今月は新潮、文學界、群像、すばるの4誌が発売された。4誌の概観をここで紹介しよう。

新潮 2023年10月号

・蓮實重彦による「午後の朝鮮薊あざみ」は、三島由紀夫賞を受賞した『伯爵夫人』(新潮社)の続編。伯爵夫人が姿を消してから三年。奔放な従妹は娘を遺してこの世を去り、その姉が童貞・二朗の前に現れる。戦火の下の鮮烈なエロスを描く。

・創作では、佐伯一麦「会津磐梯山」、本谷有希子「バーニラ バニラ バーニラ」、マーサ・ナカムラ「夏風邪」、小山田浩子「デンマーク・ローリング」、岡田利規による戯曲「宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓」を掲載。

・下西風澄による「宮﨑駿「君たちはどう生きるか」考ーー戦後と虚構、そして複数の母たちへ」。宮﨑駿の無意識や夢のなかを探索することは、日本人の自画像を発見しなおしていく作業だ。

・町屋良平による新連載「生活 第二部」がスタート。昨年、2022年6月号に第一回を発表していた著者による続編。

・『第55回新潮新人賞』予選通過作品が発表される。

文學界 2023年10月号

・【創作】文學界新人賞受賞作「アキちゃん」で『第163回芥川龍之介賞』候補になった三木三奈による新作中篇「アイスネルワイゼン」が掲載。
 
・【特集】「絲山秋子デビュー20年」として、最新連作集『神と黒蟹県』完結を機に、その軌跡と到達点を明かす。辻原登×絲山秋子の対談「小説の余白に信を置く」、田中和生による評論「絲山秋子論―連作作品集『神と黒蟹県』の地平」、そして絲山秋子インタビュー「言葉にならない「関係性」が面白い」を一挙。

・四方田犬彦による新連載「零落の賦」がスタート。第一回は「天上人間」。人はいかに零落し、その零落を生きるのだろうかーー栄光を極めた者だけに訪れる失墜の諸相。

・國分功一郎×若林正恭による対談「ビッグモーター化する世界の中で」。資本主義の魔物に、どう立ち向かっていけばよいのか――一年九カ月振り、三回目の対話。

群像 2023年10月号

・小川洋子による新連載がスタート。連作の一作目「骨壺のカルテット」は、VRアニメーション『耳に棲むもの』から生まれた、もうひとつの物語。

・創作読み切りは、本誌初登場となる西尾維新の長篇「鬼怒楯岩大吊橋ツキヌの汲めども尽きぬ随筆という題名の小説」を一挙掲載。昨年作家デビュー20周年を迎えた西尾維新が届ける令和の「猫」小説。そのほか、読み切り創作は、石沢麻依「琥珀の家の掌」、井戸川射子「風雨」、小野正嗣「宇宙塵」、高瀬隼子「花束の夜」。

・文×論×服「New Manual」第4回は、舞城王太郎が登場。異例の一挙108枚となる「デニムハンター」を寄稿。

・高山羽根子による新連載「いま、球場にいます」と、丸山俊一による新連載「ハザマの思考」がスタート。

・エレナ・ヤヌリス(多和田葉子訳)の「小川洋子の作品におけるエモーションの記号化とその情動と感情作用の可能性」。小川洋子の小説は、なぜ世界の読者の感情に訴えかけるのか。感情科学と文学研究の両面から小説の謎にアプローチする論考。

すばる 2023年10月号

・蓬莱竜太による戯曲「きのう下田のハーバーライトで」が掲載。

・【特集:哲学の言葉が必要だ】として、小川公代×戸谷洋志×中村佑子による鼎談「「生」に対して問いを立て続ける」、中島隆博による論考「日本と哲学」、古川日出男の論考「吉本隆明とあなたと美」、古田徹也のインタビュー「哲学と文学が重なるとき――ひとの心はわかるか――」、永井玲衣×冨岡薫×三浦隼暉による座談会「なぜわたしたちは哲学できないのか」が一挙掲載。

・江戸文芸にまつわるエッセイと三本のリメイク短編を収録した『江戸POP道中文字栗毛』が9月26日に刊行される児玉雨子。刊行を記念した、三宅香帆との対談「近世文芸はポップスだ!」。

・8月に刊行された『フェルナンド・ペソア伝』を記念し、著者である澤田直と山本貴光による対談「人はなぜペソアに惹かれるのか」を掲載。

・【追悼 ミラン・クンデラ】として、西永良成「ミラン・クンデラとの四五年」、阿部賢一「「人生のしめくくり」の書――ミラン・クンデラ『無意味の祝祭』を読む」。

以上、2023年9月発売の4誌について、概観を紹介した。読書の一助になれば幸いである。