時計

ゆすらうめ鉱(第3話)

ほろほろ落花生

小説

2,573文字

最深部で、人は泉を前にこうべを垂れます。

久しぶり。

こちらは青果物コーナー係のパルチザンじみた生活は変わらず。ゲリラ的な暗闘もそろそろ終わりを迎えそうだ。君は生きているだろうか。

この手紙とともに同封されている時計は文字通り私が命がけでつくって送るものだ。どうか肌身離さず。

そもそもこいつをどういう具合に使うかっていうと、ただ腕に巻いておけばいい。べつに首に巻きつけておいてもいいけれど、革紐なんかだと、妙な誤解を受けるかもしれない。

この時計には長針も短針もない。ちょうど君の鼓動にあわせて刻まれるようにつくられた針が一本あるばかりだ。だから正確な時間を知りたいときなんかは用をなさない。君が破壊されそうになったときにはいくらか役に立つだろう。

心配せずともいい。私は自分のからだで既に試してみた。ちゃんと使ってみたってこと。そのときはアメリカンチェリー線を全身から放射している男と向かい合っていた。彼の口からは例によって暗紅色の影が漏れ出していた。くらい汚染の予感が兆したから、この時計を使った。使ったというか、見つからないようにこっそり竜頭を押し込んで作動させたわけだ。

涼やかな倫理的律動リトム・エティックが体内に沁みこんできて、悪寒と震えはやわらぎ、呼吸が鎮まった。ご存じの通り、薬は私にはもう効かないからね。君と同様に。だからこの時計を使うしかない。

ま、問題はいまのところこの時計がひとつしか残ってないってことなんだ。だから君に送ってしまうと私は早晩死んでしまうだろう。時計があろうがなかろうが、結局のところこの手紙が届く頃には私は死んでるわけだしあまり関係はない。なぜ死ぬなんて羽目に陥ったかは後述する。

2015年9月3日公開

作品集『ゆすらうめ鉱』最終話 (全3話)

ゆすらうめ鉱

ゆすらうめ鉱は1話まで無料で読むことができます。 続きはAmazonでご利用ください。

Amazonへ行く
© 2015 ほろほろ落花生

読み終えたらレビューしてください

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


3.7 (3件の評価)

破滅チャートとは

この機能は廃止予定です。

タグ

この投稿にはまだ誰もタグをつけていません。ぜひ最初のタグをつけてください!

タグをつける

タグ付け機能は会員限定です。ログインまたは新規登録をしてください。

作者がつけたタグ

---

"時計"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る