今月は新潮、文學界、群像、すばるの4誌が発売された。4誌の概観をここで紹介しよう。

新潮 2023年12月号

・創作では、筒井康隆の掌篇「東京にて 神戸にて」、九段理江「東京都同情塔」、野々井透「柘榴のもとで」、本谷有希子「回転寿司屋的この世界」、小野正嗣「同乗」、岩城けい「鷺たち」が掲載。

・谷川俊太郎による新作詩「舌を噛む 他三篇」。

・三浦佑之と町田康による初顔合わせ対談「よみがえる古事記」。

・個人的に注目したいのは、先日、中国で開催された世界SF大会や、紹興での日中青年作家会議を高山羽根子が実況報告する「中国で話される、日本のことばたち」。『三体』などで世界的ブームを巻き起こした中国文学シーンの今を高山はどう見たのか。

文學界 2023年12月号

・【巻頭表現】に鎌田尚美「シー・サイド」が登場。

・【創作】では、朝比奈秋「受け手のいない祈り」、加納愛子「かわいないで」、さらに二〇二三年下半期同人雑誌優秀作として、渡谷邦「水路」が掲載。
・高橋弘希×ピエール中野による対談「ロックバンドは終わらない――邦楽ロック五〇年クロニクル」。奈倉有里×逢坂冬馬「二人の合言葉は本」もあわせて。

群像 2023年12月号

・創作では、小川洋子の連作「耳たぶに触れる」、青木淳悟「春の苺」、小砂川チト「猿の戴冠式」、村雲菜月「コレクターズ・ハイ」が掲載。個人的に注目したいのは、小砂川チトによる群像新人文学賞受賞第一作「猿の戴冠式」と同じく村雲菜月の受賞第一作「コレクターズ・ハイ」。「猿の戴冠式」は、ある事件以降、引きこもっていた競歩選手のしふみが、テレビの中に「おねえちゃん」を見つけ動植物園へ向かう、という特異な設定も興味をそそる。「コレクターズ・ハイ」は、なにゅなにゅオタクの私、クレーンゲームオタクの森本さん、髪オタク美容師の品田という三方向のオタクが愛のトライアングルから抜け出せなくなる、というこれも読まなければ分からない独自の世界観を感じる。

・『マルクス解体 プロメテウスの夢とその先』刊行記念】として、今年2月に英語で出版された『Marx in the Anthropocene』が日本語に翻訳された斎藤幸平のロングインタビューを掲載(聞き手・構成=斎藤哲也)。

・【秋のエッセイフェス】として、11人が参加。石田光規「恋愛アニメの雪月花」、久保勇貴「星座が街に溶け込めば」、﨑川修「断ち切られた悲しみ」、末木新「「#国は安楽死を認めてください」について、どう考えるべきか」、武塙麻衣子「スナック涼のこと」、寺本愛さん「「おいしい」のリハビリ」、頭山ゆう紀「海を眺める」、徳田功「研究の愉しみ」、ひらいめぐみ「ふたつか、ひとつか」、牧野智和「「教養としての」とは何なのか」、ユリ・アボ「仏前のフェミニズム」が一挙。

・小川公代「翔ぶ女たち」、田中純「磯崎新論」、古井由吉「こんな日もある 競馬徒然草」がそれぞれ最終回を迎える。

すばる 2023年12月号

・滝口悠生による新連載「透波と乱波」がスタート。

・小説では、古川真人「シャンシャンパナ案内」、温又柔「二匹の虎」が掲載。さらに、ケリー・リンクの未邦訳短編「白猫の離婚」(訳・解説/金子ゆき子)が登場。

・『最愛の』刊行記念対談として、上田岳弘×高橋一生による「合理の激流に抗う、表現の力」。

・すばるクリティーク、赤井浩太による「堕天使の加速──Tohji論」が掲載。

・今年ノーベル文学賞を受賞したヨン・フォッセ。まだ邦訳されていない彼についてのエッセイ、横山義志「存在のゆらぎに耳を傾ける──ヨン・フォッセ『だれか、来る』とクロード・レジ」。

・奥泉光による連載「虚史のリズム(43)」が最終回を迎える。