金魚

合評会2018年09月応募作品

波野發作

小説

4,299文字

嘘だと思って読んでください。

平成30年9月度破滅派合評応募作品。

RT
フェイク乙藁

 

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インターネットは作り話ばかりで嫌になる。

今日もこんなベタなネタを拾った。

 

どうせウソだろう思うが、一応晒しておく。

 

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嫁さんが里帰り出産でいないので、

デリヘルでも呼ぼうかと思ったものの、

普段使ってるPCだとどっかにログが残って

あとでバレそうだから、しまいこんであった古いPCを使おうとしたら

ちょっとヤバイものを見つけてしまって、

対応に困っている。

 

どうしたらいいだろう。

まずは嘘だと思ってこれを読んでみてくれ。

 

以下原文ママ

 

 

*********************************************************

 

金魚です。

お久しぶりです。

 

最初にあやまらなければならないことがあります。

ごめんなさい。

実はわたしは金魚ではありません。

 

あ、金魚でもいいんですけど、あなたの知っている金魚ではありません。

あなたの知ってる金魚の、ともだちの者です。

それはリアルでのともだちということです。

 

わけあって、金魚のパソコンをもらって、それであなたにメッセージを送っていました。

本当にごめんなさい。

だますつもりだったのではないのです。

金魚が好きだったあなたがどんなひとだったのか気になって、メッセージを送ってしまいました。

それで、自分が許せなくなって、それでしばらく間があいてしまったのです。

あなたはわたしに謝罪のメールをくれましたが、あなたに悪いところはありません。

ぜんぶわたしが悪いのです。

 

すこしだけ長い話になります。

このままだまって消えてしまおうかと思ったのですが、

それだとたぶん本物の金魚がおこると思う。

だから伝えなきゃならないことは伝えようと思いました。

 

金魚のパソコンをもらって、しばらく中身を見る気にはなりませんでした。

それでも時間が経つと、いろいろ知りたくなるというか、

金魚が大好きだったあなたが、本当はどんな人だったのか、知りたくなったのです。

先に言っておくと、金魚とわたしは仲良しでしたが、恋人というわけではありません。

むしろライバル? 的な? そんな関係です。

どっちがしあわせか、いつも張り合って、それで笑って、いつも一緒にいました。

 

金魚はとてもやさしい子です。

思いやりがあって、先輩を立てて、後輩にもしたわれる子でした。

でもさみしがりやで、いつも夜になるとお酒を飲んでないていました。

そんなときなぐさめてあげるのは、わたしの役割でした。

でもあるときから、泣かなくなりました。

あなたと知り合ったころからだと思います。

毎日ずーっと楽しそうにあなたの話をしてきます。

正直に言います。わたしはあなたが嫌いでした。金魚をとられると思ったからです。

 

金魚があなたと会うということになって、一緒に服を選んだのはわたしです。

もうそのころはわたしもあきらめて、金魚とあなたを応援する気分になっていました。

それで、金魚があなたと会うという日に、もしあなたが現れなくて落ち込んで帰ってきたら、

全力でなぐさめてあげようと思って、金魚の家で待っていました。

 

その日、金魚は帰ってきませんでした。わたしはずっとあなたと一緒にいるのだと思っていました。

よかったなと、思ったのと、同時に、とてもさみしくなったのを今でも覚えています。

でも、金魚はあなたと会えなかったのですよね。

次の日に帰ってきた金魚がいっていました。

遠くからあなたを見ていたそうです。ずっと帰るまで。

あなたはお店が終わるまで、ずっといたそうですね。

金魚は泣いていました。勇気がだせなくてごめんなさいと泣いていました。

そのことだけは伝えたかった。

 

もう一つあやまらないといけないことがあります。

そのとき、わたしは少しうれしい気持ちになってしまいました。

金魚にはやっぱりわたししかないのだと思ったからです。

でもそれは間違っていました。

金魚にはもうあなたしか見えていなかったのです。

 

金魚はそれっきりもうあなたに連絡を取らなくなったと思っていたでしょう?

それは間違いです。

その少しあとぐらいに知り合った、コンパスという人がいたと思います。

それは金魚です。わたしは横で見ていたので知っているのです。

 

あなたに会う勇気が出せなかったことで、金魚はもうあなたをあきらめることに決めていました。

それでも、やっぱりあなたの本心が知りたくて、コンパスを名乗ってあなたに近づいたんです。

あなたは落ち込んでいましたよね。好きな人と会えなくて、連絡も来なくなって寂しいと言っていましたよね。

それで、金魚は、あなたも同じように思っていてくれたことを確信して、

 

それでもやっぱりどうしても会えないと、

死にました。

 

文字にすると、辛いです。

でもやっぱり伝えないといけない。

金魚は、本当の金魚は、男の子です。

 

とても驚いたと思います。ネットでは完全に女の子でしたから。

一度写真を見せましたよね。あれはわたしです。

ごめんなさい。

だまそうとしたんじゃないんです。

どうしても言い出せなかったんだと思います。

勝手にわたしの写真を使っていたみたいです。

 

これは金魚が亡くなってから形見にパソコンを引き継いで、はじめてわかったことです。

パソコンは中身をみないで処分するつもりだったんですが、

どうしてもあなたのことが気になって、

金魚に会いたくてさみしくてわたしも死にそうなときに、見てしまいました。

ミクシーのログもメールもみんな見てしまったのです。

だから、わたしが金魚だって言っても信じてくれましたよね。

写真ももともとわたしの写真をあなたに見せていましたから、

わたしが金魚になるのはかんたんでした。

 

それでずっと金魚のふりをしていました。ごめんなさい。

あなたは会いたいとか会おうとか言いませんでしたよね。

一度待ちぼうけさせたことをいつか怒られると思っていたのに、

ずっと何も言わなかった。

 

金魚のふりをしてあなたと話していたら、わたしも変わってしまいました。

金魚があなたを好きになったわけが、よくわかりました。

 

ここからは嘘だと思って読んでください。

 

わたしもあなたが好きです。

金魚と同じぐらい好きです。

金魚よりもっと好きです。

でも、金魚の代わりにはなれません。

あなたが好きなのは金魚なんだと、

ずっと金魚を好きなのだと、わかってしまいました。

 

なので、わたしはあなたから離れました。

辛くて、さみしくて、金魚としてのわたしと、

あなたを好きなわたしと、金魚をすきなわたしが、

バラバラになりそうで、もう無理だったからです。

 

それで、パソコンを金魚の実家に返そうと思って、

実際に返してきました。

春からメールをしていなかったのは、そのためです。

ここは本当です。

 

それでなんでいまメールをしているかというと、

夢を見てしまったんです。

金魚が夢にでてきました。

金魚は、手のひらサイズのあなたをわたしに渡します。

とても小さなあなたが、写真のポーズでフィギュアみたいになっています。

金魚はそれをそっとつまんで、

「あげるね」

ってわたしに言うんです。

わたしはうけとれないって返したのですが、

きんぎょはにっこりわらって、いなくなります。

 

朝起きたら、まくらがびしょびしょになっていました。

ものすごく泣いていたみたいです。

 

だから、わたしはあなたに会うことに決めました。

明日、会う約束ですよね。

今このメッセージを送るかどうか、もう何時間も悩んでいます。

これを読んでも、まだわたしに会ってくれるのかどうか、

わかりません。

 

だまったまま会おうかとも思っていました。

いまでも思っています。

でも会う前に伝えないと、一生伝えないままじゃないかと思います。

それは怖いことです。

怖くてたまらない。

 

あなたがわたしが金魚じゃないことをわかってしまったとき、

どんな顔をするのか、本当にわからない。

どうしていいかわからない。

助けて欲しい。

 

わたしは金魚しかともだちがいませんでした。

いえ、本当は金魚のことが異性として大好きでした。

でも金魚はあなたが好きでした。

全部理解したと思っていたのですが、わたしにはちょっと難しかったかも。

 

あなたのなかでは、わたしはシンプルな金魚でしかないのでしょうけれど、

ほんとうの金魚はこんなに複雑な存在です。

試すようなことをして

ごめんなさい。

 

これを読んでもまだ会ってくれるなら、来てください。

わたしは、いつまでもいます。

あなたが大好きです。

あなたがどう思っても、大好きです。

 

こわいよ。

 

 

金魚ではないべつの誰か、より

 

 

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正直どうしていいかわからない。

やはり忠告どおり、他人のPCなど見るものではない。

それが家族だったとしてもだ。

 

とにかくPCを見ちゃったことは隠蔽しないと。

機動ログとかそういうのどこかに残ったりする?

デリヘル呼ぶどころじゃなくなちゃたわ。

 

 

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というお便りいただきました。

マジ?

いやマジじゃないよね。HAHAHA

これはなかなかないわー。

ユッチンどう思う?

え? リアル?

どうかなー。

 

じゃ曲行って。

今日のラスト・ナンバーは

DA・PUMPUNの「U.S.O」!

カモン!

2018年9月11日公開

© 2018 波野發作

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"金魚"へのコメント 5

  • 投稿者 | 2018-09-21 10:09

    引用の引用の引用の引用をするうちに元の話の真偽が疑わしくなっていくというネット社会への不信感がうまく表現されていると感じた。新しいテクノロジーに積極的に身を投じつつ、どこかで訝しく思うという両義性を作者は抱いているのかもしれない。そんな点について、私は勝手に強い親近感を覚えている。

    本作の語りの構成は以下の図のようになっているが、前半の「RTフェイク乙藁」と冷笑する人物(下図の1)とラジオDJ風に陽気に話を終わらせる人物(下図の1´)が同一の人物であるはずなのに、うまく整合していないように感じた。実際は1と1´は違う語りのレベルに属する別人物なので、もう一種類記号を用いて区別しないとつじつまが合わない。構成は巧妙であり高く評価できるが、若干策に溺れそうになっている危なっかしさがある。

    1.RTしている冷笑的な人物

    ******

    2.嘘だと思いつつネタとして拡散した人物

    ===

    3.デリヘルを呼びたくて古いPCを使った男

    ***
    4.金魚の友人のメール
    ***

    3´.3の人物が自分のPCでない(妻のPC?)であることを告白

    ===

    ******

    1´ラジオDJ風の人物

    内容に関しては、3´の「他人のPCなど見るものではない。それが家族だったとしても」というくだりで、実は妻も男性のふりをしていたということが示唆されるオチが非常に面白く感じた。性的アイデンティティーとして固定化されることのない、流動的な性のありように現代的なリアルさが感じられる。

    ただ、ハチの巣化したウェブ社会においては、男性が男性の交際相手を求めるときにはちゃんとゲイ専門の出会い系サイト、チャットサービス等が利用できるはずであり、女性のふりをして文通していたけど自分は実は男だから会えなくて死ぬという展開はいささか前世紀的であるように感じた(よく分からないが、太宰治風?)。最初から恋愛を目的としたやりとりをするのではなく、趣味のサイトで友人同士の関係からスタートして恋愛感情が芽生えてしまうという展開にすれば、たぶん本作の設定がうまく生かせるのではないか?

    いずれにせよ、古いパソコンに眠っているプライベートな内容をネットに晒した3の語り手がクズ野郎であることに変わりはない。

    本作は嘘という主題について知的に取り組んで巧みに作品の語りの構成に反映させており、全体的に非常に面白く読めた。星4つ!

  • 投稿者 | 2018-09-21 20:57

    話の構造が練られていて素晴らしいと思いました。構造全てを把握しているとは言えませんが、読みながら、どこが嘘でどこが嘘でないのか、あるいは全て嘘なのか、物語内には案外ほんの少ししか嘘はないんじゃないか、などと思いながら読み、そもそもフィクションだから全て嘘だと頭の片隅ではわかっていても、物語にのめり込むうちに、どこかに本当があってほしいと願いながら読んでいました。お題を活かした素敵な小説だと思いました。

  • 投稿者 | 2018-09-22 13:56

    一見複雑に層を重ねる構成でありながら、全体としてはハンバーガーのようにぺろっと食べられる、バランスの良い作品だと思いました。
    「嘘だと思って読んでください」を作品の中に取り込むのか、作品そのもののありかたを一種のフェイクとして提示するのか(フィクションとは別次元で)、その立場の取り方も今回はみなさんそれぞれだったと思います。
    波野さんらしい構成力と遊び心が効いていてよかったです。

  • 投稿者 | 2018-09-23 00:11

    嘘だと思って読んでも、痛々しい心情がつづられたメールに心打たれ、女の子が男の子だったり、男の子が女の子だったり、それが保管されているのが古いパソコンで誰の物か分からなかったりで、そこまでが嘘か、全部嘘か、どこかに本当のことがあるのかが分からず、悲しいメールだけが心に残ります。仕掛けが心憎い作品でした。

  • 編集者 | 2018-09-23 01:16

    何重にも虚構が入り混じっている濃密な作品だった。4000文字でもこれほどの構成に絡む「嘘」を書けるのだと感心した。構成の説明は藤城さんのコメント以上に何か言えそうにないが、「*」の内側だけでなく外側の些細な部分にも何かトリックがあるのだろうか。それともやっぱりただの煽り屋とDJなのか。
    現実の嘘がそうであるように、ネットでも何かを偽るとどんどん嘘が大きくなる、そう言う警鐘も感じた(そこまで深刻な嘘ではなさそうだが)。

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