今月は新潮、文學界、群像、すばるの4誌が発売された。4誌の概観をここで紹介しよう。

新潮 2023年9月号

・「テロと戦時下の2022~2023日記リレー」として、2022年7月1日から2023年6月30日までの1年間を52人の創作者がつなぐリレー方式の日記を一挙掲載。

・創作では、池澤夏樹「艱難辛苦の十三箇月」、円城塔「存在しなかった旧人類の記録」、小山田浩子「遭遇」。

・小川公代による論考「平野啓一郎と三島由紀夫ーーワイルドの“サロメ”的悲劇」。オスカー・ワイルド、三島、平野。ロマン主義の系譜と分人主義を接続する画期的な試み。

・野島直子による「女から女へと伝わる言葉ーー多和田葉子『旅をする裸の眼』論」では、マイノリティ論/フェミニズムを視座に、国際的作家の真の「世界文学」性を読み解く。

文學界 2023年9月号

・【特集】「エッセイが読みたい」として、27人の様々なキャリアを持つ書き手が大集合。「枕草子」から脈々と続くエッセイの面白さと奥深さをと共に味わい、エッセイの「いま」に迫る。さらに、「文学フリマでエッセイを買う」として、高瀬隼子「物語としてエッセイを読む」、大前粟生「グラデーションする「私」ら」。「論考」として、柿内正午「エッセイという演技」、宮崎智之「定義を拒み、内部に開け――エッセイという「文」の「芸」」など充実した内容。

・『ハンチバック』で芥川賞を受賞した市川沙央による特別エッセイ「前世の記憶」、菊間晴子による作品論「「受胎小説」の引力――市川沙央『ハンチバック』」が掲載。

・【追悼】「ミラン・クンデラ」として、沼野充義が「ヨーロッパ文化への亡命者」を寄稿。

・【創作】では、筒井康隆「山号寺号」、川上弘美「蜃気楼の牛」、井戸川射子「市場」、仙田学「その子はたち」、小林エリカ「風船爆弾フォリーズ」(短期集中連載 第三回)。

 なお、『文學界』は今号から電子書籍による販売を開始。『ハンチバック』を新人賞として送り出した役目を果たしたかたち。この動きは大いに歓迎したい。今後、他誌がどうなるかにも注目したい。

群像 2023年9月号

・【戦争特集・戦場の_ライフ】として、新田啓子の新連載「セキュリティの共和国――戦略文化とアメリカ文学」、阿部公彦のエッセイ「父が見た「事務と戦争」」、藤原辰史のエッセイ「日常の延長としての戦争」、保阪正康によるエッセイ「ネット時代の「戦陣訓」」、松永美穂による批評「記憶の貯蔵庫としての駅――『アウステルリッツ』とキンダートランスポート」を一挙掲載。

・【創作】は、井戸川射子による「池の中の」。平沢逸による中篇「その音は泡の音」も。

・新たに発見された、今年亡くなった大江健三郎とパスカル・キニャールによる2015年の仏プロヴァンス、エクス・アン・プロヴァンスで行われた公開対談の音源を活字化。「最も大切な人間の思想/歴史としてのユマニスム」を掲載。

・岩内章太郎による新連載エッセイ「星になっても」がスタート。

すばる 2023年9月号

・【小説】では、井上荒野「誰がいちばん」、天埜裕文「糸杉」、小山内恵美子「奇妙なふるまい」が掲載。

・【刊行記念対談】として、『流れる島と海の怪物』を6月に上梓した田中慎弥と、宇佐見りんによる対談「足掻きながら言葉を紡ぐ」、『いい子のあくび』が刊行された高瀬隼子とひらりさによる対談「〈いい子〉の向こう側へ」、『M』を6月に上梓した岩城けいと、小島慶子による対談「今の自分の居場所を求めて」が一挙掲載。

・【シドニー・マルディ・グラ紀行】として、李琴峰の「虹に彩られる季節(前編)」。

・高橋源一郎による「この素晴らしき世界」が最終回を迎える。

以上、2023年8月発売の4誌について、概観を紹介した。読書の一助になれば幸いである。