわからない。

 

花びらが回り始めた。

わたしと、相手と、交互に止まって花びらが消えていく。

ウノ、ドス、トレ・・・。

おかしい。このままでは。

いかん。間違えている。システムの管理者は間違えている。

すぐに花を止めるのだ。

わたしが落ちることになっている。間違いだ。

わたしの方で花が二枚ある。

一枚が消える。

花が回る。

最後の一枚が向こう側で消える。

わたしの足元が消える。

花の向こうの男が視界から消える。

わたしの意識が消え

 

 

EOF

2018年9月12日公開

作品集『明日世界が確実に滅びるとして』最新話 (全3話)

© 2018 波野發作

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